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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(92)

ニッケイ新聞 2014年2月5日

出発してからしばらく沈黙が続いた。トメアスの時と同じで、一行は『ナンマイダー』でむすばれた群衆との別れを惜しんだ。

第十四章 真理

アマゾンから帰って数日後、サンパウロのジョージのアパートで、中嶋和尚が麻の法衣にアイロンをかけていた。

「戻りました」ジョージが普段より早く仕事から戻ってきた。

「夕食にしますか?」

「まだ、早いですね。今日は金曜日だし、東洋街で一杯やりましょう」

二人は歩いて十分の、この界隈で一番安い中国人の立ち飲みバー『シェン』に出向いた。金曜日とあって、チョイ飲みの常連と、夕食やカラオケの待ち合わせの日系人で混んでいた。

「おう! ジョージさん」

「ユキオさん、久しぶりですね。お元気そうで、百キロも離れたソロカバ市からわざわざ飲みに?」

「毎週金曜日は飲み友達に会いたいからね。飲酒運転の取締が厳しくなったからバスで来るんだ。ブラジルもやっと真面目な国になってきたね。この方は?」

「中嶋さんです」

「中嶋です。よろしく」

奥から手を上げて、

「おう、ジョージ! あのボーズの件、上手くいったか」

男が奥から出て来た。

ジョージは顔をしかめて、

「ボーズと呼ぶなと自分で言っといて、ソウリョと呼ぶんじゃなかったのか! それに、お前には関係ないだろう」

「なんだその返事は!そんなに俺を警戒しなくてもいいだろう。ボーズの件解決したらしいな。じゃ、カンパイだ」

ジョージはまだ空のコップを少し浮かして、いやいやながら乾杯に応えた。

その男はコカコーラを頼んだ中嶋和尚を指して、

「彼は?」

「中嶋と申し・・・」ジョージの親しい友人と思って、丁寧に挨拶しようとした中嶋和尚の足をジョージが踏んで、それ以上の接近を阻止した。

「初めてお会いする方ですね。サンパウロニッケイ新聞の古川です」

「・・・、」中嶋和尚はジョージの指示に応え、無言で挨拶した。

「(頭をまるめた泥棒を捕らえたのか?)」と、古川記者はポルトガル語で嫌味を投げた。

嫌味を言われても平静な中嶋和尚の態度を見て、

「(ジョージ、この方、ポルトガル語がさっぱりじゃないか。日本から来たボーズだな)」

「ポッ!(ちぇ! 記者はこれだから嫌いだ)」

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