ホーム | ブラジル国内ニュース | 軍政令第5条(AI5)から50年=軍事政権

軍政令第5条(AI5)から50年=軍事政権

AI5を通過させたコスタ・エ・シウヴァ大統領(当時)(Presidência da República)

AI5を通過させたコスタ・エ・シウヴァ大統領(当時)(Presidência da República)

 1968年12月13日、「ブラジルの軍事政権史上、最悪の悪法」と呼ばれた「軍政令第5条(AI5)」が通過。ブラジルは20世紀最大級の激動を生きることとなった。
 事の発端は、同年3月28日にリオの大学生エジソン・ルイス・デ・リマ・ソウトさんがリオの軍隊に殺害されて大規模デモが起きたことだ。
 さらに、当時のグアナバラ州(現リオ州)選出の下院議員マルセロ・モレイラ・アウヴェス氏が68年9月に、9月7日の独立記念日の式典ボイコットを叫び、若い女性に軍人と交際しないようにとも呼びかけた。
 彼の口調が非常に挑発的だったこともあり、軍が激怒。時の法相が議会に対し、アウヴェス氏を訴える許可を求めたのに対する返答が、軍政下で最も暴力的なAI5制定だった。アウヴェス氏は制定と同時に議席を剥奪され、同年中にチリに逃亡。その後も79年まで諸国を転々とした。
 このAI5施行で、以下のことが起こった。
 上院、下院、全国の州議会、市議会が閉鎖されて、その状態が約1年にわたり続いた。
 デモなどの集会の禁止と、政治犯に対する人身保護令の全面不適用。これにより、軍秘密警察による政治犯拷問などの暴力行為が容認され、多数の拷問殺害が起こった。
 音楽や文学などの作品や、テレビや劇の内容は全て、軍による検閲行為にあった。これに逆らうように、当時若者に絶大なる人気を誇り、後に大御所となったカエターノ・ヴェローゾやシコ・ブアルキらは国外に逃亡した。
 AI5はコスタ・エ・シウヴァ氏が大統領の時に通過、施行された。それを受け継いだメジシ大統領時代には、政治犯の取り締まりが強化され、拷問や国外逃亡が相次いでいる。
 AI5は10年後の1978年12月まで有効だった。この翌年、当時のガイゼル大統領が、政治犯と、彼らに拷問を加えた軍や警察の双方に対する「恩赦法」を制定。翌年は、軍政支持党(国家革新同盟・ARENA)と反軍政派の野党・民主運動(MDB)の2党しか許されていなかったところに、政党結党の自由を認めた。そこに1千%を超えるハイパー・インフレが加わったことで、軍政が弱体化。85年1月に終焉を迎えている。
 そして、今年はそのAI5から50年。ブラジルではその間、軍政時代に国外逃亡した元学者のフェルナンド・エンリケ・カルドーゾ氏の穏健保守政党・民主社会党(PSDB)政権(1995~2002)と、まさにAI5時代の政治犯たちが中心となったルーラ氏とジウマ氏の左派・労働者党(PT)政権(2003~16年)の時代となり、軍政もAI5も厳しく批判された。特に、ジウマ氏のPT政権時代には「真相究明委員会」が設置され、AI5の時代に拷問・殺害されたが、「行方不明」との軍発表のまま、謎となっていた政治犯の真相究明にも動いた。
 だが、ここ数年で事情が大きく揺らいだ。PTやPSDBが相次ぐ汚職スキャンダルで失墜。その間隙をぬって、元軍人で軍政礼賛者のジャイール・ボウソナロ氏が大統領に当選した。ボウソナロ氏は16年4月の下院でのジウマ大統領罷免投票の際、真相究明委員会でも追及され、AI5時代最大の拷問施行者として恐れられた陸軍のウストラ元将軍の名を出し、「偉大な将軍に捧げる」と言って票を投じ、物議をかもした。
 そのボウソナロ氏の台頭後、汚職の横行と、2013年頃からの景気後退や失業率増加に怒った国民は、とりわけPTの治世を「偽善的」と見なすようになり、ネットなどでは「祖父母や両親は軍政時代を生きたが、警察の世話になったことはない」「軍政はキューバからブラジルを守った」「キューバで殺された人の数ほどブラジルで人は死んでいない」「軍政時代は景気がよかった」「軍政時代は汚職などなかった」「我々は13年もPTの独裁政権下にいた」などの声もあがるようになっている。
 実際には、軍事政権時代は国民に大統領を選ぶ権利はなかったが、PSDBやPTの治世の頃には少なくとも6回も国民投票の大統領選挙が行われている。キューバほどの国民は亡くなっていないものの、それでも、国家に逆らうことで400人以上は命を落としている。70年代前半に好景気があったのは事実だが、70年代後半には1千%台のインフレが起きたのに対し、ここ20年間は10%台のインフレもほとんどない。現在の政党で汚職が目立つのは、軍政時代の二政党のMDB(現在も存在)とARENAを前身に持つ政党(進歩党・PPや民主党・DEM)だったりと、よくよく調べれば軍政時代をありがたがるには矛盾が多い。だが、国民が客観的事実を冷静に判断できなくなっていることも事実だ。
 リオ連邦大学のカルロス・フィコ教授はAI5に関連し、「南アフリカのアパルトヘイトやドイツのナチス、南米の軍政など、実際に起きたことに目をつぶってはならない。人類はこれらの過ちから学ぶべきだ」と語っている。(10日付BBCさいとなどより)

image_print

こちらの記事もどうぞ