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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(229)

 そこで、正輝が参加している頼母子に入りたいと謙虚に申しでた。頼母子はそのころ多くの日本の人間で行われていた。沖縄人の間でも「ユレー」とよばれ、最初の日にはヒジャー・ヌ・シル(ヤギ汁)をみんなで食べる。正輝も胴元として、自分の家でやっていた。
 大城は高江洲正吉という沖縄人といっしょにきた。高江洲は1934年ブラジルにきた移民で、同胞の会を立ち上げ、戦争でまっ二つに分かれた勝ち組と負け組を結ぼうと努力していたひとりだった。けれども、頑固で、信念を変えない正輝はその願いを拒んだ。
 高江洲氏は長い年月が経ってからサントアンドレ沖縄県人会発足のいきさつを語った。
 「保久原氏には勝ち組の頼母子でお目にかかったことがあります。あの晩、大城さんと行きました。中に入らせてはもらいましたが、お話しはできませんでした。保久原氏の許可がなければ、頼母子のグループに入ることはできません。当時、99%の日系人は勝ち組の人たちでしたから。もし、あのとき、2つのうちどちらかを選ばなければなかったら、勝ち組をえらんでいたでしょう」
 あのとき、保久原氏はわたしたち二人に「おまえたちのような国賊を家に入れることはできない、自分は敗戦を断腸の思いで受け入れた。しかし、大戦終了以前に敗戦を受け入れた人間を赦すことはできない。おまえを含め、やつらは、愛国心など持ち合わせていないのだ。彼らを仲間だとよべるはずがない」といって、入会を拒みました。
 本当のところ、大城助一は勝ち組のクループの頼母子に入りたかったわけではなく、正輝が属する勝ち組と反対の負け組とをいっしょにさせ、沖縄県人の親睦会を作りたかっただけなのだ。
 負け組に対する正輝の頑固さが、サントアンドレの沖縄人たちをまとめる大切な運動から孤立させることになった。協賛者はどんどん増え、カプアーヴァ、ヴィラ・ウマイタから始まり、ヴィラ・ピーレス、カザブランカ区、ヴィラ・アウジラ、セントロ、ヴィラ・エレナ、ヴィラ・アスンソン、ジャルディン・ボン・パストール、さらに、カンペストレ区、ウチンガ、カミローポリス、パルケ・ダス・ナッソンエス、ファゼンダ・ジュンタまで広がっていった。
 沖縄人をはじめ他地方の出身者の大部分は勝ち組の者たちだった。しかし、このサントアンドレの沖縄協会の創立リーダーのひとりが大城だったことで、正輝は入らなかった。朝市の仲間の頼母子グループだけで、ウチナンチュー(沖縄人)の同胞の共同活動をつづけるのに十分だと思ったのだ。
 サントアンドレ沖縄協会の創立から遠ざかっていた正輝の上の息子ニーチャンとアキミツは、別の日系人指定の協会設立運動に参加していた。二人は1954年にジュリオ・メスキッタ工業専門学校で行われたABC文化協会の設立式に会員になるためのサインをしたのだ。

 正輝は子どもたちをブラジル社会に溶けこませようと、家でポルトガル語を使わせていたにもかかわらず、その決心とは裏腹に、日本的精神を継続するために、やっきになっていた。同郷の大城氏が昔のしこりを忘れ、沖縄人をまとめようと、正輝を説得にきたとき、反愛国主義者だといって家を追い出したのもその一例だ。

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