ホーム | 文芸 | 俳句 | ニッケイ俳壇(868)=星野瞳 選

ニッケイ俳壇(868)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎

故国より蕗味噌届き老の春
茄子漬噛む顔中の皺動かし
あめんぼの夕焼波に身をゆだね
横跳びに仔牛が跳ねて喜雨至る
投げ縄の如舌とばしカメレオン

【この十月三日で稚鴎さんはめでたく百才を得られた。そして七百句の第二句集を世に出された。第一句集の一千五百句と合せて二千二百句を出された。ちなみに念腹句集第一と二を合せて一千二百五十七句をはるかに一千五十七句を飛び超す大成績である。村松紅花先生の好句評集も得て居られる。前進を待って居ります。『あめんぼは、あめんぼ科のこん虫で足が細長く水中をなめらかに走る』】

   北海道・旭川市       両瀬 辰江

晩秋の窓にやさしき日のぬくみ
晩年の余白うずめる句作秋
白雲湧くが如き秋晴れの空
秋の魚焼く二匹並べて母娘在り
浴場の窓から見える雪の大雪山

【いつもの通りご投句ありがとうございました。お歳を得られても元気を出して居て下さってうれしく思います。ブラジルも今、平和な国になりつつあります】

   プレジデンテ・プルデンテ  野村いさを

首傾げ思案ありげにベンチビー
掃苔の芝生一面花園に
恒例の春の図書市和やかに
カンポスの小径なつかし落し文
妻逝きてふと知らぬ蘭次々と

   ジョインヴィーレ      筒井あつし

ジャボチカバ隣の番犬猛々し
街灯の残る未明の鳥の恋
未明より庭姦しき鳥の恋
妙薬はカイピリンニャか春の風邪
春の風邪ひきし抱擁ゆるされず

   ボツポランガ        青木 駿浪

離農跡古井に咲けり日照草
アマリリス猛犬ありと札のあり
飼犬の巻尾きりっと柿若葉
つまびらか咲いて床しき苔の花
貧厨に玉葱吊るせし匂ひかな

   サンジョゼドスカンポス   大月 春水

春雨のまだチョット足らぬ流れ雲
誕生日明日迎える事云わず
老眼になお見えぬ目に小活字
白寿にわ少し間がある歳になり
文通の友の返事を待ちあぐね

   リベイロンピーレス     中馬 淳一

空揚げや塩味うまきマンジューバ

『マンジューバ』はポルトガル語でカタクチイワシやトウゴロイワシなどの総称。

『マンジューバ』はポルトガル語でカタクチイワシやトウゴロイワシなどの総称。

冷え切った西瓜の肌のしずくかな
切り西瓜両手にかざし客を呼ぶ
初夏の空飛びゆく飛機の点となり

   サンパウロ         湯田南山子

待望の両手みやげにはたた神
恵まれし喜雨に秘蔵の火酒の栓
ガラス戸を割らんばかりや日雷
耳しいに激雷知らずガラス窓
落雷に思わず呼びし洗礼名

   サンパウロ         寺田 雪恵

温泉に花を浮かべたり春の風
チラピアと写真を撮りて春の池
丁度よい湯となる春のたそがれに
人生の垢流し切れぬ春の湯に
冷蔵庫猫ものぞいて居りかまぼこを

   アルバレスマシャード    立沢 節子

皇族をむかえて祝す移住祭
黒田節米寿で入選唄祭
ぼけないようにと手芸にはげむ老の春
夜更けまで賑ぎ合うカラオケ避暑の宿
月毎の命日の墓参夾竹桃

   サンパウロ         鬼木 順子

緑陰や根本露草盛りなり
何処から蚊帳吊草や我が狭庭
音も無く稲妻だけの夏の雷
炎帝の入る隙間無き雨季の中
学び舎や雨音激し雹混じり

   サンパウロ         佐古田町子

腐蝕土にみみず太々夏の庭
埒もなき話に和して夜涼みす
億年の地球に一と時生きて秋
ランドセル私の財産故国へ発つ
無口なる友は誠意の白イッペー

   イタチーバ         森西 茂行

街路樹の実の房雨後に滴くして
青茄子の種を探せど見つからず
夏布団気ままに合せて使いおり
夏暑し煎餅布団の出番なり
健康の食品第一そばの味

   マナウス          東  比呂

独立祭国家斉唱に胸抱き
密林の流れに添いてモルフォ蝶
君知るや椰子の新芽の木の芽和え
南へと移りゆく陽や夏近し
花咲けば摘むにはおしき葱坊主
蜂鳥や狭庭のとぼしき花を吸う

   マナウス          宿利 嵐舟

陽炎燃ゆ野道に白き草の花
青空や縺れて遊ぶ恋蝶々
花見つつ鰆肴に昼の酒
鰆食えば止めるつもりの酒恋し
夏近し雷様も音分かせ
霧にかくれ泣いているのか葱坊主

   マナウス          河原 タカ

夢の中会いたき人が陽炎える
独立祭パレード見入る道路端
交差点アグァ売る声夏近し
冷酒飲み浅蜊吸い物あと昼寝
赤ワインポンセチアの如き色

   マナウス          松田 丞壱

陽炎の立ちのぼる道大渋滞
大河行く蝶の移動も浪のごと
鰆釣り一匹釣れても大漁で
母逝きてはや十三年忌春彼岸
アマゾンの眼射る夕焼沈み行く

   マナウス          山口 くに

軍用犬もミリタルルック独立祭
蝶ふすま河岸に見送るひと包む
砂を吐くバケツの浅蜊舌を出す
アマゾンに老いて望郷浅蜊汁
日脚伸ぶサロンに立ちより髪を切る

   マナウス          橋本美代子

マナウスは河に浮く街陽炎える
渡りする蝶の行方や大河越え
夫呼んで擂り役代わる木の芽和え
青澄みてサーフィンの海夏近し
げんこつに共に涙し教師の日

   マナウス          岩本 和子

アマゾンにいつしか老いて葱坊主
羽根ふるわせピタッと止まりて蜂雀
春眠の母百歳にあといくつ
陽炎や車の渋滞どこまでも

   マナウス          丸岡すみ子

胸張りてパレードする子等独立祭
茂みからふっと光りてモルフォ蝶
鼓草仲良しこよしの手に摘まれ
冷水の旨き日々増え夏近し
三十五年日本語教えし教師の日

   マナウス          村上すみえ

空港を出て陽炎の立つ街へ
旅戻りて懐かしき街陽炎えり
たんぽぽを初めて見る孫ミナス路に
朝まだきフェイラのざわめき夏隣

   マナウス          阿部 真依

とれたての鰆ほうばり舌つづみ
故郷や蒲公英香る田舎道
陽炎や喉を潤す水の音
登山道山ガール増え夏隣
緑増え白が映えるや葱の花
祖母と母合せ味噌味浅蜊汁

   マナウス          渋谷  雅

アマゾン河日々の減水夏近し
久々に袖無しそろえ夏近し
今日だけはやさしい先生教師の日
湯気立つよな街の空気極暑かな

   マナウス          吉野 君子

陽炎える百キロの道路飛ばし行く
午後一時空港ガレージ陽炎えり
独立祭椅子選手重なりて
手をつなぎ母と歩いたたんぽぽの丘

   パリンチンス        戸口 久子

独立祭大河の上に花火散る
蝶吹雪大河を目指して飛んでいく
カツオに似て鰆の刺身も又美味い
アマゾンの濁流の大河悠々と
行く秋の一世皆逝き我一人
アマゾンに悔なき人世六十一

   サンパウロ         武田 知子

日溜りに産毛ひからせ蕨出づ
焼け跡に籠りしわらび拳出し
二枚貝片われ何処桜貝
桜貝のみ味知らぬコレクション
春草や昔の道はやわらかき

   サンパウロ         児玉 和代

飴色にこけしの齢春の塵
夏めくや大盛サラダのダイニング
孫一人が我が家の男の子春の風
手入れせぬ庭に蘭咲き春深し
麗かや伸びない腕の美容体操

   サンパウロ         西谷 律子

甘酢ぱい桑の実ふくめば里心
三人の仲良く並ぶ墓洗ふ
墓参いつ来ても坂険しかる
蟇の居るコジンニャ通り外厠
会ひに来たと母に声かけ墓洗ふ

   サンパウロ         西山ひろ子

濃く淡くさゆらぐ庭園草萌ゆる
二つ三つ終の風情金鳳花
伸びやかに艶やかに藤蔓奔放
コカコーラチョコを供えて墓参る
天を指し地に向く花に春日濃し

   サンパウロ         新井 知里

春光の中連れだちてピクニック
苗札にいちじくとありすぐに買う
修理したカザロンデシャで春の舞
何回も咲いて呉れたるシクラメン
うららかに人集い寄りモジ祭

   サンパウロ         三宅 珠美

煙がすみすっきりとせぬ目覚めかな
蜂すずめ花をパートナーに踊るかに
春宵や時計と合わぬ明るさよ
花が好き勿忘草の名前好き
おぼろ月よりそうて影の身動かず

   サンパウロ         原 はる江

街灯のまばらの明り春の闇
紫を愛でし亡き友ジャカランダ
時雨る中止めても聞かず子は行きぬ
朝顔の雨にもめげず一と日咲く
雨風に細き身くねりて合歡(ねむ)の花

   サンパウロ         山田かおる

アリアンサ第二のふるさと墓参る
田舎よりもらい来しにらの株植える
風邪に伏しお稽古ごとも皆遠く
笹蘭の咲きミナスへ越した友偲ぶ
おしゃべりで明るい嫁居て春うらら