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本の表紙
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田所教授『ブラジル雑学事典』=ブラジル研究歴40年の集大成

 ブラジル研究歴40年、京都外国語大学の田所清克教授の集大成といえそうな大著『ブラジル雑学事典』(春風社、438頁、5千円+税)が4月に日本で出版された。
 同教授は刊行に当たり、次のようなメッセージを寄せた。《幼少の頃からアマゾンの雄大な自然とそこに棲息する動物(相)に強く惹かれた私は、ブラジルを対象とする研究者の職業を選ぶこととなった。院生時代の留学を含めれば、この国にはこれまで、実に55回訪れた勘定になる。現地研究とは言え、かくもブラジルを機会あるごとに訪ね続けたのはおそらく、私がこの国をこよなく愛しているが故だろう。その意味では、ブラジルは私にとって単なるケーススタディではなかったし、研究者としての私はブラジルによって創られた、といっても過言ではない》。
 そんな類稀な研究者が、幅広い視野から学際的にブラジル全体(自然環境、民族、教育、移民、歴史、政治、言語、文学など)を俯瞰し、入門的な部分からある程度の奥深い論考までが雑多に詰め込まれた著作。参考文献も随所に紹介されている。
 さらに同教授は《今回、大学を退職するに当たって公にしたのが、民族や社会とも通有のブラジル文化に特化した『ブラジル雑学事典』である。周知のように、一見して「引く事典」というよりは『読む事典』になっている。そして、研究者にも資するべく一定の学問的なレベルを保ちながらも、また他方において、ブラジルを概略的に理解しようとする人たちのために、国のかたちや社会構造、国民性などを素描し、内容面でも多様性を持たせた》との配慮をしたという。
 具体的には「ブラジル国歌を読み解く」「音楽によってブラジルを再発見した楽壇の巨星、エイトール・ヴィラ=ロボス」「文人たちの視座から観たブラジルのサッカー、国民的スポーツに狂熱した作家たちと毛嫌いした作家たち」「ブラジルの国民酒カシャッサとインディオの口噛酒(くちがみしゅ)カウインの製造法」など独特の切り口の論考が続々と紹介される。
 たくさんのトピックやコラムがあちこちに挟み込まれており、読みやすくなっている。リオ五輪をひかえて当地への関心が高まっている中、「ブラジル学」に関心がある人には絶好の一冊といえそうだ。興味のある人は日系書店で注文を。

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