ホーム | 日系社会ニュース | 映画『Grande Vitoria』公開=柔道哲学で人生の夢実現へ=原作者トロンビーニさん語る=荒れた少年時代乗り越え
案内のため来社した馬欠場さん、マックスさん、講道館有段者会の会長・関根隆範さん
案内のため来社した馬欠場さん、マックスさん、講道館有段者会の会長・関根隆範さん

映画『Grande Vitoria』公開=柔道哲学で人生の夢実現へ=原作者トロンビーニさん語る=荒れた少年時代乗り越え

 柔道を通した少年の成長を描いた映画『グランデ・ビットリア(Grande Vitoria、偉大な勝利)』の全国公開が8日に始まった。サンパウロ州ウバツーバ市の父親不在の貧しい家庭で苦難の幼少期を過ごすが、柔道に出会い更正していくマックス・トロンビーニさん(45)の自伝『Aprendiz de Samurai』(侍の修行、Editora Evora、2011年)が原作。柔道3段、柔術4段の実力者で、大手スポーツ施設網「CIAアトレチカ」で指導するほか、国内各地で講演を実施。日本を始め25カ国の五輪選手団に寝技を指導したことでも有名だ。本紙の取材に対し「五輪出場は叶わなかったが、柔道を通して人生に勝った」と語った。

映画のポスター

映画のポスター

 最初に自伝を元にしたドキュメンタリーの小作品が作られ、それを見た有名映画監督のフェルナンド・メイレレス氏が「若者にぴったりだ」と本格的な映画化を決定した。ステファノ・ラピエトラ監督の下、文協の国士舘スポーツセンターでもロケを行い、2年がかりで制作された。
 主演の人気俳優カイオ・カストロは、役作りのため半年間マックスさん宅に住み込み、柔道を特訓した。日系女優サブリナ・サトウのほか、金子謙一さん、マックスさん本人、実際の柔道の師である馬欠場卯一郎さんも出演している。
 彼が生まれてすぐに父が蒸発し、母とその祖父に育てられた幼少期から物語は始まる。父と慕った祖父も彼が11歳の頃癌で逝去し、自暴時期になって喧嘩ばかりして学校を退学直前になる。その時、母の友人から勧められて13歳で始めた柔道に生きる道を見出す。
 「柔道は僕にとって救いであり、父親のような存在。柔道を続けたい一心で喧嘩も我慢した」。初めての柔道着は、家政婦で稼ぎの少なかった母親が小麦粉の袋で縫ったもの。貧しくて肉や魚を買う余裕もなかったため、魚屋で働き残り物を持ち帰って食べて栄養をつけたという。
 17歳のクリスマスの夜に父親と初対面したが、雨の中「お父さん」と叫ぶ彼を、父親は無視して去ってしまう。泣きながら「もう父親には頼れない。『柔道で強い人間になり、人生に勝つ』と心に決めたのが人生の転機だった」と振り返る。
 五輪出場を目指し、「奴は気が狂った」と周りからバカにされながらも、砂浜で走るなど独自の方法で鍛錬を積み、19歳で馬欠場さんが経営するバストス道場の寒稽古に初参加した。馬欠場さんは56年に10歳で渡伯した戦後の子ども移民で、ミュンヘン五輪でブラジル柔道に初メダルをもたらした石井千秋氏に柔道を習い、27歳で道場を開いた。養鶏場を営む傍ら、国内最大規模の畳700畳の道場を経営する。
 主人公はそこで住む込みで掃除、礼儀作法から厳しく猛特訓を受け、五輪予選に望むが…。マックスさんは「メダルを取ることだけが柔道ではない。馬欠場先生は、僕に『人生は七転び八起き』という手本を見せてくれた」と力を込めて繰り返した。
 柔道を通して自伝出版、映画化とマックスさんの夢は実現した。中でも今回の映画化により「代表選手だけがつけられる『BRA』と背中にかかれた柔道着を着る夢が実現した」と笑う。次は「誰か自伝を日本語にも翻訳してくれ、日本で出版してほしい。そして、いつか講道館(柔道の総本山)にも行ってみたい」と日本への強い関心を見せた。

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