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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(128)

ニッケイ新聞 2014年4月1日

「不法滞在!? お、俺は宗教家だ。お、俺のパスポートを見ろ、宗教家は外交官並みに特別扱いされるはずだ」

「このパスポートは偽造品として預かる」

「本物だ! パスポートの没収は国際法で禁止されている。違法だ!返せ!」

「ほう、俺が知らない国際法をお知りとは大したものだ。しかし、国内法に従えば偽造パスポートは没収だ」

「デッチ上げだ! お、俺を放せ! 宗教家の逮捕は法律違反だ!」

「ポルトガル語で言ってくれ。そうでないと意味がサッパリ・・・」

「日本語が分かるくせしやがって! この野郎!」

「俺は、興味ある事だけ日本語を理解するんだ」

森口の叫びで、ホテルの支配人がパトカーの傍に来た。

「(刑事さん・・・)なんだインテルツールのジョージじゃないか?」

「(おっ、川原支配人)いつもお世話になっています」

「(この方どうしたんだ?)」

「(不法滞在と、強姦と殺人の疑いで逮捕です)」

「支配人!如何にかしろ! お、お、俺はこのホテルの客だぞ!」パトカーの中から森口がツバと一緒に叫んだ。

「(チェックインの時、不法滞在の確認を徹底して下さい)」

「(分かった。日本領事館に連絡した方が・・・)」

「(結構です。警察から連絡します。彼の持ち物は警察が取りに来るまでちゃんと保管しておいて下さい)」

「(なんでジョージが?)」

「(元刑事だもんで、時々、協力するんです)」

ジョージは森口のうるさい口を塞ぐかの様にパトカーのドアを閉め、森口の怒鳴り声に困った警官に、

「(サンタマーロ区の州管理の刑務所内にある連邦警察の留置所にブチ込んでくれ。逮捕状は後で届ける。強姦犯だから他の囚人に気をつけてくれ)」

「(強姦犯! 最低ホモレイプは免れないでしょう。不思議なもので、囚人達は強姦犯を必ず見付け出しリンチします)」

「(隔離された檻に入れて奴の尻を守ってやれ)」

「(それは、強姦犯だと広報するようなものですが、なんとかします)」

パトカーはサイレンを一噴きして、人集りを散らし、急発進してサンパウロ南部の州立刑務所内に設けられた連邦警察管轄の留置所に向かった。

ジョージと新米刑事達は、ホテル正面のラーメン屋で少し早い昼食をとった。正午前で混雑していなかった。

「(ウエムラ刑事、仲の悪い警官の中にも友人がいるのですか)」

「(友人ではない。たまたま奴が俺を覚えていたんだ)」

「(あの警官がお礼言っていましたが、どうしてですか?)」

「(昔、これで助けたんだ)」そう言って、隠し持っている拳銃を抜いた。

「(ウエムラ刑事は五十人以上を葬ったそうですね)」

「(噂がだんだん大きくなり五十人とは・・・困ったもんだ)」

「(噂じゃないでしょう。モンテイロ署長の調べでは軍事政権時代も含めた番付に歴代十番目に載っていたそうです。私はまだ経験していませんが)」

「(こんな経験はしない方がいい。だが、死ぬよりましだろう)」

「(どんな気持ちですか人を殺すのは?)」

「(ドギツイ質問だな、俺は、人を殺した事はない、殺すのはいつも獣だ)」

「(ケモノ?)」

「(俺が人間と感じなくなった獣だけだ・・・・・・。一、犯人を獣と判断した時、二、確実に倒す。これが俺の鉄則だ。躊躇した同僚達は殉職してしまった)」

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