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ガウショ物語=(1)=牛飼いブラウを紹介しよう

ガウショの像

ガウショの像

 お若いの、牛飼いのブラウさんを紹介しよう。
 「わしはこの州のなか内を、あちこち気の向くままに渡り歩いてきた。草木もない海岸の焼けるような砂地の熱さも知ったし、絵に描いたみたいに美しいミリン湖の島々で遊んだこともある。
 ある時は、波のうねりみたいな起伏のあるサンタナの大平原の広さに疲れ果て、また、雄大なウルグアイ河の水に手をひたし、カヴェラーの岩山の荒々しさに恐れ慄いたものさ。サイカン平野では野菊の花を摘み、イビクイ川の流れに揺られ、サンタ・テクラのじょうさいあと城砦址をすみずみまで歩き回った。
 サン・ガブリエルでは、鍛冶場の炉の輝きの元で眠った。たくさんの貴重なサーベルをつくったあの鍛冶場だ。そこから、強力なタービンの巻き起こす旋風に引き込まれて、トゥパンシレタンにやってきた。原住民の素朴な言葉で「聖母マリアが休まれた草原」という優しい名の土地だが、そこでは果てしなく広壮な牧場の数々を駆け巡ったことだった……」
 「愛らしいサンタマリアの町を訪れたこともある。山脈の麓に広がる静かで気持ちよい町だ。山懐(やまふところ)の濃い緑に覆われて、木々の間に見え隠れする白い家々が、まるで実がはじけた棉畑(わたばたけ)みたいな不思議な光景だった」
 「山中の道をたどって、パッソ・フンドのはず端れまでも行ったし、ラゴア・ヴェルメーリャの尾根を歩き回って、その帰りには荒地の花のような物寂しいソレダーデに寄った。そこはまるで、この世の騒音から遠く離れた静けさの中に花開いたような町だった。そしてまた、ある時は蟻の巣みたいに人が集まっている村落を横切った」
 「あちこち寄り道したり、ときに長逗留したことも多かった。その上、行程も違えば、まったく別の時期に行った先々も少なくないのだが、わしの目に今でも鮮やかに見えるのは、あの大らかで、豊かな心の人々から、この上ない親切なもてなしを受けた記憶だ」
 「わしは蜂の巣箱も牛の囲い場も見た。果樹園も家畜の群れもみた。耕作地やいくつもの町工場も見た。山脈や川や草原や町も、たくさんの人間、数知れぬ夜明け、鳥や子供たち、さらにはすき鋤がおこしたうね畝も、水の流れやいろいろな物が遺していった窪みも。
 やがて死んで閉じてしまうわしのこの目は、滅びの日から逃れられない哀れな目は、心休まる感動の輝きを、最後の一瞬の光までも網膜に刻みつけてくれるだろう。
 そして鼓動がみだれたわしの心臓は、いま新たに造られつつある民族への期待に、最後の情熱をもって高鳴るだろう。この地と我等の英雄時代を生きた男達をよく評価し、敬愛し、栄光を讃える民族、そして今や統一され平和に祝福された祖国のために」
 友情と信頼感に基づいた個人的な理由もあって、ブラウ・ヌネスという男は、長いあいだ私の案内役を務めてくれた人物だ。いうまでもなく道案内人として非の打ちどころない勝れた土地勘の持ち主だった。八八歳の高齢ながら、無駄な脂肪一グラムもない、まるで骸骨を思わせるような体と真っ直ぐな背骨をしている。歯はすべて揃っているし、視力も耳も衰えを知らない。
 そして、ファロピーリャ反乱軍の下士官としての誇りを保ち続けている。彼自身が話したところによると、ベント・ゴンサルヴェス将軍の指揮の下、にわか仕立ての海軍水兵として戦い、タマンダレーで負傷して除隊したのだという。
 ブラウの印象はというと、緑濃いタルマンの老木といおうか。斧にも落雷にも強く、肉厚い幹の中に蜜蜂の巣をつくらせ、枝には山鳩が巣をかける……。
 半黒の典型的な南リオ・グランデ生まれの男(近年ずいぶん変わってしまった)。ブラウは健全なガウショである。義理堅く、単純であると同時に、陽気さと勇気にかけては歯止めが利かない。用心深く、洞察力があり、節度を持ち、疲れを知らない。稀に見る鮮明な記憶の持ち主で、彼の想像力にあふれた愛すべき饒舌(じょうぜつ)ぶりは、生き生きとした独特のガウショ方言で彩られ、いっそう光を放つのだ。
 彼は馬の背にまたがって八方を駆け巡った。逗留した大農場。体を温めた窯の周辺。仲間と唄をうたった丸木小屋や通り過ぎた小部落。彼によく理解できた事ども、あるいは、素朴な知恵では理解をこえた事など。男同士の真剣勝負、たくさんの死と向き合い、あるいは生命が誕生した時。若い軍人のブラウと年老いた民間人のブラウ。この二人の間には、数々の思い出――彼のいうところの「出来事」――がちりばめられた長い道が横たわっている。それらを、時たま、まるで古い長持にしまわれている服を日向に出して虫干しするかのように、このガウショが思い出しては語ってくれる。
 
 敬愛してやまないじいさん!
 懐かしいブラウ!

 お若いの、聞きなされ。(つづく)

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