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ガウショ物語=作者の紹介と本作の特徴=中田みちよ=(下)=ブラジル版『遠野物語』

牛肉を干してカルネ・デ・ソールを作っているところ(Foto=Aline Cruz, site de UFMG)

牛肉を干してカルネ・デ・ソールを作っているところ(Foto=Aline Cruz, site de UFMG)

 地元に経済的な活況をもたらした牧畜。そこから派生する皮革の輸出。そして食肉。シャルケとよばれる干し塩肉の産地です。冷凍技術のない当時は、全国的にこのシャルケが流通していました。歴史的には18世紀のセアラー州が端緒になっていますが、その後に南リオ・グランデ州の方に南下、普及していきます。もっとも、80年代になってから、カルネ・デ・ソール(牛肉の一日干し)が流通します。これはシャルケの歩留まりが48%なのに対し、一日干しは歩留まり62%と断然有利。
 しかも味も生肉に劣らないというもので、現在では、スーパーなどでも一日干しばかりが並べられています。この違いがわからない私は、カルネセッカと呼び、売り子にカルネ・デ・ソールと訂正されて、ふくっれ面だったのですが、なるほど、理屈にかなっているわけです。

リオ医大中退し実業家へ

 地元が豊かになれば文化面が繁栄しますから、ペロッタスの町は、他の大都会に先駆けて劇場が建築され、観劇も盛んになり、エレガンスが出現します。シック・ムードがヨーロッパから押し寄せ、町は一躍コスモポリスになりました。
 ロッペス家の家業もシャルケ工場経営でした。祖父は農場内に奴隷たちが編成してオーケストラを有していたといわれていますから、非常に恵まれていたわけです。
 ロッペスは13歳まで農園やペロッタスの町で育ちます。結局、ここでの生活がロッペスの作品の原点になっています。
 成長してリオに行き名門校に入学、ついでリオ医大に進学しますが、3年で中退し、ペロッタスに帰ります。以後この町から離れることはありませんでした。病弱を理由に、じっさい肝炎を患ったりはしているのですが、たぶん、意地悪ばあさん的な視点でいうと、落第して進級できなかったのです。
 祖父の口利きで公務員となり税関で働きます。町はシャルケ工場で賑わい、50もの工場が町の経済を支えていました。ロッペスは大いに刺激されて、無謀にもというべきか、果敢にもいうべきか、実業家を目指します。

タバコ「悪魔」販売

 まず、ガラス工場の経営に乗り出し、工員はすべてフランス人、見習いはブラジルの貧困層の子弟。常識的に技術をもつフランス人は高給取りのはずですから、経営が成り立つはずもなく、まもなく閉鎖。
 こんどは祖父や父親の顔で蒸留酒製造工場を設立。1890年当時の南リオ・グランデ州は内戦に明け暮れていましたから、これも失敗。それに懲りず、祖父たちから受け継いだ資産を売却して、タバコ工場を始め、商標を「悪魔」と命名。
 まあ、これは命名の奇抜さもあって順調に販売網を広げるのですが、「悪魔」が宗教団体の槍玉にあがり敗退。ついでコーヒー工場、それからダニ駆除剤なども手がけます。極めつきは銀山開発。これは悪賢い鍛冶屋に引っ掛けられたといわれます。このあたりですってんてん。
 ペロッタスの町を愛しているから何とか産業を興そうと考えたのでしょうが、詰めが甘い。このあたりが実業家でなく文学者だったといわれるゆえんです。要するに道楽息子の道楽事業の域を出ていません。
 そもそも、事業をやりながら本を手放さず、思索することを好み、大きな声を出そうものなら小鳥がびっくりするからと諌めたといわます。批判を恐れずにいえば、24時間、寝てもさめても金儲けに腐心する人でなければ実業家として一頭地を抜けないわけで、父祖の財産があったから、こんなのんきなことができたのでしょう。
 27歳で19歳のフランシスカという娘と結婚。結局、最後には新聞社に席を置き、文筆活動で糊口をしのぎます。叔父が「パトリア」新聞社主だったこともありコラム欄を担当したりしますが、最後は葬儀代もなく、フランシスカ夫人がわずかばかりの本を競売したという胸の詰まるような話が残されています。

ブラジルの柳田國男

 さて、この「ガウショ物語」が発表されたのが1912年、47歳のときでした。地元の生活習慣や話し言葉が忠実に再現されていて、今でこそ、ガウショ訛りが国境を越えて世界に羽ばたく時代になりましたが、当時は、それに文学的価値を認めてくれる人はいませんでした。
 結局ロッペスの作品は全部で四つなのですが、「ガウショ物語」も「ガウショ伝説」も地方に伝承される民話を丹念に拾い上げて整理し、編集したもので、厳密な意味での創作ではありません。
 いずれ、散逸してしまう運命にある民話を愛情を持って拾い上げて文字化した、そういう意味では柳田國男の【遠野物語】などと相似しています。
 アウグスト・マイヤというガウショ伝説の専門家は、『ことあるたびに口伝えに伝わったものを、文字に書き換えた。これは大変な努力と根気を要するもので、その意味で大変貴重な作品である』と評価しています。
 もともと、民話は残酷なものが多いのですが、これはつまり、実社会を反映させる民話にはハッピーエンドは存在しないということだと、私は認識していますが、ブラジルの民話を鑑賞することで 幾分なりともブラジルという国の理解に役立てれば幸いだと考えています。(解説おわり、次回から本編開始)

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