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立つ鳥あとを濁さず=移民の「終活」座談会=(2)

独身者が亡くなったら?

40年余の間、邦字紙記者として過ごした石塚大陸さん

40年余の間、邦字紙記者として過ごした石塚大陸さん

【深沢】大部総領事のエピソードに加え、なぜいま終活の座談会を企画したのかというと、ニッケイ新聞に長年勤めた名物記者の石塚大陸さんが昨年10月に突然亡くなったことがあります。
 彼は生涯独身で、パウリスタ新聞の元記者Mさんと80年代から30年以上も一緒に住んでいました。ある日転倒して頭を強く打ち、一週間ほど入院した後に亡くなったんですね。
 でも、彼の銀行口座がどうなっているのかとか、葬式は何宗で行いたいのかとか、読書の虫で膨大な蔵書を持っていたんですが、それをどうするかとか。日本の親戚はどうしたいのかなど、全然わからなくて、Mさんは苦労されていました。遺骨を日本へもっていく場合、何か手続きが必要なのか、とか全然わからない訳ですよね。
 火葬するにも裁判官の許可が必要で、血族じゃないと手続きが大変なんだそうです。亡くなった場所は病院なんですが、入院する原因となったのは自宅で倒れて頭を打ったことだったので、よけいややこしかった。
【上野】そうなんです。ブラジルの場合、自宅で死ぬと、誰かが殺したんじゃないかという事件性を疑われて、検死解剖が必要になるんです。
【深沢】そうなんですよ。で、病院で午後に亡くなったんですが、世話をされているMさんは雨の中、その夜にデレガシア(警察署)に行って2時間ぐらい待たされてBO(調書)を書いてもらったんです。もう夜の11時とか。
 そのあとに真夜中のIML(instituto Medico Legal、法医学研究所)に運んで検死をしてもらおうとしたら、「担当医がいない」と言われたそうです。
 いったん帰ってきて、翌朝、遺体を病院からIMLへ。そこでようやく、検死書類を作ってもらってから、それを裁判官に持っていって「火葬してもいい」という書類にサインしてもらい、IMLからヴィラ・アルピーナに運んで火葬してもらう。
【上野】夜中までかかるっていうのは嫌だな。
【深沢】そうなんですよ。家族、たとえば息子さんがいて、二、三世の方が周りでしっかりサポートしてくれればいいんです。だけど独身の戦後移民とか、日本から来たもの同士で結婚して、子供がいないケースもけっこうある訳ですよ。私も子どもがいなくて、妻も日本から来ているんで、将来どうしようかなと。
 ブラジルで看取ってくれる人がいない場合、どういう準備をしていたらいいんだと不安になりました。火葬の手続き、葬儀の準備、墓地はどうするのか、財産の整理、日本の家族への連絡など、本当に大変ですよね。
 お子さんがいても、遠くに住んでいるとか、いろんな事情で看取ってもらえない場合もあるんじゃないかと思います。

中川第3副会長

中川第3副会長

【中川】私の場合、娘がベレンに、息子がポルトガルに住んでいるので、何かあったら連絡は出来るけど、急に駆けつけるということは大変なんです。そういう環境なのでやはり、何かあったら応急対応してくださる病院に行くことになると思っていますね。
【深沢】それに、ブラジルゆえの特殊な終活事情もあるんじゃないかと思ったわけです。早めに何か準備しといた方がいいんじゃないかと。
 もちろん子供さんがいる人でも終活していたほうがいい。
 読者がどんどん高齢化していく現実を新聞社としても、ひしひしと感じているところです。ですから、新聞社がある内に必要な情報を皆さんにお届けして、意識を持ってもらうことをしたほうがいいんじゃないかと思い、皆さんからご意見や経験をお聞きしたいんですね。(つづく)


◎古藤弁護士のアドバイス(1)
遺骨を日本へ持って行く場合

古藤ウィルソン弁護士

古藤ウィルソン弁護士

 当地で亡くなった方の遺骨を日本へ持って行く際に必要な法手続きは、ありません。ただし、経由国によっては、遺骨の持ち込みに制限を設けている場合があるので、経由国の日本領事館へ問い合わせましょう。
 金属製の骨壷は、出国審査時のX線検査で中身の確認を妨げ、詳細検査にまわされてしまうことがあるので、事前に木製やプラスチック製の骨壷に移し換えましょう。
 航空会社によっては火葬証明書などの書類の確認を求められることがあります。これらの書類は、遺骨を日本に持って行った後、市町村の役所に提出する改葬許可申請書の付属資料として必要となる場合があるので、あわせて事前に問い合わせ、準備しましょう。
     ◎
 古藤弁護士は、無料の法律相談をサンパウロ日伯援護協会リベルダーデ診療所で、毎週金曜日の午後2時から4時まで先着順で行っている。

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