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ニッケイ俳壇(840)=星野瞳 選

   セーラドスクリスタイス   桶口玄海児

万の民に秋の夜空の美しき
アレルイア咲けばアレルイアの山と呼び
蜻蛉の空を汚せしウルブの輪
マンジオカ州が変れば名の変り

   北海道・旭川市       両瀬 辰江

春の色巷に満ちて雛飾る
早春の雲流れゆく空広し
掲示板見ている人も春の服
デパートの値札半額冬終る

   プ・プルデンテ       野村いさを

朝鮮どぶろくも買うて東洋街は秋
夜学子のおそき帰りを待つ夕餉
こほろぎの余生確かむ如く鳴き
仰ぎ見る高層ビルに秋の声
枝の日や枝持つ人の列につく

   ボツポランガ        青木 駿浪

星月夜零るるばかり闇の空
秋雲の動く展望ビルの窓
豊の秋父が遺せし農日記
大景の足もとよりの草紅葉
新涼や重き歳時記机辺に置く

   ジョインヴィーレ      筒井あつし

父眠る町まで千キロ鳥渡る
対岸のかすむ湖水や鳥渡る
歓喜樹や難聴に音甦える
山脈に残る朝の月白し
病む友へ書く文長き夜長かな

   サンジョゼドスカンポス   大月 春水

晩秋や帰りを急ぐサラリーマン
佳く秋や朝焼けをして明ける夜
サンジョンの大当りくじ一つ買ふ
大木に抱かれて蘭の白き花
佳く秋や冬の入りかと腕を組み

   ソロカバ          前田 昌弘

杭一本だけのバス停秋うらら
秋耕や何を植えるか決めぬまま
肉眼で昼の星見ゆとう視力
運動会はらはらさせてテープ切る
竹の春藪の中にも遊歩道

   カンポスドジョルドン    鈴木 静林

自家用の小豆房なり莢鳴らす
小豆もむよこに添寝の犬と猫
廃屋の庭に草梅赤く熟れ
秋時雨傘を持とうが持ちまいが

   サンパウロ         湯田南山子

土の香の俳句を詠めとホ句の秋
柿食って子規の心を窺えり
病床に届きし特大チョコ卵
タピライは第二の故郷秋ざくら

   東京都           伊集院洋介

父の日に何ごともなく父戻る
父の日に父の手を引く女の子
ふる里の蛙の合唱呼んで居る
義太夫の触り聞かせよ髪切虫
父の日も新憲法も米国産
 【日本の全然未知の方からの投句で驚いている。義太夫のさわりなどで余程の年齢の方の様に思える。又アメリカ嫌いの方であるらしい。どうか引き続き投句お待ちして居ります。】

   サンパウロ         寺田 雪恵

秋風に場所間ちがいて人待てり
ケイタイを持たぬ人待ち秋寒し
待ちぼうけの倦む吾に吹く秋の風
聞き違いあやまっても済まぬうそ寒き

   アルバレスマッシャード   立沢 節子

街ふさぐ大学街の夜学バス
箸すべる芋を手で取る衣被
カチカチと皿に種出しコンデ食ぶ

『コンデ』とは果物のアテモヤのこと。釈迦頭とチェリモヤを掛け合わせた品種 。(Foto By Muhammad Mahdi Karim (www.micro2macro.net) Facebook Youtube (Own work) [GFDL 1.2 (httpwww.gnu.orglicensesold-licensesfdl-1.2.html)], via Wikimedia Commons)

『コンデ』とは果物のアテモヤのこと。釈迦頭とチェリモヤを掛け合わせた品種 。(Foto By Muhammad Mahdi Karim (www.micro2macro.net) Facebook Youtube (Own work) [GFDL 1.2 (httpwww.gnu.orglicensesold-licensesfdl-1.2.html)], via Wikimedia Commons)

連れ立ちて妻と夜学のバスに乗る

   リベイロンピーレス     中馬 淳一

婚席の愛人の日のワルツかな
大鍋で足らぬ雑炊子沢山
屋根もなくバス待つ人に初時雨
雑炊や椀のぬくみ手をぬくめ

   サンパウロ         松井 三州

秋深かむルアの樹木のやせて見ゆ
秋の日に油砂糖は口にせず
秋の花の心尽しはみんな仂
秋の陽になぜか逝きたる妻を恋ふ

   ソロカバ          住谷ひさお

空青く火焔衡火焔盛り上がる
メハジキの咲きしまま刈られけり
歓喜樹と近かずけばカーボベルデなる
バンデイラ絡日たれて秋日濃し

   サンパウロ         山中 一郎

虚子忌前白き椿の見事なる
犬連れが三組集いて秋の野辺
お日様を時にかくして秋の山
ミナスなる出湯見に小さき旅

   サンパウロ         小斉 棹子

この国にたゆたう生きて秋日濃き
移民となり鰯の味のうまかりし
良き母であるのは難かし五月来る
若き等のさわがしくなる良夜かな
念腹の一句を胸に夜食とる
 【リベイロンピーレスで俳句大会があった夜、念腹先生は小斉邸に泊られて、同伴した私も泊めて頂いた。御主人はサンパウロ市のある大会社に季節の野菜果物を定期的に納める仕事をして居られる様に聞いて居て、土間にそれ等が積まれてあった。夜食は先生も御主人も酒好きでにぎわった。念腹先生には、その時のことを詠んだ一句がある。
  『我が膝に彼がこぼせし夜食かな』
明らかに小斉さんを詠まれた一句である。この句を口にすると棹子さんは今は亡き御主人を思い出すのであろう。】

   サンパウロ         武田 知子

湧き沈み世すぎに任せ秋は行く
晩年に受けし波乱や秋の風
着迷ひし母の形見や秋袷
連れ飛んで居てもはかなし糸蜻蛉
茸飯炊ける匂ひの厨かな

   サンパウロ         児玉 和代

秋晴やスカーフゆるく流し行く
日のかげり人足早に秋の雲
今しがたの秋日あとかたなく暮れぬ
秋日濃し八十年を生きし影
移民てふ答出ぬまま柿を食ぶ

   サンパウロ         西谷 律子

湖からの風さわやかや句碑の町
栗拾ひし農すでに売られしと
占いのモエーダは裏に秋の水
夜食と云ふ声に一斉立ち上がり
新涼の人出に押さるバザーかな

   サンパウロ         西山ひろ子

読み返す灯下親しく入選句
母の日を迎えて偲ぶかの笑顔
生姜湯飲み始まるフリーの夜
供花にと早咲きさせてポインセチア
声高に二人過ぎゆく天高し

   ピエダーデ         小村 広江

数珠玉や遠き記憶の童うた
すっぽりと町を沈めし濃霧かな
はびこりて詮なし杣の新渡戸菊
誰かれに頂く秋の稔りかな
鹿の子百合咲ききわまりしうれひかな

   サンパウロ         原 はる江

もう立てぬ長姉を見舞の秋の旅
紅薔薇の句集に床しき友偲ぶ
句会終えその名も霧の町を去る
花ベイジョ咲いて句の友迎え呉れ

   サンパウロ         柳原 貞子

大振りな沖縄銘の新豆腐
庭石にオヴジェの如く秋の蝶
新涼や朝の目覚めに自我とあり
読み耽ける美恵子遺句集秋灯下

   リベイロンピーレス     西川あけみ

いい日和りでしたと戻る虚子忌かな
秋祭りさほど不景気見当らず
長き夜帰りたくなき子等なりし
秋日暮れ停電なれば尚のこと

   サンパウロ         大塩 佳子

歌にのり体操楽し秋の朝
秋寒やななろ路に老いのしのび来る
秋の日の夕陽の祈り鎮魂歌
うそ寒し根菜多き豚汁を

   サンパウロ         川井 洋子

住み古りて此処がふるさと柿熟るる
健康が第一歩るこう会の秋
老えば尚街に住みたし暮の秋
名無きにも命をつなぐ小草の実

   サンパウロ         岩﨑るりか

秋風に吹かれ献花を手向けおり
浸したる足すかし見る秋の水
ビリの娘の完走ほめる運動会
墓地帰り亡き母の笑み見し秋雲に

   サンパウロ         西森ゆりえ

爪立てて柚子の香深く吸い込みぬ
一人居の更湯につかり虫の夜
我ここを去りてもつばめは戻り来ん
石蕗の花黄に乱れ句座に咲く

   サンパウロ         平間 浩二

母の日やなべて男の子は母を恋ゆ
鶏頭や今流行の鶏冠髪
リベルダーデメトロに活けし石蕗の花
他人の道我が道もありちろろ鳴く

   サンパウロ         太田 英夫

何はさて寝るが一番この夜寒む
秋彼岸お経聞く人眠る人
秋出水年中行事となりし国
秋晴れや扱(こ)き使われる洗濯機

   ソロカバ          早川 量通

縄引や老いも若きも運動会
虚子の忌やいざ鎌倉と句友集ふ
栗拾ひ食めばなつかし里の山
沢蟹や穴に巣ごもり秋の水

   サンパウロ         佐古田町子

根深汁寒さしのぎの味のよき
秒針の刻む早さや秋の床
うたかたの命尊し秋の晴
秋の靄払われ朝市活気付く

   マリンガ         野々瀬真理子

鉢の椰子真直ぐ伸びて葉を開き
ピリキットはトントン歩き何食べる
四方向いて真赤に咲いてアマリリス
遣り水を怠たり枯らしチューリップ

   サンパウロ        小林エリーザ

母の日を祝い呉るる幸子沢山
母の日や杖をつき娘と庭散歩
秋の水プールは満員母子連れ

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