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【日本移民の日2019】台頭するブラジルの異才、鬼才=黄金期再来を予感させる映画界=世界的活躍へ一歩踏み出す音楽界

「ラヴァ・ジャット作戦」をモデルにした話題作『オ・メカニズモ』

「ラヴァ・ジャット作戦」をモデルにした話題作『オ・メカニズモ』

 「文化はあまり重要視されない」「支援金が減らされる」―これがボウソナロ政権時代に伯国の文化環境に関してよく言われる言葉だ。だが、こう言っては不謹慎かもしれないが、伯国の場合、かつて民主主義と自由が抑圧されていた軍事政権時に映画も音楽も発展を遂げた、という歴史的事実がある。ボウソナロ極右政権で果たしてそれはどうなるか。とはいえ、「苦しい時期に文化的黄金期が到来か?」の兆候はすでに見え始めている。

カンヌ映画祭でのメンドンサ・フィーリョの快挙

クレーベル・メンドンサ・フィーリョが監督(TV Brasil, From Wikimedia Commons)

クレーベル・メンドンサ・フィーリョが監督(TV Brasil, From Wikimedia Commons)

 伯国の映画界は「左翼の牙城」と目され、2016年には、カンヌ映画祭でのコンペティションに参加した映画『アクエリアス』の出演者、スタッフがレッドカーぺット(赤絨毯)で、当時のジウマ大統領への罷免反対の抗議行動をして話題を呼んでいたほどだ。
 すると3年後、ボウソナロ政権1年目に、その『アクエリアス』で監督だったクレーベル・メンドンサ・フィーリョが監督した新作『バクラウ』が、カンヌ映画祭に置ける伯国作品では最高となる、3位相当の「審査員賞」を受賞する快挙を成し遂げた。
 メンドンサ・フィーリョは映画評論家から転進して映画監督になり、デビュー作『オ・ソン・アオ・レドール』がいきなりアカデミー賞外国語映画賞の伯国代表作になるなど、伯国映画界を刺激し続けている存在だ。
 ホラー映画からの引用も使ったおどろおどろしい抽象的な映像世界の中に、社会に対しての批評性を交えたメンドンサ・フィーリョの作風は激動の時代にこそ輝きそうだ。

『エリート・スクワット』組も活躍

ジョゼ・パジーリャ監督(Gage Skidmore, From Wikimedia Commons)

ジョゼ・パジーリャ監督(Gage Skidmore, From Wikimedia Commons)

 そして伯国映画でもうひとりの大きな存在が、ジョゼ・パジーリャだ。彼は2008年、リオ軍警の特別作戦部隊(BOPE)を描いた『エリート・スクワッド』でベルリン映画祭での大賞・銀熊賞を受賞し、2010年発表の同作続編は伯国での国内映画の興行記録も作った。
 80年代の世界的人気アクション映画『ロボコップ』のリメイクというハリウッド進出作(2014年)こそ失敗したものの、動画配信サービス「ネットフリックス」でコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルを描いた連続ドラマ・シリーズ『ナルコス』(2015年~)が国際的に大ヒットした。
 さらに2018年からは、伯国内を揺るがす政界スキャンダル「ラヴァ・ジャット作戦」をモデルにした『オ・メカニズモ』を監督。アクションや警察を交えた社会派ドラマでは国内第一人者になりつつある。
 また、『エリート・スクワッド』『ナルコス』といった一連のパジーリャ作品に主演した、伯国内きっての名優ヴァギネル・モウラもハリウッドに進出して芸域を広げる一方、今年は自身初の監督作、軍政時代における伝説的な反政府活動家の伝記映画『マリゲーラ』をベルリン映画祭に出品した。国際的には好評を得、国内の右翼勢力の強い抵抗に遭ったことからも、公開を模索している段階だ。
 また、アナ・ムイラエルチ、ライス・ボダンスキーといった女性監督も好作品が相次いでいるほか、監督ではないが主演作が軒並み好評の女優レアンドラ・レアルの作品も注目に値する。
 アニメ部門でも、2016年にアカデミー賞長編アニメ部門の最終5作品に残った『父を探して』のアレー・アブレウがいる。

内向きから外向きに転じつつある音楽界

2016年の全伯ツアー中のアニッタ(Anitta, Teca Lamboglia, From Wikimedia Commons)

2016年の全伯ツアー中のアニッタ(Anitta, Teca Lamboglia, From Wikimedia Commons)

 一方、音楽に話題を移すと、2010年代の伯国音楽は長い間、内向き傾向にあった。「伯国版カントリー」のセルタネージャと、聖州やリオの若者に人気のダンス・ミュージックのファンキが国内の音楽市場の人気を独占していた。
 だが、ここ数年、この傾向が変わりつつある。ひとつは美人女性シンガーのアニッタや、「ドラッグ・クイーン」として知られる女装シンガー、パブロ・ヴィッタルといった存在だ。
 ファンキというよりは、今のアメリカのダンス・ミュージックに近い傾向を持つ彼らは、ブラジル国内でもかなりの人気だが、現在はアメリカやイギリスの人気アーティストとの共演を果たし、欧米メディアでも注目を受け始めている。

2018年、ツアー中のパブロ・ヴィッタル(11JORN, From Wikimedia Commons)

2018年、ツアー中のパブロ・ヴィッタル(11JORN, From Wikimedia Commons)

 その背景には、Jバルヴィンやマルマといったコロンビアのダンス・ミュージックのアーティストがアメリカに進出して成功したことがある。
 くわえて、2010年代中ごろからストリーミングが音楽消費の中心となっており、「スポティファイ」などのストリーミング用アプリの普及により、全世界の音楽が簡単に聴けるようになっていることがあげられる。そのような音楽消費環境の変化により、ローカルだったアーティストにも世界的成功のチャンスが広がってきている。
 アニッタやヴィッタルのほかにも、カロル・コンカやルドミラ、IZAなど、黒人女性のR&Bシンガー、ラッパーなどが台頭しはじめている。
 また、男性歌手チアゴ・イオルキや女性デュオ、アナヴィットーリアが、セルタネージャというよりは、より欧米型のフォーク・ポップでかなりの人気を得るようになってきている。

オ・テルノ筆頭に逸材台頭のロック

バンド「オ・テルノ」(São Paulo, 28/08/2016. foto: Ormuzd Alves, Virada Sustentável)

バンド「オ・テルノ」(São Paulo, 28/08/2016. foto: Ormuzd Alves, Virada Sustentável)

 さらに、前述したアーティストほどの国内人気はないが、ロック勢も、聖市で毎年開催されている国際ロック・フェスティバル、ロラパルーザの影響を受けたか、インディを中心として評判の高いバンドが出はじめている。
 中でも注目は3人組バンド、オ・テルノだ。20代後半と若いながらも1960年代のロック黄金期に関する豊富な音楽知識を持ち、中心人物チム・ベルナルデスの多彩な作風と編曲能力の高さから、欧米やさらに日本でも注目を受け初めている。元バンド「ゆらゆら帝国」中心メンバーで、現在は国際的に活躍中の坂本慎太郎が、彼等の最新アルバムに参加したことで日本でも話題だ。
 さらにアメリカでもデビューを果たしたサイケデリック・バンドのブーガリンズに、彼らと同じゴイアス州出身で女性シンガー、サウマ・ジョー率いるカルニ・ドーセも高い評価を受け始めている。
 また、ゲイのヴォーカリスト、リニケル率いるリニケル&オス・カラメロウズや、パワフルな女性シンガー、エミリー・バレットを擁するファー・フロム・アラスカなども見逃せない。
 さらに、「2000年代最高のバンド」として国際的にも注目されながらも2007年から活動休止に入っていたロス・エルマーノスが、今年の再結成ツアーで全国のサッカー・スタジアムを大入りさせ、活動本格再開の話題が出はじめているのも良い兆候だ。
 なお、伯国音楽界は一部を除き、ボウソナロ氏に対しては批判的だが、大統領への直接的な批判ソングを歌って注目されたのは、軍事政権時の反抗の闘士でもあった大御所カエターノ・ヴェローゾくらい。若手アーティストはじっくり様子を見て、これから言いたいことを歌いはじめるかもしれない。(沢田太陽記者)

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