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「葉月」という月=義父・酒井と崎山精神=パラグァイ在住 坂本邦雄=《上》

両親の写真(酒井好太郎とテル)

 和風月名で8月を「葉月」と呼ぶ。
 パラグァイでは8月15日は、首都アスンション市の創立(1537年)記念日である。別名「Madre de Ciudades」(都市の母)と呼ばれる。
 スペインが南米を植民地にしていた時代に、征服派遣隊はアスンションを根拠地として、今の南米南部地域の70余りの都市、ボリビアはサンタクルス、アルゼンチンはコルドバ、サンタフェ、コリエンテス等の数々を、1551~73年の間に建設した。更には英国に一時占領されたブエノスアイレスを、1580年に奪還して再建した誇りがある。だから「都市の母」なのである。
 年代は変わるが、8月25日(1967年)は憲法改正議会により、いわゆる大統領再選を無期限に許した、旧ストロエスネル憲法の発布記念日である。
 やはり葉月、1938年8月1日にラ・コルメナで筆者の義妹栄子が生れた。なお、その義妹の夫、井上徹も年は異なるが、同じ誕生日である。
 そして、筆者が今でも悔恨の念に責められるのは、老後のロクな世話も出来なかった両親・酒井夫妻を、山奥の新開地ピラポ移住地で1967年の8月16日の夕刻、思わぬ現地人による殺害事件で、無残にも亡くしてしまった事だ。
 親孝行ができなかった筆者が、特に悲しみとする無念の「葉月」である。
 なお、8月16日と言えば元ストロエスネル大統領が、亡命先のブラジリアで2006年に逝去した日でもある。および、奇しくも筆者のワイフの父親(マキシミリアノ・アリアス)が、ストロエスネルが失脚した1989年に、102歳の高齢で亡くなった命日でもある。
 この様に、葉月に起きた色々な出来事が、歳を重ねるに連れて走馬灯の如く思い出される。

義父・酒井の思い出

 筆者の義父・酒井好太郎は、京都府綾部市の出身だ。故郷の学校を終えてから、今で言うアルバイトをしながら、東京で岩倉鉄道学校工業化学科を卒業したケミストだった。

晩年の崎山比佐衛(1875―1941年、高知県)〈「崎山比佐衛伝」吉村繁義著、1955年〉

 その後、東京ガス会社の淀橋研究所に5年間勤めたが、思うところがあって会社を辞し、晩学だが東京世田ヶ谷の海外植民学校に入学した。
 同校はその名が示す如く特殊な専門学校で、創立者の崎山比佐衛(1875―1941年、高知県)先生は、熱心なクリスチャンで、当時は軍の銃剣の下に、満蒙開拓が益々盛んな頃だったが、種々の調査、研究の揚句、日本人の海外発展の道は南米以外に無いとの結論に至った。
 崎山先生は、日本資本主義の父といわれた渋沢栄一子爵にお百度参りをし、学校の建設資金を依頼した。ところが、いつまでも色よい返事がサッパリなかった。しびれを切らした崎山先生は、最後には渋沢翁の禿げ頭を大きな手で押さえ、持ち前の大きな声で聖書を片手にお祈りをしたところ、さすがの翁も折れて、必要資金を出して下されたという“武勇伝”の持ち主だ。
 開校後、崎山校長は翁の別荘を、学校の創立記念日には学生達を引連れて挨拶に参上し、渋沢翁の訓話を聞きながら、茶菓子を御馳走になって一同帰って来るのが恒例だったと言う。
 崎山先生は「理想の村落には、教会、学校、協同組合の3つが必要欠くからざるものだ」と教えられた。
 すなわち、アメリカが大を成したのは、いわゆる「ピューリタン(清教徒)精神」によるところが大きく、それは崎山先生がいう宗教的信念、知的教養、産業協同組合精神という3つが要である。そのパラグァイにおけるモデルは、メノナイト移住の団体組織だと思われる。
 なお、植民学校の寄宿生だった酒井は、良く崎山校長に銭湯へお供をさせられ、先生の背中を流したりしたので、崎山精神なるものの薫陶を最も身近に受けた学生の1人だった。

渋沢栄一の顔写真が入った2024年度発行予定の一万円札見本(財務省)

崎山精神の薫陶受ける

 酒井からは、崎山精神として「移住とは、受け入れ先国の開拓や経済社会発展に尽くし、果てはその地の土となり、子孫には誇りを持っていつでも帰って来られる良い故郷を残してやる事だ」と聞かされたものだった。
 次いで、両親・酒井夫妻の関係について述べれば、先ず酒井は植民学校を終えて、同校出身者(佐久間宮子)と結婚。 やはり植民学校出の義弟唯雄と3人で、1932年にサントス丸でブラジルへ移住、ミナス州コンキスタ駅の稲田耕地に入植した。
 翌年、サンパウロ州モジアナ、タクアラールに移転した。同稲田耕地で、酒井が米作に従事中の留守宅で、病床にあった妻宮子が黒人のカマラーダに殺害された。義弟の唯雄も酒井一家がパラグァイに転住直後、トラックで耕地の友人達とリオ・グランデ河へ慰安の魚釣りに行った際、ボートが転覆し、水難事故で亡くなる不幸が続いた。《つづく》

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