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ニッケイ俳壇(882)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎

アララ飛び花野の虹は濃かりけり
向ふ岸鹿現れてこちら見る
風鈴の尾の力抜け酷暑来る
差し向けし灯に目を剥いて枝の木莬
滝くぐり来て中空に囀れる

【明治の偉人・正岡子規がそれまで日本にあった俳句や短歌を写生であるべきだと改革した。その俳句を佐藤念腹がブラジルに伝えひろめた。稚鴎さんはアリアンサで念腹に教えられて俳句を得た写生俳句の達人である。この度百才を迎えられたが、元気なのでまだすばらしい俳句が見られる】

   プ・プルデンテ       野村いさを

秋出水橋を流され道も消え
夕月夜共に語りし友等の訃
ゆっくりと念仏誦して四旬節
ピラセーマ密漁の魚孤児院に
 ※『ピラセーマ』とは、ポルトガル語で魚群のこと。
とんぼうの消え失せしより幾年ぞ

   ボツポランガ        青木 駿浪

峡村の谷間にひびく威(おど)し銃
耐えるため馴れねばならぬ残暑かな
万葉の変らぬ瀬音水の秋
霞の世に生きぬく妻の気力あり
夕暮に山家の庭の柿明り

   サンパウロ         湯田南山子

天の川正に輝く二つ星
天の川見ぬ夜はさびし友恋ひし
露しとど草杉蔓のたわみよう
露の世と知らば風雅を楽しまん
さわやかや老のさだめと諾(うべな)わん

   サンジョゼドスカンポス   大月 春水

生きかえるキリストになぞえ聖書読む
秋風や丘のすすきをなぐり吹く
野に果てし移民十字架字も褪せる
初七日のミサ果てし世を頂きぬ
幼等はパスコアの卵をくらべ合ひ

   ピラール・ド・スール    寺尾 貞亮

夜な夜なの警備警鐘秋夜長
朝顔やくもり心を癒やしけり
ガジュツ花室すみずみに馨り満つ
星月夜天体変らぬ今昔
秋日和乗馬祭か村の衆

   ソロカバ          住谷ひさお

庭石に止まるとんぼの眼の動き
よく降るよ北麻州旱り続きとか
イペーや絆の六十年誌かな
鰯雲かき分けかき分け月進む
さわやかは陽の上るまでカミニャーダ
 ※『カミニャーダ』はポルトガル語で散歩のこと。

   サンパウロ         鬼木 順子

煙る雨人の暮らしの開け始む
ベランダや湯上がり憩う宵の風

   サンパウロ         寺田 雪恵

逝く夏を雷雨あばれる山荘に
湧き水の近くにふえいる赤トンボ
遅く来し便りに残暑の憂いあり
鳴き立てず雁並びゆく残暑かな
吾が昼食どれでも欲しい猫の秋

   アルバレス・マッシャード  近沢 節子

夜を徹し営業スーパー年を守る
浜を埋め白夜一色除夜花火
臼搗かずミクロオンダで作る餅
 ※『ミクロオンダ』はポルトガル語で電子レンジのこと。
折鶴を吊りて聖樹に色そえる
買って来し小さき餅を飾りけり
百才に後十年の年迎かう

   トメアスー         三宅 昭子

ひたすらに生きしアマゾン銀河澄む
モリンガの花も葉も入れ七草粥
アマゾンは大ポロロカに猿吠え椰子倒し
アマゾンに生く倖せやマンガ熟る
ひこばえや逞し孫の背の優し

【はじめてアマゾンのトメアスーから句を頂きました。久しく逢えないのですが、投句ありがとう。いつもあのモリンガの薬草ありがとう。私はあの薬草のおかげで九十八才、一病もなく元気です】

   サンパウロ         佐古田町子

老いてなお作句に意欲秋はゆく
子等集い母を大事に秋の卓
心配は無用と秋の街を歩す
一人には大きな西瓜子等かこみ
大方は子等にまかせて老うらら

   サンパウロ         小斉 棹子

漱石の『こころ』を語る良夜かな
異国に老い行く心胆鰯雲
孫と読む片言ポ語や十三夜
貼り紙をとく祖母の手の許雛の面
おお方はこの国で果て星月夜

   サンパウロ         武田 知子

言えざりし一語たたみて秋扇
刻を変え名を変え出づる夜々の月
余命知るすべは知り得ず星流れ
照れば金曇れば銀に鬼芒
女の雛語りかけそな茶室かな

   サンパウロ         児玉 和代

秋の声耳なりかとも雨の音
ひっそりと逝きてことさら秋淋し
幼な心ふと沸きひいなを飾りけり
灯を慕い飛び入る鳴かぬ秋の虫
影うすき秋蚊吾が手に打たれけり

   サンパウロ         馬場 照子

秋茜雲ミケロアンジェロの天井画
雨柱の影とて愛し残暑かな
今年こそ行かねばならぬ渡り鳥
南風師偲ぶ句宿に柿熟す
雛の日慈善に集ふ婦人会

   サンパウロ         西谷 律子

夜なべせし母の手太くたくましく
老うほどに故郷恋ひし鳥渡る
残された杖にしのばる人の秋
四番目の孫は女の子や雛の日
熱い茶をすゝり残暑を耐えにけり

   サンパウロ         西山ひろ子

爽やかに澄みし風音聞く朝
秋花のとりどりの彩供えけり
風音に混じりて秋の匂いかな
黄コスモスゆれて色づく風生まれ
夕虹や聖市の果の丘の上

   ピエダーデ         小村 広江

俄か雨止んで夜涼となりにけり
むずかしきことは明日に夜の秋
せせらぎのあふれ怖ろし秋出水
触れば刺す花にも涼風渡りけり
秋燕の見るみる点となり失せし

   リベイロンピーレス     西川あけみ

まるまるの鰯土産に息子来る
名月や停電なれば尚のこと
ブラジルの蒲焼うれし鰯かな
父母姉も今は亡き里柿紅葉
湖の眺めもそえて焼きたるミーリョ売る

   サンパウロ         柳原 貞子

一点を定め連れ飛渡り鳥
厨事十年一と日秋に入る
天高く伝言板の走り書き
リハビリのつもりの強歩秋の園
夏時間終りくつろぐ午後のお茶

   サンパウロ         大塩 祐二

蔓草にて咲く花一つ秋思かな
酌みて酔ひ酔いて又酌む新酒かな
新涼や身もひきしまる夜明けかな
夜半の月冴えて民家の屋根しずか
鉄鍋で箸つまる芳香うどんすき

   サンパウロ         大塩 佳子

体操にもあの日思いて『花は咲く』
秋思かな座右に字典拡大鏡
夕暮の何やらさびし秋厨
スマホ学ぶ媼ら元気秋の昼
友孫らと続く祝いに小豆飯

   サンパウロ         川井 洋子

いそいそと句会に出向く街残暑
平凡てこんなものかな鰯雲
竹林のぽかりと開けし秋の空
喧騒の闇の奥底みみず鳴く
野に在りて野に咲く草の花可憐

   イタケーラ         西森ゆりえ

この駅に娘はもう住まず秋近し
新フェイジョンやっぱり私はブラジレーラ
制服のかわらぬ子等に雨季長し
一本づつちがう箸なり冷ぞうめん

   サンパウロ         平間 浩二

新涼や肌やんわりと風過ぐる
新涼や身に添う風のやさしうて
秋灯やペンはかどりぬ夜更かな
秋めくや心に一句載せて詠み
秋思ふと我が自動車間違えぬ

   サンパウロ         太田 英夫

万愚節犬に遺産を残すとか
赤トンボニグロの目玉よく動く
天の川パソコンで見る子供かな
案山子かと見れば浮浪者歩き出す
虫の音や聞いているよな寝てるよな

   ヴィネード         栗山みき枝

秋深し外は夏日の暑さかな
椰子の花ハワイアンの飾りめき
ラベンダー淡いピンクの飾りめき
金鳳樹公園ベンチの花の傘
庭の樹々緑の若葉したゝりて

   アチバイア         吉田  繁

サビアの子触れてたちまち巣立ちかな
年末のカラオケに会ふ同船者
病床の友への暑中見舞かな
家事一切こなして我の端居かな
芝生刈り滴る汗や小半日

   アチバイア         宮原 育子

雲は早初秋の色や風もまた
お供へは畑の果物秋彼岸
枝豆や食べ終りたる殻の山
新秋や白い靴下おろしけり
一と皿の枝豆に夫と秋語る

   アチバイア         沢近 愛子

素朴なる風鈴吊るし満足す
南国の木漏れ日浴びて蘭育つ
葱刻み独りの夕餉も慣れて来し
松葉ぼたん時刻が来れば集い咲く
南国の釣り歯朶植えし時もあり

   アチバイア         菊池芙佐枝

目に浮かぶ餅搗たわむる孫と夫
草いきれ背丈の草刈る二人して
竹の子をにぎった手元に蛇が居り
五才孫ひとみの先にざくろの実
孫望む日本産の晦日蕎麦

   マイリポラン        池田 洋子

久々の日本酒に酔ふお元日
あらたまの挨拶届くEメール
めでたさも共に老いたり去年今年
みまかりし師を見送りぬ年の暮
初場所やテレビ観戦日に三たび

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