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【日本移民の日2019】億万長者がロライマで難民支援=モルモン教の宣教師として=航空会社と交渉し他州に移送

2018年8月、ボア・ヴィスタの難民収容所のベネズエラ人たち(Marcelo Camargo, From Wikimedia Commons)

2018年8月、ボア・ヴィスタの難民収容所のベネズエラ人たち(Marcelo Camargo, From Wikimedia Commons)

 5月22日付G1サイト記事などによれば、億万長者がベネズエラ難民を支援するために、わざわざロライマ州に転居したという。伯国北部ロライマ州は隣国ベネズエラ(以下ベ国)からの難民の受け入れ口で、州都ボア・ヴィスタや国境の町パカライマには難民収容所も作られている。そこでは2018年から難民を国内に溶け込ませる「内在化」(interiorizacao)の取り組みが始まり、難民受け入れを表明した他州自治体への移送も繰り返し行われている。

 ベ国難民の内在化と社会統合を目指し、各地に送り出す「アコリーダ作戦」は、今年も継続されている。この作戦は、対応しきれないほど激増したベ国難民に対し、国境封鎖まで考えざるをえなくなったロライマ州政府の切実な要望を受け入れる形で始まった。
 他州で働くことを望むベ国難民と、その受け入れを表明する企業や自治体とのマッチング(すり合わせ)作業後に、難民移送は行われる。まずボア・ヴィスタの収容所に集められた移送希望者は、空軍機などで移送される。

アコリーダ作戦の間を取り持つ億万長者

億万長者のカルロス・ウィザード氏(Carlos Wizard, From Wikimedia Commons)

億万長者のカルロス・ウィザード氏(Carlos Wizard, From Wikimedia Commons)

 2018年に始まったアコリーダ作戦成功の鍵は、他州への移住を希望するベ国難民と彼らを受け入れる企業や自治体とのマッチングだ。同作戦の仲介役を担っているボランティアの一人は、語学教室チェーンなど、多岐にわたる企業を経営してきた億万長者のカルロス・ウィザード氏(62、パラナ州クリチーバ出身)だ。
 モルモン教団から、妻のヴァニア・マルティンス氏(60)と共に人道支援活動を命じられた宣教師のウィザード氏は、その使命を果たすために18年8月にロライマ州に転居した。その後も、企業家としての活動のために聖州、人道支援の交渉のためにはブラジリアへと、精力的に飛び回っている。
 ロライマでの主な仕事はベ国難民の内在化支援で、新しく来た難民を国内各所に送り出す作業を進めるボランティアの取りまとめ役を務め、移送先での仕事を見つける仕事も担当している。
 18年4月以降、彼が率いるグループは、国内移送されたベ国難民の25%を送り出して来た。ウィザード氏らは、民間航空会社のLatam、Azul、Golと交渉し、空席を使って難民を無料で移送させる事を可能にした。4月にはこの方法で、ベ国難民525人を他州に移送した。
 彼が奉仕するグループの日課は、ベ国難民が到着すると、名前などを登録し、受け入れてくれる人や法人を探す。空席を使った移送のため、航空会社と連絡を取り、毎日のように難民を空港まで連れて行く。彼らが先方に着くまでは、色々と気を揉むという。時にはウィザード氏個人の車で運ぶ事もあるという。
 現在の彼の役割は、より多くの企業家や宗教的な指導者らの支援を受け、難民を助けるのを支援すること。ダマレス・アウヴェス人権相に会い、様々な宗教の人が手を取り合い、難民を支援するための委員会を創設する事なども話し合ったという。
 「ロライマ州の路上にいた難民を聖市の路上に移しただけでは意味がない。我々のグループは、30~60日以内に難民が目的地に着き、労働手帳も含めて労働者としての全ての恩典を確保した上で働く事が出来るよう奉仕している」という。
 同氏によると、彼らが送り出した人々は全員、仕事が確保された状態でロライマ州を出発。送り先にある教会の人々の支援も得て、仕事を始めるという。これまでに送り出した人々は、機械工や空調技術者、スペイン語教師、木工所職人などとして働いている。中にはウィザード語学学校で働いている人もいるという。

難民の内在化に参加する唯一の市民団体

他州に移動する飛行機にのるために列を作るベネズエラ人難民たち(Antonio Cruz/Agência Brasil)

他州に移動する飛行機にのるために列を作るベネズエラ人難民たち(Antonio Cruz/Agência Brasil)

 危機的状況になった祖国から逃れて急激に増えたベ国難民に対応するために、連邦政府が打ち出したのがアコリーダ作戦だ。空軍のような政府機関に、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のような国連機関、非政府団体、市民団体が参加している。
 ウィザード氏が関与しているグループは、2443人を聖州やサンタカタリーナ、パラナ、ミナス・ジェライスといった州に送り出してきた。その他の団体の助けを得て空軍機で移送された人達も7304人に上る。
 迅速かつ組織化された内在化の働きは、毎日500人が到着するといわれるロライマ州へのベ国難民を救済するための唯一の方策だ。同州に作られた13の難民収容施設は6500人を収容しているが、それでもなお、約1万人が路上生活をしていると見られている。
 人道移送特別班で内在化を進める空軍のアレッシャンドレ・カルヴァリャンエス大佐は、「内在化が進まなければ、保健衛生、学校教育その他のサービスは飽和状態になり、州財政は破綻する。ロライマ州政府にはこれらの難民を吸収する力はない。難民を州だけに留めず、全国に送り出す手段が内在化なのだ」という。同大佐によれば、ウィザード氏のグループは同作戦に参加する唯一の市民団体で、彼らの働きがなければ、作戦は完全に行き詰まっていたという。

べ国難民は全部で370万人

5月22日付G1サイトの記事には、難民家族らと共に写真に納まるウィザード氏(後列右から2人目)の姿も

5月22日付G1サイトの記事には、難民家族らと共に写真に納まるウィザード氏(後列右から2人目)の姿も

 国連によれば、2015年以降、政治的、経済的、社会的な危機でベ国を離れた人は370万人もおり、伯国は6番目に多くのベ国人を受け入れているという。
 国境のパカライマに着くベ国人は平均500人とされるが、フアン・グアイド暫定大統領が国民蜂起を呼びかけた4月30日は、パカライマに来た人が848人もいた。ベ国の窮状はその後も続いており、当面は難民が減る可能性はない。
 「毎日が謙遜などを学ぶ機会」というウィザード氏は、空港に着いた難民が、プラスチックの袋に入れた僅か5キロの荷物を、所持品検査の台に置くのを見た。同氏の妻が用意した軽食用のリンゴを見た難民が、「もう3年も食べていない」というのも聞いた。
 盲目の身で妻を亡くした40代の男性が、1歳の娘を抱えて収容所に来た時、ウィザード氏の妻は養子に出す気はないかと尋ねたが、男性は「妻も亡くし、この子は唯一の宝。自分の手で育てたい」と言ったという。ウィザード氏らがゴイアス州ジャタイに盲人が開設した施設があると知り、連絡を入れてみたところ、受け入れOKの返事と共に、この施設がモルモン教会の中にある事も知らされたといった逸話もある。
 伯国で最も貧しい州で働くウィザード氏は、ムンド・ヴェルデ、KFC、ピザ・ハット、タコ・ベルにワイズ・アップなど、20以上の企業を有する、世界でも有数の億万長者だ。
 地元の人には素性を隠していたが、ブラジリアにも足繁く通う内に素性が知れてしまったという。彼のロライマでの使命の任期は来年7月まで。類稀な行動力と企業家の知恵、人脈やワッツアップなどを駆使した働きが、母国を離れ、生活基盤も失ったベ国難民達を支えている。

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