「ブラジルが太平洋に通じる鉄道を持ったらどうなるか?」というのは夢のような話だが、トランプ就任が時代の変わり目であることを考えれば、再考してもいいのではないか。トランプがTPP離脱を宣言したことで新しい動きが生まれている。ブラジルとアルゼンチンが1月31日、「日本、カナダを始めとする太平洋諸国との関係強化を望んでいる」との声明を出したのもその一端だ▼地政学的に見た場合、米国に比べてブラジルに足りないのは「太平洋側に繋がっていない点」だと常々感じる。アメリカが有利なのは大西洋から太平洋まで突き抜けた大陸国家であり、北は同盟国カナダ、南はメキシコに囲まれ、戦争がおきる可能性は皆無だからだ。二つの大洋に囲まれた地理性を活かすような世界最強の海軍を持ち、欧州とアジアという大市場に通じている「海洋大国」という優位性だ▼ロシアに台頭しつつある「ユーラシア帝国」というナショナリズムも似た考え方だ。ロシアがソ連衛星国というかつての影響圏を復活すれば、西は欧州、東は極東アジアまで繋がる「大陸国家」になる。中国には欧州に繋がる道はない。ロシアはその点、大陸を突き抜けた地理を持っている▼その一方、ブラジルも何十年も前から太平洋に抜ける道を建設しようと再三試みてきたが、そのたびに米国から邪魔されてきた経緯がある。先日、某連邦議員に「トランプ大統領になったいまこそ、太平洋に抜ける鉄道を作るときでは?」と聞いてみたら、「1990年頃にもサンパウロ州選出の連邦議員がそのプランを出したが、米国から横やりをさされ計画は頓挫した。まずは米国がウンと言わなければ、この話は進まない」と返してきた。「アンデス山脈にトンネル」と聞いて、米国の環境保護団体が大反対したらしい▼1992年頃に日本の国会議員を取材する機会があり、来伯目的を訪ねたら「アンデス横断鉄道の実現可能性を視察に行きました」と言われた。環境運動家シコ・メンデス暗殺事件の流れで、アマゾン環境保全に対する米国の環境NGOの監視が強まり、鉄道建設計画が消えた。その点、トランプ大統領は地球温暖化などに対して懐疑的な考えの持ち主であり、環境問題をうるさく言ってくる可能性は少ない▼先日、日本の外交官に「大陸横断鉄道をブラジルが作ろうと考えたら、日本は協力しますか」と聞いたら、「日本に全部資金を出させようという話になるのなら、日本は乗らない。それができても一番恩恵があるのは中国という可能性ある」と返された。日本とブラジルが主導することで、日本に有利な形にする何らかの手立ては組み込めないものか▼事実、中国は2014年にブラジルとペルー両国との間で『南米大陸横断鉄道』建設計画の事業化調査の実施覚書を交換した。3750キロに及ぶ予定路線は、サントス港からボリビア国経由太平洋岸ペルーのイロ港に達するという壮大なものだが、ジウマ政権時代の構想であり、今のところ具体化の動きは感じない▼もう一つの計画は、パラナ州のパラナグア港からパラグアイを通って、太平洋岸のチリ・アントファガスタ港に至る大陸横断鉄道の建設計画だ。現状では、こちらも計画倒れの公算が高い。だが後者を復活させてメルコスルとして取り組めば、ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチンからパラグアイを通ってチリに抜け、その先はTPP諸国につながる。メルコスル諸国の商品をそのルートを通して、チリを窓口にしてTPP諸国に輸出するシステムは作れないだろうか▼ブラジル、アルゼンチンが太平洋につながるのは歴史的な夢だ。ぜひ日系政治家にひと肌抜いてもらいたいものだ。実現したら、歴史に残る人物になるだろう。(深)