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『百年の水流』開発前線編 第一部=北パラナの白い雲=外山脩=(66)

華やかなりし時代

 1940年、トゥレス・バーラス移住地のセードロ区に40アルケーレスの土地を買って入植、カフェーを植えた。栄太郎、すでに60歳を過ぎていた。やがて終戦後のカフェー景気が来た。
 以後の栄太郎の暮らしぶりが面白い。市街地でも一部しか電化されていない時代だったが、自家発電をした。トラトール、カミニョンを新品で買った。英国製の背広を着、パナマ帽を被り、オメガの金時計を使った。靴も最高級品を履き、煙草も一番高いものを吸った。
 祝い事があると、サントスに居て漁師をしていた橋本重左衛門に連絡、海魚を取寄せた。汽車でジャカレジーニョまで送らせ、車でセードロ区へ運んだ。無論、氷詰めにしたのであろうが、500キロ以上の距離である。よく鮮度がもったものだ。
 子供の結婚式の時、誰かが、運んでいた嫁入り道具を誤って壊してしまった。皆、青くなった。すると「心配するな、すぐ代わりを買ってやる」と一言、その通りにした。
 栄太郎はカフェー生産者として、特別大きくやっていたわけではない。それが、こういう調子だったのだから、当時のアサイの景気が、どんなものであったか、想像がつく。結婚式は、どこでも盛大だった。郷子さんは「華やかな時代でしたヨ」と懐かしそうだった。

祖父の家を買戻す
      
 この栄太郎をひどく慕っていた少年がいた。孫である。後年、連邦警察で活躍、名を馳せたマリオ池田氏である。
 マリオさんは1945年の生まれで、セードロ区の祖父のもとで育ち、8歳の時、両親の居るアサイの市街地へ移った。上の学校へ進み、先生をしたり、ガソリン・ポストを営んだりしていた。1975年、友人から勧められ、連邦警察の警官の募集に応じた。採用枠300人に対して、志願者は11万人以上にのぼったが、合格した。30歳だった。
 ブラジリアの警察学校を経て、8年間、在サンパウロ市の連警で勤務、その間大学に学び、デレガードの資格をとった。ロンドニア州のポルト・ヴェーリョ、ミナス州のヴェロ・オリゾンテで勤務、サンパウロ市に戻り、連警州本部の密輸部門の責任者になった。
 名を馳せたのは、この時期(1995~8年)である。当時、密輸入が非常に多かった。が、捜査官が買収されるため、摘発は不活発であった。マリオさんは次々摘発した。その度にテレビや新聞に登場した。同僚から「あの男(密輸入犯)は、自分の知合いだから、見逃してくれ」と頼まれると「それを文書にして、アシーナして持って来い」と答えた。
 1999年に、グアルーリョス国際空港署の署長になったが、翌年、手術の失敗で下半身不随となり、退職した。
 それよりかなり以前、1970年代から1980年代にかけてのことであるが、日本から皇族や政府の要人が来伯すると、その度にマリオさんは護衛官を務めた。皇太子(現天皇)ご夫妻にも付き添った。
 皇太子ご夫妻が、サンパウロからロンドリーナへ向かった折は、後ろの席にいた。飛行機が小型で天井が低く、立ち上がった時、頭をぶつけてしまった。殿下が「おッおッ……大丈夫ですか?」と気遣ってくれた。
 何処でも、ご夫妻が泊まるホテルでは、隣の部屋に寝た。部屋の前がサロンになっており、そこに居ると、殿下が出てきて色々訊いてくれた。マリオさんが主に話したのは祖父のことだった。
 マリオさんは祖父を懐かしく思い続けていた。少年時代に暮していた祖父の家は、その死後、売られ、別の場所に移されていた。が、それを買い戻し、セードロ区の元の場所に運んで再建した。

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