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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2014年3月4日

 サンパウロ市の地下鉄セー駅で2月25日、見知らぬ男性によって線路に突き落とされた女性が、電車に轢かれて右腕切断という事件が起きた。ホームは超満員だったが、女性救出のため、地下鉄は約15分間運転を休止した▼この事件が現地紙で報道された27日、編集部ではブラジルでこの手の事件は珍しいと話し合ったが、女性を突き落とした男性は統合失調症の患者だった事が同日判明、28日に男性が逮捕された▼実は27日付フォーリャ紙には「ブラジルの精神安定剤販売量はここ5年間で42%増えた」という記事も掲載されていた。欧米などの販売量はここ10年で30%減る中、ブラジルでの販売増加は、ブラジルが一段とストレス社会になっている事の証拠で、陽気で幸福度の高い国というイメージが変わりつつあるとの印象を受ける▼昨年8月5日にサンパウロ市で起きた、13歳の少年が両親と祖母、大叔母を殺害した後に自殺した事件も統合失調症が原因で、インターネットやゲームなども含む映像世界が現実との境目を感じなくさせた事件だ。現実逃避や被害妄想といった兆候が一家殺害事件やセー駅で女性が大怪我をした事件の背景だと思うと、情報過多社会におけるストレスの影響は計り知れない▼もちろん、精神安定剤の利用増加と統合失調症は必ずしも軌を一にはしないし、ストレスに全ての原因を帰す事も出来ない。だが、ブラジルは精神安定剤などを適正な形でコントロールするシステム不在で、不眠などを理由に医師の目が届かないところで必要以上の長期にわたって薬を利用する人も多いなど、精神面のケアや薬の乱用への警戒心は薄い。サンバのリズムで全てが解決出来れば事は簡単なのだが。(み)

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