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ガウショ物語=作者の紹介と本作の特徴=中田みちよ=(上)=ガウショ物語の解説にかえて

 翻訳サークル「アイリス」が手がけた「ガウショ物語」です。短編は訳し易いはずなのですが、話は南リオ・グランデ州の民話ですから、方言の多いこと、多いこと。ひどいときには一行全部が未知の語彙。「コウサンだ」と投げ出したくなるときもあり、怠ける私にサークル仲間は一途にノルマをこなして、ようやく完了にこぎつけることができました。
 この「ガウショ物語」は、強健で無欲で、喜びにも悲しみにも率直なガウショ気質の「ブラウ・ヌネス」という語り手がいて話が展開するのですが、持ち味はなんといってもパンパで交わされるガウショ訛り。その輝きが物語に投影して光を放つわけですが、翻訳にはこれが問題でした。
 そもそも作品集を編んだグローボ出版社が、そのために語彙集(500語の解説)を作ったといわれるほどですから、つまり、ネイティヴのブラジル人でも一筋縄ではいかないという代物ですから、われわれが苦しむのは当然と、サークル仲間は慰めあいました。
 もっとも、サイトなどで見ると、「最初、この方言に読み手は疲れるけれど、それこそがガウショの世界に導いてくれるツールだ」と解説、「安易にコウサンしないように」と助言しています。確かにそのとおりで、暗闇を手探りで進むうちに、足元に燭光がさし込むようになります。まさに継続こそは力なりです。
 作者のジョアン・シモンエス・ロペス・ネットは、祖父が子爵の称号をもつ貴族の出です。先祖はアソ―レス島出身。アソーレス諸島は火山帯ですから、恒常的な飢餓に悩まされて、移民として島をさる人間も多く、南リオ・グランデ州やサンタカタリーナ州の人口は、アソ―レス人によって形成されたといってもいいほどです。
 このアソーレス人は、1600年代の後半からマラニョン州に渡り始めていて、浜岡究の「ブラジルの発見とその時代」によると、公式なサンタカタリーナ島への移住は1750年以降で、76年までに432夫婦864名、夫婦でないものが1273名ということになっています。これ以前にも、たとえば、日本移民にも笠戸丸移住前史があるように、アソーレス移民にも前史があるようです。これはまあ、あって当然、アソーレス島は目と鼻の先です。
 地図を見ると、ポルトガルから視線を左の太平洋海上に移すとマデイラ島があり、ポルトガルからの船の寄港地でした。その視線を左上に延長するとアソーレス諸島を見つけることができます。
 大航海時代の1427年にポルトガルが発見し、植民地にしたもので、九つの島からなっているので諸島と呼ばれます。ですからアソーレス移民というのは内国移民です。そう、東北伯のセベリーノと同じなのです。
 島は無人島でハイタカ属(トビやタカ)の猛禽が生息していました。ハイタカ属をポルトガル語でアソールといいます。それが複数となってアソーレス。実に明快です。流刑者や冒険野郎が島にわたって居つくのですが、このあたり、成り立ちがブラジルと似ています。
 九つの島にそれぞれ異なる地方から移住していますから、アソーレス人といっても、多少気質の違いはあるのですが、一般的に、他人を信用しない無味乾燥な人間が多いといわれます。不毛の地を作物ができるように改善していくわけですから、非常に一徹で粘り強い。しかし、仕事が粗く粗暴であるともいわれ、このあたりの気質が結構、短編にも現れています。同じく南リオ・グランデ州出身作家、エリコ・ベリッシモの「時と風」のアナテーラの父親なども代表的なこのタイプです。
 またガウショの対極にあるものとして、金持ちの軟弱男とか、宮廷の人間なども登場するのですが、これはロッペスの貴族としての自虐的な自己投影と読むこともできます。
 まず、生い立ちを見ましょう。
 1865年、ペロッタス市で誕生。当時はまだ祖父や父親が健在で、大農園主でした。またペロッタスの町がポルト・アレグレよりも栄えていた時代で、ポルトガル人が広大なパンパンの主で、牧畜が盛んでした。パンパはウルグアイやアルゼンチンまで伸張していますから、勝者の立場にあったといってもいいでしょう。(つづく)

ガウショ物語=シモンエス・ロペス・ネット=監修 柴門明子 翻訳 サークル・アイリス

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