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第48回 日本人が信じられないブラジルの不都合な真実 ⑧

ATMは動いている銀行職員のスト

ATMは動いている銀行職員のスト

 なかなか予定が立たないブラジルという話を何度か書いてきたが、大いに予定を狂わされるものの一つで、今の日本では信じられない、われわれにはどうしようもできないのが、ブラジルのストライキ(以下スト)である。今週もなんと銀行職員のスト。ATMは動いているものの窓口は閉まっている。企業活動にかなり影響が出るだろう。
 少し前には、サンパウロのグアルーリョス国際空港の税関がストで、荷物が止まってしまっていたし、郵便局のストもあった。3月に日本から郵便局ルートで送った荷物が、サンパウロの最寄りの郵便局に着いたのが7月だった。何をどうすればこんなに時間がかけられるのかが不思議だ。
 これで着かなければ、どこかで止まって忘れ去られたのかと観念できるところだが、遅れても着くのがブラジル。遅れることに慣れていて、それを待てるのもブラジル人。欲しいものを手に入れるためには、1、2時間並ぶのは平気な人たちである。すぐに前後の見知らぬ人と、まるで長年の友達のように話し始めるので、1、2時間はあっという間。だから、イライラしたり怒ったりしない。
 ストの中でもちょっと面白かったのが、昨年W杯の直前ぐらいにリオデジャネイロであった、銀行の警備員のスト。給与と食費のアップを要求したストで、確か一週間近く続いたと思うが、泥棒王国のブラジルにとってはまたとないチャンス到来か、と思ったが結局何もなかったようだ。逆に、警備員は本当に必要か、という疑問を銀行の経営陣が持ったのではと思わせるストだった。
 ストは教職員、大学教授から病院職員、バスの運転手、地下鉄職員とありとあらゆる業種に及んでおり、いつどこで、「停滞」に遭遇するかわからない。おまけに、集中豪雨などによる停電や突然インターネットが落ちることは毎月のようにあり、仕事が進まなくなる。
 さらに出かければ、いたるところが渋滞で、営業でも1日2軒から3軒まわるのが限界である。社員は1年に1カ月の休暇をとり、時間ぴったりに帰る。残業代は平日が60パーセント増し、土日は倍払いとなるし、すぐに労働裁判になるので、日本のようなサービス残業は絶対にさせられない。
 日本は所属している企業・団体や、仕事が家庭や個人よりも重視される傾向にあるが、ブラジルは会社や仕事よりもすべてにおいて個人が優先される。職場においては個人の労働環境であり、仕事よりも家庭や家族が大事だ。さらに、企業はオーナーのものであり、資本と経営、資本家と労働者が明確に分かれている。
 ほとんどの会社やお店でオーナーはお金を出す人であり、現場の仕事はやらず経営はプロを雇って結果を求める。社員はある意味、数字であり、育てて将来の幹部にということはあまりない。当然、そこで働く社員もそれがわかっているので、頑張って効率を上げたり、売上が少しでも上がるような工夫をしようとしない。
 そこで今日1日が楽しく過ぎることを考え、同じ労働量で少しでも待遇が良いところがあれば転職もする。お互いブラジル人同士、それがわかっているので、効率が悪いために並ばされても文句も出ない。
 効率重視、所属団体へのロイヤリティの高い日本人には、なかなかわからないブラジル人の実態である。経済悪化で失業が増え、何もしなくても売れていた時代が終わり、売上を上げるためには顧客サービスが重要であることが認識されれば、少しは効率が上がるかもしれない。文化と歴史に深く絡まったことなのでそう簡単には変わらないとは思うが……。

輿石信男 Nobuo Koshiishi
 株式会社クォンタム 代表取締役。株式会社クォンタムは1991年より20年以上にわたり、日本・ブラジル間のマーケティングおよびビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場用地選定、工場建設・立ち上げ、各種認証取得支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。  2011年からはJTBコーポレートセールスと組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供と中小企業、自治体向けによりきめ細かい進出支援を行なっている。14年からはリオ五輪を視野にリオデジャネイロ事務所を開設。2大市場の営業代行からイベント企画、リオ五輪の各種サポートも行う。本社を東京に置き、ブラジル(サンパウロ、リオ)と中国(大連)に現地法人を有する。
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