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聖域なし!政界トップに捜査=連邦警察がルーラを直撃=身内の暴露で深まる亀裂=駒形 秀雄

強制聴取の晩に、PT本部に駆けつけたルーラに心酔する活動家たち(Foto: Ricardo Stuckert/Instituto Lula, 04/03/2016)

強制聴取の晩に、PT本部に駆けつけたルーラに心酔する活動家たち(Foto: Ricardo Stuckert/Instituto Lula, 04/03/2016)

 暑い夏も終わり子供たちの学校も始まりました。カーニバルのお祭りも終わったので、大人たちも「さあ、仕事、仕事」と気を入れ替えています。
 ブラジリアに集う政治家達も不景気に負けない仕事ぶりを見せなくちゃと思ったのか、先週は二つの大きな出来事がありました。
 まず、金曜日、ルーラ前大統領が強制的に連邦警察に同行を求められ、自身の大統領時代に「地位を利用して不正な利益を得ていなかったか」などの取調べを受けました。予期せぬ警察ざたに「お国ためにと汗水流して働いた前大統領を、罪人扱いするとは何事だ!」とルーラはカンカンになり怒りをぶちまけました。聖域はない、司直の手が政界上層にまで伸びたのです。
 次に、これとは別にPT与党の中枢に居たアマラル上院議員が「ルーラもジウマもペトロの汚職に関与していた」と云う主旨の陳述を司法機関に行っていた、と雑誌『ISTO E』が3月4日付け記事で暴露したのです。アマラル上議は与党PTの上院リーダーだった人で、政権内部の情報に裏も表も詳しい人なのです。「すわ反乱、PT政権もこれで終わりか!」と社会に大きな衝撃を与えました。
 怪しいうわさはあったが中々手が付けられないでいた政権トップへの「司法警察の手入れ」と「身内による内部情報の暴露」は火山帯の上で何とか生きている政権与党にとっては、遂に噴火口が、それも二つも同時に現れたようなものです。
 さあ、この不気味な噴火口、地表の亀裂を拡大して大爆発を起こさすのか? 何とか神のご加護を得て、あと1―2年爆発せずに納められるのか? 興味は尽きませんが、この辺を皆様と一緒に探ってみましょう。

権限無くせばタダの人

 3月4日、朝まだあけきらぬ6時に連邦警察スタッフがサンベルナルド・ド・カンポにあるルーラ氏の自宅に入りました。捜査のために警察署まで同行してくれと云うのです。容疑の取調べは便宜上コンゴーニャス空港内の警察署で3時間近く行われました。
 ルーラ氏はその後PT党本部へ直行し、記者会見して「強制連行されてまるで誘拐されたような気分だった。今まで国のために働いてきた正直者の前大統領にこんな扱いをしてよいのか」大いに憤慨して司法警察の非を訴えました。
 この間、ルーラの居る警察また自宅マンションの前にはルーラ反対、ルーラ支持の各グループが集り、両派の間では乱闘騒ぎまで起こっています。
 ルーラ一派に対する容疑は「グアルジャー海岸にある見晴らしのよいTRIPLEX豪華マンションは、表向き他人名義になっているが、実はルーラの物でないか?」「アチバイア(保養地)にある大別荘も本当はルーラの物でないか?」というもの。
 それらの資金は、元をただせば公社関係の取引きで利益を得たゼネコンなどの業者から出たものでないのか?」などです。
 これと別に「ルーラ協会」が2千万レアルほど、ルーラの講演を取り仕切るLILS社が1千万レアルほどの入金を得ているが、提供した業務のわりに金額が多すぎる。不正入金の偽装はなかったか?などの疑いも指摘されています。ルーラのような大物にまで司直の手が伸びたということが世間の注目を浴びるわけです。
 以前大統領で在ろうと無かろうと、汚職や不正容疑があれば厳正に捜査を受け、結果として罰も受けるというのは先進国フランスやイタリアでも沢山例があります。「大統領も辞めてしまえばタダの人」の筈なのですが、AQUI BRASILでは感覚も違うのでしょう。

すわ、身内が反乱?

司法取引の交渉をしているデウシジオ上議(Foto: Geraldo Magela/Agencia Senado, 18/05/2015)

司法取引の交渉をしているデウシジオ上議(Foto: Geraldo Magela/Agencia Senado, 18/05/2015)

 同じく先週末、雑誌『ISTO E』に政権の不正暴露記事が掲載されて、一般社会をアッと驚かせました。
 暴露の主役は以前与党PTの上院政府側リーダーを務めていたアマラル(DELCIDIO DO AMARAL)上院議員でその暴露記事の内容はこんなものでした。曰く「ペトロ公社の汚職などについてルーラもジウマも状況を知っていた」「ペトロ公社に8億ドルの損失を与えたといわれる米国の精油所買収についても関知していた」「政府側汚職の解明に関して司法措置で便宜をはかる様干渉した」「これらは事実の一部で本文は400ページにもなるもので、司法当局と(減刑の条件つきでの供述)合意を交渉している」という内容です。
 この記事の内容が本当なら「私は汚職事案には一切関わっていない。私が個人的利益を得たことも絶対ない」「汚職は厳正に捜査して、取り締り不正があれば法に従い罰すべきだ」としていたジウマ大統領は、その〃良い子〃の仮面を引き剥がされることになります。
 その上、自身汚職などの犯罪にも関わっていたとなったら、インピーチメント(罷免)につながります。政府側は「アマラルの供述は信用できない。確かな証拠も示していない。逮捕議員第1号とされたアマラルは、それを許した政府側を恨んでこんな悪口を言いふらそうとしているのだろう」が第一声です。
 政府与党でもあるPMDB党からは、「こんなPT政権はもう命運尽きた。もう打つ手もないPT政権を見限って別の道を行こう」と云う声が上がっています。
 野党PSDBのアエシオは待ってましたとばかり、「我々が言っていた通りだ。PT幹部は貧乏人の味方だといって、実は自分達の私腹を肥やしているのだ。『PTの正体見たり』だ。ジウマも一人前の政治家に並びたいならここで潔く辞任しろ」と声明しています。
 アマラル氏はマットグロッソ州選出、マウア大学を出て電力公社、石油のシェル、ペトロブラルなどの役職を務めている。1994年には短期間ながら、鉱物エネルギー省暫定大臣もやっています。PT党では上院の政府側リーダーとなり、プラナルト大統領府、大統領公邸などに常時出入りしており、政権内の事情を台所まで良く知っているのです。
 それなのに、昨年11月、ペトロ不正の事件捜査を妨害したとして突如逮捕され、今年2月留置から釈放されたばかりです。この不名誉な逮捕劇から守らなかった政府への腹いせとして今回の暴露をしたんだろう――そう、政府側からは見られています。

これからどう動くか

 もともと「一寸先は闇」の政界ですから、「これからどうなるか」と聞かれても中々明快な答えは出て来ません。
 ハッキリしていることは上に述べたような各党の状況から、今週から激しい動きが出てくるだろうとことです。
 また、3月13日に予定されている(反政府デモ)も人民大衆の声ということで気になります。議会では政権側が多数でも物価高、失業、犯罪に悩む人達の力が政権打倒の引き金にもなりかねないのですから。
 それで、ここは政界事情に詳しい(カンベさん)の見かたをご披露いたしましょう。
    ★   ★
 ジウマとその政治親ルーラの間は汚職捜査の進め方などに関し関係がギクシャクしていた。
 しかし今回の雑誌・アマラルの暴露で、自分の身にも害が及ぶか、と心配したジウマは警察のルーラ聴取の直後ブラジリアからサンパウロに飛び、ルーラ宅を訪ねた。「ルーラさん、ご心労をお掛けして済みません。世間の風評に惑わされず、私達は一心同体でこの難局を乗り切りましょう」
 ルーラは衰えたりとはいえ大衆的人気はあり、政治動員力もある。ジウマとしては、もやもやを解消し、その全面支援を得たいのは理解出来るところだ。
 アエシオ等の野党側の出方はハッキリしている。ジウマPT政権のスキャンダルを突く、だ。ルーラは庶民の味方だと言いながら、一言口をきいて百万の収入を得る。海や山の豪華な別荘で絹の布団じゃないか。今まで非難していたエリート貴族に、今は自分がなったのだ。こんな偽りのPT政権を一刻も早く打倒して政権交代をしよう、だ。
 ここで疑問となるのは、与党であるはずのPMDB党の出方だ。党首のテーメルは『今こそ全国民が一致団結して、この苦境を切り抜けよう』と教科書に在るようなことを言っているが、具体策はない。
 肝心の足元の与党はバラバラ、『PTとは切れて野党になろう』や『政治家は政権あってこそだ。PTとついて権力を得よう』と意見が纏らないでいる。下院議場の座を追われそうなクーニャ一派の力も無視は出来ない。
 もう一つ、アマラル発言は自分の力を誇示したいための観測気球だという意見や、アマラル発言は実は政権側の馴れ合い『出来レース』で政府のためになる発言だという情報もある。政治の世界は分かりにくい。
 総体としては、この混乱は続くが経済不振もあり、与党から野党に移る小政党が出たり、現政権を見限る勢力が増えるのでないか。日本ではン万円を受け取っただけで辞職した大臣が居たが、ブラジルの政治家は自分から辞めたりはしない。
 それを辞めさせるには―動かし難い不正の証拠を突きつけ、更に罷免に賛同する同志を増やして、正面突破で政権交代をはかるしかない。
 「こうだ」という方向性を見失って居る経済を再興させ、国民の真の声を反映する政権こそがブラジルの発展を約束してくれる新政権への期待感が高まっている。(08・03・16記)

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