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ニッケイ俳壇(893)=富重久子 選

   コチア          森川 玲子

身を縮め朝の着替へや冬の入り

【ブラジルの歳時記では五、六、七月が冬季になっているので、六月はまさに冬季の真っ只中である。
 私もこの句の様に、朝は床から出て着替える時身を縮めて大急ぎで重たい衣服を身につけるが、それだけ年老いたのであろうかと思ったりする。季語の「冬の入り」が柔らかく一句を包むように詠まれている】

新米とて少し多目に炊ぐ(かしぐ)かな

【この句のように、新米は古米のように増えないので、少し多目に図って炊いたという、ただそれだけの事であるが、「炊ぐかな」という言葉に作者の姿の思われる女性的な、優しい佳句であった。五句を通じ巻頭俳句として推奨させて頂く】

きつつきの打つ三拍子四拍子
浮寝鳥蒲のしげみに見え隠れ
メトロ線地上を走る夕しぐれ

   カンポグランデ       秋枝つね子

冬ぬくし聞き手上手な嫁のゐて

【昔も今も、お嫁さんと姑さんとの仲は難しいものであるが、最近は各家庭が独立して昔ほどではないと思う。
 この作者は、大きく養鶏を営んでいてお嫁さんとの作業もあるのであろう。それにしても「聞き手上手な嫁」とはよい言葉の選択。きっと姑さんである作者の話を、「はいはい」と相槌を打ちながら聞いている様子である。「冬ぬくし」という季語のよい選択で、少しユーモアを交えた楽しい佳句であった】

朝な夕木の葉髪すく手ぐしかな
手芸に懲り体にまとふミニ毛布
大根蒔き犬に踏まれて畝なほし

   セザリオランジェ      井上 人栄

◎セラードの空欲しいまま鷹飛べり

【セラードは一度だけ行って眺めたが、ブラジルでなければ見られないパノラマである。
 広々とした光景は、吸い込まれそうな紺碧の大空を仰いで見飽きることがない。
 そのセラードの大空を、悠々と飛翔する鷹の姿は又すばらしいものであろう。まことに「空欲しいまま」である。ブラジルの大景を詠んで見事な佳句であった】

朝寒や淹れたてコーヒーアメリカン
寄鍋や酒は一杯あれば良し
セラードは一望千里天高し

   サンパウロ         間部よし乃

冬のばら犬の墓にも挿してあり

【ある女性作家の本に、「一人暮らしで六十を過ぎたら動物は飼わないほうがよい。それは高齢になって、犬や猫の世話が出来なくなった時、家人や他人に世話をかけるから」という記事を読んだ事を思い出している。
 しかし広い庭を持っているこの作者のように、愛犬の墓を作り花を手向けてやれるのは幸せである。季語の「冬のばら」が印象的な優しい句であった】

鯉幟ずっしり重い曾孫かな
母の日や孫も幼き子を抱きて
冬帽子横顔母によく似たる

   サンパウロ         大原 サチ

窓閉めてなほ木犀の香にむせび

【「木犀」は高さ三メートルくらいになる庭木で、秋の終りごろ小さな花が咲き、甘い芳香が漂う。やがて小花が盛りになると、垣の外を歩く人が立ち止まるほど強くなる。
 この句のように窓をしめても「香にむせび」と言うほどの強い芳香である。花は普通,橙黄色で金木犀と呼ばれ、白色の花は銀木犀と呼ばれている。木犀を詠んで佳句であった】

蘭開く人の心を知る如し
孫と来て二人のベンチ散る一葉
冬凪や明日別るる浜辺ゆく

   ボツポランガ        青木 駿浪

冬めくや老の歩幅に影ありぬ

【ここ一週間ばかり寒い日々が続き、看病にも大変な毎日と思われるが、よく頑張っておられる。
 「老いの歩幅に影ありぬ」と詠まれるのを見ても、やはり長年の疲れが出ることもあるのであろうと推測される。季語の「冬めくや」に想いが込められた佳句である】

三寒に耐へて病妻四温かな
日脚伸ぶ室内体操老の日々
病床の妻を見守る夜半の冬

   サン・カルロス       富岡 絹子

切干や祖母のにほひの皺深き

【「切干」は大根を薄く切ったり、千切りに細かく切ったりして筵の上に広げて干したもので、保存食として煮付けや味噌汁、酢の物などに使う。
 私もよく田舎で、祖母がお天気の良い日に曲がった腰を伸ばしながら、筵の上に干していたのを見ている。この句の様にまことに、「祖母のにほひの皺ふかき」であって、懐かしい郷愁そそられる佳句であった】

縁遠き二人の娘マリア月
少年と老爺並びて冬帽子
寄鍋や貧しきものもそれなりに

   サンパウロ         須貝美代香

俳句詠み定年もなし冬のばら

【俳句に定年なし、とよく言われるが確かに俳句の勉強には定年も卒業もなく、夫々の趣味の楽しい学びであると思う。先人の優れた俳句を読み、また日本の俳句雑誌を読んで、近代の新しい俳句の様々な知識を学びとらねばならないのである。
 「冬のばら」が印象的な佳句であった】

母の日や和牛肉焼き塩むすび
形よき雲を見つけし冬の凪
傘を持つ仕草美し冬日和

   サンパウロ         鈴木 文子

子等に編む色違ひなる冬帽子

【最近はあまり編み物をする人を見かけないが、昔はよく何んでも編んで着たものである。
 「子等に編む」とあるので、作者も若い頃、何かにつけて編んで子供達に着せたのであろうと思われる。「色違いなる冬帽子」と、きれいなリズムの佳句であった】

親も子も結ばれし月マリア月
切干や歯応へも亦旨みとか
熱燗や笑ひ上戸に泣き上戸

   サンパウロ         平間 浩二

亡き母のお洒落でありし冬帽子
白髪や目深に被る冬帽子
寄鍋に弾ける笑顔夜も更けて
落ち葉焚く一陣の風火の粉舞ふ

   サンパウロ         山本英峯子

寒がりにいやおうなしの冬来る
戦なき国に兵士の日もありて
句心やポインセチアに一句二句
時雨るるや十五階なる句会場

   サンパウロ         林 とみ代

寄鍋やそれぞれ好み取分けて
落葉焚く煙ただよふ夕まぐれ
夫遺せし冬帽未だ捨てられず
庭師等の仕事終ひや落葉焚く

   サンパウロ         菊池 信子

一葉とて同じ模様なき柿落葉
寄鍋や昔はたのしみ鍋と言ひ
ふくよかな落葉に守られ生きる虫
身だしなみ良き人似合ふ冬帽子

   サンパウロ         原 はる江

祭日の続き楽しきマリヤ月
寒さ中聖火リレーのしめやかに
留守の家落葉と新聞溜りをり
亡き友の編み呉れしこの冬帽子

   サンパウロ         上村 光代

冬の月影ふみ出来る明るさに
冬の町皆丸くなり急ぎ足
野兎が野菜荒しに来たといふ
冬の月窓から見える星空も

   サンパウロ          鄭 美智

八十路なる今が青春天高し
冬の朝熊本地震のニュースあり
親友より読み物届く冬の朝
友作る上出来納豆食進む

   サンパウロ         鬼木 順子

仰ぎ見る大空遥かいかのぼり
息潜め落葉の下に虫動く
寒雀笹竹の揺れ飛び立ちぬ
箒手に頬被りして落葉掃き

【中々よい所を写生しての俳句です。二、三句季重なりがありましたので、訂正させて頂きました。季語を使うときは必ず「歳時記」を見直して確かめて見ましょう】

   サンパウロ         佐藤 節子

箱の中二匹生まれた兎かな
ウルブ群れ必ず獲物藪の中
ウルブだなぐるりとり巻き何探す
母の日や元気に集ひ幸せに

   ヴァルゼン・グランデ    飯田 正子

手芸品の小さなバンカ冬帽子
イビウーナは蔬菜の産地冬野菜
冬の夜ラーメン食べに十五人
突然に雷鳴ひびく冬の夜

   リべイロンピーレス     中馬 淳一

寒鯔や塩焼き加減旨さかな
ケントンを始めて飲みし焚火祭
落葉焚反古も一緒に焼きにけり
梅入れて梅酒となりし火酒かな

   ファチマ・ド・スール    那須 千草

切干も日本の文化母の味
今朝の庭煙にむせて落葉焚き
落葉掃き古びて錆びし猫車
祝ふ日や金婚式のマリア月

   ピエダーデ         国井きぬえ

戸締りや寒風に星揺れてをり
大相撲邦人も増え楽しめる
窓越しに雨雲増える冬の山
冬日さす日向ぼこりや太陽の子

   タウバテ          谷口 菊代          

会社へと冬風の中出勤す
冬の町冷たい空気気持ちよし
茶の花や今年こそはと見事咲く
ツルサンジョン隣の庭に美しく

   ドラードス         伊藤みち子

昼御飯ちらし寿司なる切干で
外出のおしゃれにかぶる冬帽子
隙間風気になる季節寄鍋で
薔薇挿していつも幸せ母の日に

【初めてのドラードスからのご投句でした。よく整った俳句でしたので、少し気になる所だけを添削させてもらいました。続けてご投句下さい】

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