ホーム | 日系社会ニュース | ブラ拓糸=西陣や博多でピカ一と絶賛=欧州ブランドも大量採用=創立87年、コロニア老舗企業=ドアルチーナ工場は閉鎖
ブラ拓のバストス工場
ブラ拓のバストス工場

ブラ拓糸=西陣や博多でピカ一と絶賛=欧州ブランドも大量採用=創立87年、コロニア老舗企業=ドアルチーナ工場は閉鎖

 「常に『今より上』を目指している」――コロニア最古の企業の一つ、伝統のブラジル拓殖組合の名を受け継ぐ「ブラ拓製糸株式会社(BRATAC)」(谷口滋社長)。1929年3月のブラ拓組合創立から87年がすぎた。その間、敵性国資産凍結令も経験。戦後は生産量の拡大を続けることで経費を抑えてきたが、安価な中国製品の台頭もあり、97年以降は生産量が減少傾向にある。現在は高品質な製品に生き残りをかけている。茂原勉専務取締役(67、群馬)にブラ拓製糸の現状を語ってもらった。

交配用の蚕を取り出す従業員

交配用の蚕を取り出す従業員

 輸出先は日本、ヨーロッパ、インド、ベトナム、トルコなど多岐に渡る。品質に対する評価は高く、世界的に有名なフランスの「エルメス」ブランドで使用される絹の9割を供給している。
 日本移民史料館にJICAシニアボランティアとして派遣されている着物専門家の吉積俊子さんによれば、ブラ拓糸は日本でも人気が高い。
 「中国・ラオス・ベトナムなどから絹の輸入があるが、ブラ拓糸はピカ一。良い糸はツヤもあり染めた色も落ちない。また良質の糸を使った帯ならば、着物もきちんと締まるが体に負担がかからず、しかも一日中緩まない」そうだ。ブラ拓糸はその条件を満たしており、着物作家も呉服屋も最高級品として認知しているという。
 そのため西陣織でも博多織でも高級品はブラ拓糸で作られている。ただし生産量が少ないゆえ非常に高価。インターネットで「ブラ拓糸使用」の帯を検索したところ、すぐに18万円也の高級品が見つかった。
 80年代から拡大傾向にあった生産量は、96年に1393トンを記録して以降、減少を続ける。今年の生産予想は500トンだ。「ピーク時には5千家族以上いた」という契約農家だが、現在は2100の家族が養蚕を担う。
 茂原さんは「経済発展に伴い労働力が第2、3次産業に移ってしまった。農家が減って原料確保が出来なくなった」と生産縮小を説明する。現在はバストスとロンドリーナの2工場。89年操業開始のドアルチーナ工場は、生産減少に伴い09年に閉められた。
 高品質な糸について茂原さんは、「均一な太さや強度の確保、そして天然繊維に必ず生まれる節をいかに少なくできるか」と述べ、「生糸にもピンキリがある。常に上を目指している」と話した。蚕の病気対策、良い血統の卵の選別、地域に合った桑の研究など。多大な経費をかけて品質維持を行なっている。
 生産量の大半を輸出しているだけに、「大震災やテロが起きると消費が冷え込み、目に見えて数字が落ちる」という。近年の生産は縮小傾向にあるが、決して拡大を諦めたわけではないという。蚕の育成を自社で行なうなど、まだ経営上の工夫はできると言う。今後の方針について茂原さんは、「世界で最後まで残る企業でありたい」と力強く述べた。

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 「中国がくしゃみすれば、こちらは高熱にかかる」。台頭いちじるしい大国とのバランスを、ブラ拓の茂原勉さんはそう表現した。養蚕農家の次男だったが、67年にBRATAC事業拡大の求人により来伯した。日本で売られているブラ拓糸の帯は、素晴らしく色鮮やかだが、1本6千レもする。絹の帯は100年以上使えるそうだが…。着物好きの妻を持つ耳子としては、一生に一度は清水の舞台から飛び降りる覚悟で、そんな〃本物〃をプレゼントしてみたいものだ。

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