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特別寄稿=患者の要望「簡単な言葉で説明を」=難解な医療用語を分かりやすく=聖市ヴィラカロン在住  毛利律子

『「病院の言葉」を分かりやすくする提案』を示すサイト(https://www2.ninjal.ac.jp/byoin/)

▼国立国語研究所「病院の言葉」委員会の提言

 

 平成21(2009)年、国立国語研究所「病院の言葉」委員会が、医師、薬剤師、看護師など様々な分野や立場の医療関係の専門家に向けて、患者やその家族を相手に、病気や治療や薬の説明をするときに用いる言葉を分かりやすくする工夫をしようと提案した文書を公表した。

 委員会がそのような提案を医療専門家に向けてするきっかけとなったのは、国立国語研究所の全国調査で、一般国民の8割を超す人たちが「医師が患者に説明するときの言葉には、分かりやすく言い換えたり、説明を加えたりしてほしい言葉がある」という声であった。

 この提案における「医療者」とは、医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、臨床工学技士、歯科衛生士,歯科技工士、言語聴覚士、管理栄養士、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士、義肢装具士、救命救急士など医療に従事する職業のほか、医療事務や医療教育に携わっている人やボランティアなど、医療にかかわる人全体のことである。

 研究所がどのように提案書を作成したかを、中間報告書で次のように示している。

 インターネット上で、医師650人、看護師735人、薬剤師260人を対象に医療者がよく使う言葉、患者に理解してもらうのが必要な言葉など、医療用語の重要度をアンケート調査した。また、全国の一般成人4276人を対象に医療用語の認知度も調べた。医師、看護師、薬剤師も交えた「病院の言葉」委員会を設置し、重要ながらも認知度や理解度が低い57の医療用語をピックアップした。

 さて、これらの「医療用語」を分かり易く説明するには、

★「日常語で言い換える」

★「明確に説明する」

★「重要で新しい概念を普及させる」

ように工夫してほしいと提言している。

 

日本語ですら理解が難しい病院で使われる言葉。ポルトガル語ではさらに難解…

▼病名の認知度と病気の誤解、糖尿病の場合

 

 私たち一般人は、情報や医療専門家から聞いて知り得た「病名」を当たり前のように口にする。

 例えば「糖尿病」の場合、「先日の検査でとうとう糖尿病と言われたので、糖分の制限をしなければならない。インスリンによる治療を始めるのかなあ…」といった具合に、すっかり納得したかのように「病名」や治療法などを語るのである。

 しかし、「糖尿病」は一般認知率99・5%、理解度87・5%と、よく知られた病名であるが、同時にほとんどの人が、大きな誤解をしているらしい。

 その誤解とは、

①「糖」を「砂糖」のことだと考え、甘いものの摂りすぎで起きる病気だという誤解が非常に多い(47・9%)

②食べ過ぎだけが原因だと思っている人もいて、食事制限さえすれば治ると思い、食事制限ばかりに過剰に気を遣う。栄養のバランスが必要だということを理解しなければならない。

③「尿」に「糖」が出る病気だとだけ思っている。尿に糖が出なくても、血液中の糖分が高くなれば、糖尿病であることを理解しなければならない。

 

▼「インスリン」治療に関する誤解は

 

④インスリン治療を始めると一生続けなければならないという誤解(60・5%)。インスリンによる治療を始めても、これを使用しないで、インスリン以外の飲み薬に代えることができるという誤解。

⑤インスリン治療を始めたら糖尿病はもう重症という誤解。

⑥インスリン治療は、注射だけでなく、飲み薬によるものもあるという誤解。現状ではインスリンの内服液はなく、インスリンは注射でなければ効果がない。

◎提言1

 このような誤解に対して医療者は次のようにゆっくりと説明して欲しい。「からだに必要なブドウ糖を血液は運ぶが、糖尿病は、ブドウ糖の濃さが必要以上に高くなる病気。膵臓が出すインスリンというホルモンが作られなかったり、量や働きが不十分だったりするために起こる。自覚症状はないが、そのままにしておくと様々な病気の元になる。合併症は、動脈硬化などの血管の病気、手足の感覚低下や自律神経障害、視力の低下、腎臓の機能低下など。糖尿病を治療せずに放っておくと、これらが悪化して、手足の先がくさってしまったり、失明したり、腎不全になって透析を受けなければならなくなることもある。また、脳梗塞や心筋梗塞にもかかりやすくなる。タバコを吸っているとその危険性がさらに高くなる」

◎提言2

 説明する時の工夫は、つぎのようなポイントを押さえてほしい。

 まず医療者は、患者がその病気について、「まずこれだけは知っておきたい」事柄を述べる。

 患者がどんな風に誤解しているかを理解したうえで、医療者は、分かり易い日常語を使って説明する。

 提言書では膨大な数の医療用語を網羅することはできないので、「57の用語」を挙げているが、その中から、いくつか関心のある言葉を取り上げ、これらの用語がどのように工夫して説明されているか抜粋した。

 

▼ウイルス(virus)

 

 「ウイルス」という言葉の認知率は極めて高いが(99・7%)、その意味を正しく理解している人は意外に少ない(理解率64・6%)。

◎誤解

 「ウイルスが原因である一般的な風邪に、抗生剤が効くと思っている誤解が多い(30・9%)。」

 症状がウイルスか、細菌によるものかの大まかな目安は、発熱、のどの痛み、咳、鼻水といった代表的な風邪の諸症状が複数出ている場合はウイルス。

 鼻だけ、咳だけといった特定の部位のみ強い症状が出ている場合は細菌による感染の疑いが高い。ウイルスは部位を問わず増殖するのに対し、細菌は特定の部位に集中して増殖する傾向がある。

 そのため、医療者は、「抗生剤は細菌を殺すために用いるが、ウイルスには抗生剤が効かないことを説明する。ではどうやってウイルスを退治すればよいのかという患者の疑問に対しては、人の身体に備わった免疫の力によって、ウイルスを退治していくことを、免疫の仕組みとともに分かりやすく説明することが効果的である」

 

▼ショック(choque)

 

 「ショック」と言う言葉は認知率94・4%と非常に高いが、「血圧が下がり生命の危険がある」という意味での言葉遣いの理解率は43・4%と極めて低い。

 「ショック」「ショック状態」と言っても、大事な意味が伝わらない危険性は高い。

◎誤解

 日常語「ショック」は、単にびっくりした状態、急に衝撃を受けた状態という意味であり、患者やその家族は「ショック」「ショック状態」と聞いても、この日常語の意味で受け取ってしまいがちである。

 家族に説明する際には、「ショック」という言葉は使わずに、何よりもまず生命の危険があるということを伝えなければならない。

 たとえば、症状として「血液の循環がうまくいかなくなって、脳や臓器などが酸素不足になり、生命にかかわる大変に危険な状態。緊急に治療する必要があります。血圧が下がる、顔面が真っ白になる、脈が弱くなる、意識がうすれるなどの症状が現れる」と説明する。

 したがって、重大さや危険性が高いことを伝えることが必要。「出血性ショック」「アナフィラキシーショック」の場合も生命の危険があることを伝える必要がある。

 

▼悪性腫瘍(Tumor maligno)

 

 「腫瘍のうち、大きくなってまわりに広がったり、違う臓器に移ったりして、命に危険が及ぶ可能性のあるもののこと。皮膚や粘膜からできるものを『癌』、骨や筋肉、神経からできるものを『肉腫』と言う」

◎誤解

 「悪性腫瘍」という言葉の認知率は極めて高く(98・6%)、理解率も高い(88・6%)。しかし十人に一人は、「悪性腫瘍」と言われても、聞いたことがあるけれど何のことか分からないという。

 「悪性腫瘍」を癌ではないと誤解する人に対しては、「悪性腫瘍」は癌にほかならないことを理解してもらう必要がある。「癌」の患者に対しては、説明の早い段階で「癌」という言葉を使い、病気の危険性をはっきりと伝えることが望ましい。

 

▼ポリープ(pólipo)

 

 「胃や腸の内側にできる、イボやキノコのような形のできもののこと。良性のものと悪性のものとがあるが、悪性のものに変化するおそれがあると診断された場合は、手術や薬で取り去る。最近は、小さなポリープのうちに、内視鏡で簡単に取り去る方法もある。ポリープは内臓にできることが多いが、声帯や鼻の奥の粘膜や皮膚にできる場合もある」

◎患者はここが知りたい

 患者は、見つかったポリープがガンなのか、今後ガンになるおそれがあるかどうかに一番関心がある。専門家は、ポリープができた場所、大きさ、形状などによって癌になる危険性は異なってくることなど、一般的な知識を説明するのが望ましい。その上で、見つかったポリープの危険性についてできるだけ分かりやすく説明したい。

 ポリープが見つかった場合、手術を勧められる患者、様子を見ることを勧められる患者、その選択をゆだねられる患者、それぞれに不安や迷いは少なくない。患者が納得して治療法を選べるように、情報を整理して提供したい。

◎ここに注意

 ポリープが癌になるかどうかについては医学的にも不明なところがあり、説明が難しい場合もあろう。しかし、患者にとって一番の関心事であるので、はっきりしないということも含めて分かりやすく説明することが必要である。

 

▼潰瘍(Úlcera)

 

 『潰』は『くずれる』こと。『瘍』は『からだの傷やできもの』のことで『潰瘍』は『からだの一部がくずれてできた傷』という意味。同じようにしてできた傷でも浅い場合は『糜爛』と言う

◎こんな誤解

 胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの言葉でなじみがあることもあり、「潰瘍」そのものを病気の名前だと誤解している人が非常に多い(46・4%)。状態を表す言葉である。「潰瘍型の癌」「潰瘍性の大腸炎」など、病名の診断に用いられる場合の「潰瘍」を、軽く考えてしまう人もいる。この言葉を使う場合、患者が混同していないか、注意が必要である。

 

▼化学療法(Quimioterapia)

 

 癌の治療の方法には「外科療法」、「放射線療法」、「化学療法」の三種類がある。外科療法は手術、放射線療法は放射線で患部を直接治療する。化学療法は、薬を使う治療法。注射や内服によって身体の中に薬を入れ、ガンが増えるのを抑えたり、ガンを破壊したりする。この方法だけで治療をすることもあるが、ほかの治療法と組み合わせる場合もある。

◎こんな誤解

 「化学療法」は放射線を使った治療法のこと(23・7%)。手術ができない患者に対して行われるものだという誤解(18・1%)。薬を使う治療であることは理解していても、その薬が抗癌剤であることを理解していない人もいる。「抗癌剤」には「癌」という言葉が含まれているので、医療者からこの言葉を言われるのを嫌がる人も多い。場合によっては癌と言わない配慮は大切であるが、重要なことが伝わっていないということがないように注意することも必要である。

     ☆

 以上のように、研究所が発信する様々な提案を列記して紹介した。

 今日私たちは、健康に関する膨大な情報を一方的に受けている。それが自分に合ったものか、そうでないかを取捨選択し、納得したうえで自分にふさわしい医療や健康法を選ぶことはたいへん難しい。

 医療は実に、最も自分自身に関わる重大なことであるにも関わらず、自分で判断して決めることが難しいことの代表的な問題ではないだろうか。

 一方、毎日、大勢の患者に対面する医療従事者は、一人一人を大切に診療したいという気持ちは十分あったとしても、物理的に厳しい状況で互いが接し、円満に意思の疎通が図れないもどかしさを感じているのが、今日の医療現場の現実であろう。

 そのような状況を踏まえたうえで尚、この提案が医療従事者に向けての提言であり、その目指すところを次のように意義深く述べられている。

 「医療の安心や安全は、医療者と患者との間で情報が共有され、互いの信頼が形成されることによって初めて達成される。何よりもまず専門家である医療者が分かりやすく伝えようと努力することが、患者に安心と信頼の心を呼び起こし、前向きに治療を受ける意欲も高まることになる」

 私たち一般人は、この指標を真摯に受け止め、謙虚に医療専門家の説明に耳を傾け、かつ賢く自分の健康を管理することを学ばねばならない。

 この文書は、グーグルの検索サイトで、「国立国語研究所『病院の言葉』委員会の提案」と検索すると、全文が読めるので、興味のある方にはお勧めしたい。

【参考文献】

「病院の言葉」を分かりやすくする提案 ホームページ(https://www2.ninjal.ac.jp/byoin/)

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