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コンフェデ杯=Jリーグ育ちのセレソン=フッキ「日本に恩義ある」=30日世界王者と決勝戦へ=川崎フ、東京ヴェ後欧州へ

ニッケイ新聞 2013年6月29日

 【社友・スポーツライター、下薗昌記】来年のW杯本大会の前哨戦となるコンフェデ杯もいよいよ30日の決勝で大詰めを迎える。世界王者スペインをマラカナン競技場に迎え撃つブラジル代表で、レギュラーを勝ち取りつつあるフッキ(26歳)はJリーグを経て世界に羽ばたいた。胸に秘めるのはカナリア軍団の誇りと、日本への感謝の思いだ。

 フッキ。その風変わりな登録名を持つ屈強な男の名は、アメリカンコミック「超人ハルク」の物まねをすることが大好きだった幼少時に由来する。
 ポルトガルの名門ポルトから昨年ロシアのゼニトに移籍金50億円で移籍し、欧州で存在感を見せつつあるフッキ。2009年の代表初招集以来、ブラジル代表の常連となりつつあるが、それでもコンフェデ杯直前に行われたイングランド、フランス戦では試合途中に手厳しいサポーターからたびたびブーイングで指弾された。
 「僕は若い年齢でブラジルを離れたので、国内の人にあまり僕のプレースタイルを知られていないんだ」(フッキ)。サルヴァドールの名門、ヴィトーリアで公式戦わずか2試合に出場したばかりの18歳の少年フッキが、最初に経験した海外リーグが東洋の小さな島国だった。
 2005年から川崎フロンターレや東京ヴェルディなど約3年を日本で過ごし、人間離れしたフィジカルと強烈なシュートでファンを魅了。警告や退場も多く、一時は問題児扱いもされたがフッキ自身は「僕は日本で人間として成長した」とキッパリ言う。
 そんな背番号19にとって今大会の日本戦は、セレソンのキャリアにおいても分岐点となる試合だった。後半30分にピッチを退くフッキに対して、ブラジリアのサポーターたちは温かい拍手で迎えたのだ。
 「日本には恩義がある。日本戦は僕にとって毎試合特別さ」。昨年10月に続いて二度目となる「日の丸」との邂逅だったが、日本を尊敬する気持ちに変わりはない。15日の日本戦ではハーフタイムに本田とユニフォームを交換し「僕は本田に一目置いている。彼がロシアリーグで優勝したからおめでとうを伝えたんだ」。さらにかつて川崎フロンターレの僚友、GKの川島には試合中に「この試合と今大会の幸運を」と話しかけている。
 大会期間中に過激化する一方のデモについて問われると「ブラジル人の大半は貧しいし、教育と医療を改善しなければいけない。彼らの声に耳を傾けなきゃね」と自らの過去に重ね合わせるような殊勝なコメントをつぶやいたフッキ。そんな男がサッカー人生を賭けるのが今回のコンフェデ杯だ。
 「セレソン(代表)の試合は毎試合が人生を賭けた戦い」。献身的な守備と持ち味の突破力で、準決勝までの全5試合に先発しているフッキにはスコラーリ監督も戦術的な信頼を置く。ただ、FWでありながらここまで無得点。来年の本大会に向けて、決勝のスペイン戦は更なるアピールを見せたい舞台でもある。「僕を今でも後押ししてくれるファンが日本にいるのは嬉しいし、親愛の念を送りたい」。
 「日本育ち」の元Jリーガーが今、大会最後の大一番に挑む。

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