ホーム | 特集 | 【裏千家 中南米布教60周年記念】15代、裏千家家元=千玄室大宗匠 ようこそブラジルへ=サンパウロ州政庁で式典や茶会
8月29日午後1時、イビラプエラ公園内慰霊碑を訪れ、献茶を行った
8月29日午後1時、イビラプエラ公園内慰霊碑を訪れ、献茶を行った

【裏千家 中南米布教60周年記念】15代、裏千家家元=千玄室大宗匠 ようこそブラジルへ=サンパウロ州政庁で式典や茶会

 茶道最大の流派である茶道裏千家が今年で中南米布教60周年を迎えたのを記念し、宗家の直轄団体「裏千家淡交会」(千玄室会長)が「中南米大会」を開催した。8月29日夜には晩餐会、翌30日にはサンパウロ州政庁(バンデイランテス宮殿)で茶式と記念式典が行われ、第15代家元の千玄室大宗匠が45年ぶりに来伯して92歳にしてかくしゃくたる姿を見せた。日本総本部やブラジル以外にも、中南米や北米各国協会から多数の来場者が訪れ、会場が満員となる約900人が参列した。

8月29日、イビラプエラ公園の日本館で挨拶

8月29日、イビラプエラ公園の日本館で挨拶


 式典に先立ち、「日伯友好・平和記念献茶式ならびに和合の茶会」が執り行われた。来賓として梅田邦夫駐ブラジル日本国大使、羽藤ジョージサンパウロ州議、日系3団体会長に近隣諸国の裏千家協会代表者らが登壇し、「立礼式」によって千玄室大宗匠の濃茶が振舞われた。
 記念式典では、60年前に自らの足で中南米普及の第一歩を印した大宗匠があいさつに立ち、「1954年に初訪問したブラジル。皆さんが茶道に励む姿は、今でも鮮明に残っている」と笑顔を見せた。
 梅田大使も「60年の時を経て茶会が開催されることは、文化交流の一つの歴史とも言える」と強調。木多喜八郎・文協会長、羽藤サンパウロ州議も祝辞を述べた。
 24の個人・団体の功績を称えるため、功労者への表彰も行なわれた。代表で武田宗知さんが謝辞を述べたほか、林宗慶・宗円夫妻に対し、正教授の昇段認定も行なわれた。
 最後は千玄室大宗匠による特別講演が行われた。「一碗からピースフルネス(平和)を」という自身の理念を説き、「相手を心から思いやる気持ちが、茶の湯本来の精神。平和な国を築くため、ブラジルこそ茶道の役割を果たせる国ではないか」と問いかけた。


~中南米布教60年の歩み~

 裏千家の中南米普及は60年前の1954年にさかのぼる。サンパウロ市制400年の同年、イビラプエラ公園内に日本館が建設され、第15代家元である千玄室大宗匠(当時は千宗興若宗匠)と納屋宗淡さん(故人)が、茶道使節として来伯したのがきっかけ。
 日本館落成式で実演や指導を行ない、当地布教の第一歩を印した。ブラジルのほか亜国、ペルー、メキシコも歴訪し、中南米各国に支部を創設。ブラジル支部は、米国に次ぐ世界2カ国目の設立となった。
 78年からは林宗慶ブラジル駐在講師が着任し、1月に初釜、11月に宗旦忌などの恒例行事を行なっている。中南米布教50年大会は2004年9月、メキシコシティで行なわれた。
 現在、世界35カ国・107カ所に拠点が置かれ、ブラジル支部はサンパウロ市文協ビルに裏千家教場「伯栄庵」を構えている。会員は約100人だが、数多くの愛好家に親しまれている。


「一杯の茶から世界平和を」=千玄室前家元迎えて茶会


 裏千家淡交会は続く8月31日、サンパウロ市グランデ・ハイアットホテルで盛大に記念茶会を開催した。アマゾン席、今日庵席など趣向を凝らした各種茶席が準備され、ブラジルはじめ日本、北南米、欧州など世界各地から約500人が集った。
 ユネスコ親善大使も務める千玄室大宗匠は、日本・日系人という民族を超えた広がりを見せる当地の様子に感嘆した様子で、「すごいですね。日系人とブラジル人が一緒になっているのは、大変すばらしいこと。各国の集まりも見てきたけど、これほど民族が融和している国はほかにない」と絶賛した。
 また、「これだけ茶道が世界に広まっているのは、礼に始まり礼に終わるという精神が大きな魅力だから。人間がこれを失えば戦争が起こる。戦争をとめるのは茶道の使命。一杯のお茶から平和が生まれる」と茶道を通した平和の実現を説いた。
 会場には、ブラジル席のために特別に水指を制作した芸術家の豊田豊さん、自宅の庭に二つもの茶室を構えるメキシコの映画監督ロベルト・ベハールさんらも姿を見せた。
 壁で仕切られた大ホールには中南米席、ブラジル席、今日庵席、学校茶道席、アマゾン席、北米総局席、香煎席、2階には点心席の全8席が設けられた。アマゾン席は熱帯植物で囲みジャングル風に、今日庵席は京都市の家元邸内にある同名の茶室を模して作られた。茶道具等も中南米はじめ日本、米国、ハワイなど各地から調達されたこだわりの品が用意された。
 千玄室大宗匠は順に茶席を回ってじっくりと茶を賞味、茶道具を愛でると、笑顔で関係者や参加者の記念撮影に応じ交流した。参加者らは、颯爽と歩き、張りのある声で歓談する大宗匠の達者な姿に驚嘆の声を上げていた。
 生け花の指導者でもあるタニア・アラウージョさん(48)は「茶道を始めて、些細なことが気にならなくなった。人生がすごく穏やかになり、美や芸術を愛でることに関心が向くようになった」と話した。
 アルゼンチンに駐在時、同地にお茶を普及した奥田都さん(69、北海道)=東京在住=も日本から訪れた。裏千家アルゼンチン協会の有水宗恵会長らとの再会を喜び、「こんなに色々な国から来てイベントが開かれることはない。ブラジルは本当に盛大」と会場の雰囲気を満喫していた。

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