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ブラジル短信=「新政権発足、求められる秩序と発展」=1月20日記 サンパウロ市在住 田中禮三 

ボルソナロ新内閣の就任式の様子(Foto Marcelo Camargo/Agência Brasil)

ボルソナロ新内閣の就任式の様子(Foto Marcelo Camargo/Agência Brasil)

 新年に、退役大佐ボルソナロ新大統領率いる新政権が発足した。昨年末の総選挙で、過去十数年にわたる労働者党による腐敗政治に終止符が打たれ、新たな年の始まりと共にスタートした新政権へのブラジル国民の期待は大きい。
 2015年に始まった検察庁、連邦警察によるラバジャット作戦は、ブラジル政界が如何に汚職まみれであったかを、その捜査過程で国民に如実に知らしめた。ボルソナロ新政権は、過去に自分たちが選んだ政治家がこんなにも悪党だらけだったのかとの国民的反動から生まれたと言っても過言ではない。
 過去にブラジルの政治を牛耳ってきた三大政党、PSDB(社会民主党)、MDB(民主運動党)、PT(労働者党)の各党が、いずれも汚職疑惑に関連して上下院で大幅に議席を失い、僅かな議席数しか持たなかったボルソナロ率いるPLS (Partido Liberal Social、社会自由党)と言う超弱小政党が、上院で4議席、下院で52議席を一挙に獲得した事はその証左だ。

「小さな政府」目指す

 新政権は小さな政府を目指して29の省庁を22に統廃合、閣僚には7人の軍人上がりを登用し、労働者党からの任命はゼロとなった。また、3日に行われた閣僚初会合で、ロレンゾニ官房長官は労働者党の長期政権の間に各省内に登用された労働者党の息のかかった官僚約300人をクビにする事で、行政府内の労働者党を一掃する事を発表し、クリーンで機能的な政府を目指している。
 省庁の統廃合に伴い、スーパーミニストリーと呼ばれ、一大臣に権力を集中する事で、迅速な政策が打てる行政体制に移行した事も新政府の特色だ。特にゲデス大臣率いる経済省は、大蔵省、企画省、通産省などを統廃合し、傘下の局長級には政党に属さないテクノクラートを起用、財政立て直しに不可欠な年金制度改革や、国営企業の民営化を前面に、迅速に経済政策を発動できる体制を目指している。
 また、ラバジャット捜査で辣腕ぶりを発揮し、ルラ前大統領を投獄に追い込んだモロ連邦判事が司法長官に就任し、ブラジル全土の行政機関(中央政府、州政府、市役所等)に蔓延する汚職の取り締まり強化と同時に、治安対策を担う連邦警察をも統括する事で、麻薬、銃器の密輸取り締まり強化や、マフィアのマネロンなどの経済犯罪にも厳しい措置を迅速にとる事が期待されている。
 1月15日に発表された銃所持規制の緩和策(民間人に自衛行使を容易くさせる)もその一環だ。

最重要課題は財政健全化

 何れにしても、新政府の最重要課題は財政の健全化だ。中でも歳出の53%を占める年金制度改革だ。医療、教育、治安にかける歳出の3倍に相当する現在の年金制度を放置すれば、ブラジルの財政は破綻すると言われている。
 ゲデス経済相は、年金改革が成功するか否かがブラジル経済立て直しの要とし、高い年金を享受している司法府や立法府の役人達にも、既に警告を発している。
 テメール前大統領も挑んで達成出来なかった年金制度改革だが、新政権の試金石と言えよう。骨太の経済政策は未だ発表されて居ないが、優秀なテクノクラートを揃えた経済省への国民の期待感は大きい。
 軍政後、90年に誕生したコロール政権は、僅か2年で倒れた苦い経験がブラジルにはある。当時と状況は異なるにせよ、ボルソナロ新政権に立ちはだかる障壁は大きい。
 最大の焦点は、弱小政党故に、今回の選挙で25から30に分散した党派の中から、如何にして連立与党勢力を結集出来るかだ。ルラ政権時代の05~06年には、メンサロンと呼ばれ、法案を議会で通す為に野党議員に毎月一定の賄賂を払い込んでいたと言う信じ難き事件があった。
 今回の大統領選で敗れた労働者党は、下院では未だに最大の議員数を維持しているし、過去ブラジルを牛耳って来た大政党には未だに魑魅魍魎とした議員が多く、野党が連立して反対すれば法案は通らず、議会運営は麻痺して新政権は崩壊せざるを得ない。
 従い、連立をいかに組んで行くかが新政権の生命線となる。労働者党から閣僚を一人も任命せず、また、労働者党の息のかかった官僚300人を即刻首にする事を発表した事は、政界や、省庁内の浄化が期待できる反面、政敵を多く作った事は間違い無い。
 ボルソナロが選挙遊説中に暴漢にナイフで腹を刺され重傷を負った。ブラジルでは、未だに市長選などで、政敵を暗殺する事は頻繁に起こるが、大統領始め閣僚は身辺を十分に警戒せねばならないだろう。

国民が求めるクリーンで規律正しい政治

 ボルソナロ大統領自身が軍人上がりで、閣僚にも軍人を多く起用した事から、最右翼による独裁政治を懸念する向きも多々ある。
 しかしながら、労働党政権時代に乱れ切ってしまった政界や社会状況、治安の悪さ(年間6万人以上の殺人事件)を立て直すには、クリーンで規律正しい毅然とした行政府を国民は求めており、極右独裁政権などのリスクは無いものと見られる。
 外交的には親米路線を取る事は明確だ。労働者党政権が友好的な関係を維持して来たキューバ、ベネズエラ、ボリビアなどの左翼政権との関係を根本的に見直す一方、トランプ政権とは、新政権発足と同時に双方の高官が訪問し合うなど積極的な友好関係構築の動きが見られる。イスラエルのブラジル大使館の移転が正式に発表されたし、米国との軍事同盟も検討中のようだ。
 ブラジルも、ベネズエラからの難民流入の問題を抱えているが、北米の抱える難民問題ほど深刻ではない。むしろ、軍事同盟を通じて、野放図となっている周辺国家からの麻薬、武器弾薬の密輸の取り締まり強化が図れれば良い。

中国の覇権主義に警告

 また、ブラジルを含めて中南米、カリブ海地域にひたひたと迫り来る中国の覇権主義への対応も北米と協調無しには困難だ。
 中国は、近年ブラジルの石油開発含むエネルギー、港湾を含む物流、農業牧畜などのあらゆる分野に積極的に投資をしており、ボルソナロ大統領は、選挙運動中に「中国はブラジル産品を買っているのでは無く、ブラジルを買いに来ている」と警告を発している。米中貿易戦争や覇権争いが高まる中、新政府がどの様な外交の舵取りをして行くか注視したい。
 いずれにせよ、反労働者党の票を集めて発足したボルソナロ政権故に、政権基盤は弱く、政治的成果は短時間で得られるものでは無い。
 痛みを伴う改革を断行して行くには、ブラジル国民の良識を味方に付ける事が最善策だろうし、その為には国民との対話が不可欠だ。ブラジル国旗に描かれている「秩序と発展」がボルソナロ新政権によってもたらされる事を望んで止まない。(※「ブラジル短信」のバックナンバーはhttp://reizotanaka.blogspot.com よりご覧頂けます

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