「朝の10時頃、突然予約の電話がかかってきてね。上皇ご夫妻は警察車両の先導でお越しになられたんだ。たくさんの警備が店のまわりを囲んでね、ご夫妻は10人くらいの日本人、日系人の方々とフェイジョアーダを召し上がられていったよ。感想を聞きたかったけど、そんな隙無くてね。満足してもらえてたら嬉しいんだけど」
サンパウロ市イタインビビ区で73年続くフェイジョアーダの老舗「Bolinha – A Casa da Feijoada」。2代目店主のパウロ・アフォンソ・パウリーロさん(72)は、1997年のブラジル日本移民90周年時に上皇ご夫妻が来店した際の光景をそう振り返る。
同店は調査会社ダッタフォーリャ社の人気フェイジョアーダ店ランキングで2度首位に輝き、繁忙日の土曜には1千人超の来客がある有名店だ。
家庭はもちろん、街の角々のバールでも食べられる国民食フェイジョアーダだけに、「特別に美味い」と評価されるのはとても難しい。
創業は1946年。タクシー運転手だった初代店主のアフォンソ・パウリーロさんが一念発起して開業したボテッコ(居酒屋)「Bolinha」が原点となっている。店はアフォンソさんが贔屓にしていた地元サッカークラブメンバーの集いの場として繁盛していた。
「今年の市大会で優勝したら、世界で一番美味いフェイジョアーダ食わせてやるぞ」―アフォンソさんのそんな一言が効いたのか、地元チームは1952年本当に優勝した。そこでアフォンソさんは約束を果たすため「世界一美味いフェイジョアーダ」のレシピを完成させ、選手らに振舞ったところ大好評。店でも出すようになった。
フェイジョアーダは黒人奴隷が発明した料理というのが通説だが、近年の研究では、南欧料理のカスレやコジードなどから派生したという説が有力だ。パウロさんの一家は、1909年に南欧地域のイタリアから移住してきたというから興味深い。レシピはアフォンソさんの母のものが元になっており、「詳細は秘密」だ。
評判は次第にサンパウロ市全体へと広まり、市観光局長も来店するように。その局長は「サンパウロ市には世界中から沢山の観光客が来るが、フェイジョアーダを楽しめるのは普通、水曜日と土曜日の昼間だけ。市の観光のためにも、この美味いフェイジョアーダをいつでも食べられるようにしてくれないか」と持ちかけた。
以来、店では曜日、昼夜を問わずフェイジョアーダを提供するようになり、やがてサンパウロ市を代表するフェイジョアーダ専門店となっていった。
ここのフェイジョアーダは、薪火でじっくりと時間を掛けて煮込まれ、肉はトロリ、豆はホックリしている。固くなりがちな付け合せの揚げた豚の脂身(トヘズモ)もサクサクだ。
市民が代表として認め、上皇ご夫妻に自信を持って勧めた〝王道のフェイジョアーダ〟。一度試してみてはいかがか。
▼店舗情報
店名:Bolinha – A Casa da Feijoada
住所:Av. Cidade Jardim, 53 – Jardim Europa, São Paulo
定休日:月曜日
営業時間:午前11時30分~午後11時まで
電話番号:(11)3061―2010
サイト:http://www.bolinha.com.br
▼メニュー情報
月~金曜日:1人前80レアル、2人前152レ、食べ放題107レ
週末・祝日:1人前134レ