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今のイタリアは、3週間後のサンパウロかも

観光客が皆無になったイタリアの古都ヴェネツィアを消毒して回る職員。いずれサンパウロでも見られそうな光景(3月11日、Comune di Venezia)

 「今のイタリアは、3週間後のサンパウロかもしれない」――まるで世紀末に向かって黙示録のページを一枚、一枚めくるように、ブラジルのコロナ危機は毎日悪化の途を歩んでいる。冒頭に掲げた予測はあまりに悲しいが、現実にならないようにするには、今現在、相当の決断が必要だ。
 どれだけ被害が身の回りに及ぶか想像もできない。読者の皆さんにはぜひ罹らないように注意に注意を重ねてほしい。
 コロナウイルスは人から人へと感染する。しばらくは、できるだけ必要な時以外の外出を控え、友人や子、孫とは電話で会話するだけにするのが肝要だ。
 そして症状などに不安があれば、サンタクルス病院が特設した新型コロナウイルス緊急コールセンター(日本語対応、24時間、11・97572・4602)に尋ねてほしい。サンタクルス病院のこのような取り組みは、元「日本病院」の名に恥じないものだ。本当に称賛に値する。

「4月から医療崩壊する」と保健大臣が予告

ルイス・エンリッキ・マンデッタ保健大臣の会見の様子を報じるG1サイト

 ルイス・エンリッキ・マンデッタ保健大臣は20日(金)、記者会見で「ブラジルのコロナウイルス感染者は4月から6月の間、激増するはずだ」と医療崩壊を予告した。
 「4月から感染者の激増が始まり、5月、6月まで続き、その後、減少傾向に入る」と予告し、7月からようやくコロナ感染者増は勢いを失い始めると見ている。
 「7月からはおそらく『増えない』ぐらい様子になり、落ち始めるのは8月かもしれない。9月には急激に減り、3月の中国ぐらいの感じになる。これは西洋諸国の調査機関が持っている予測シナリオだ」と語っている。
 ブラジルの中でもサンパウロが一番、感染拡大がヒドイ。サンパウロ州では疫病被害が最も早く始まると保健大臣は見ており、「激増期には感染者数のグラフがほぼ90度、垂直に上がる。まだそこまで行っていない。感染者はサンパウロ州において来週(編註=今週のこと)、10日(3月30日)の間にこの急増期に入る」と予告する。
 20日時点で、ブラジルのコロナ死者は11人、うち9人がサンパウロ州で、その大半は大サンパウロ都市圏だ。
 保健大臣は「あと30日間ぐらいは、我々の医療機関は持ちこたえるだろう。だが、4月末までに医療崩壊に直面する」と予言した。「医療崩壊が意味するのは、お金があっても、健康保険があっても、法的強制力のある命令を持っていても、あなたは医療システムにかかれないという単純な状態だ。それが今、イタリアで起きていることだ」と恐ろしいことを平気で述べた。
 なぜ保健大臣がそんなことを言うかといえば、今のところイタリアよりもブラジルの感染者増加率の方が高いからだ。つまり、感染のピークはこれからやって来る。県連日本祭りが予定されていた7月は、感染者数がピークの状態でとどまっているころと予想される。だから県連の中止判断は正しいといえる。
 保健大臣の予測が正しければ、「治まり始める時期」は9月だろう。それまでのなんと半年もの間、体調を崩しても病院でまともに見てもらえない、とんでもない高リスク、高ストレスな生活が続く可能性がある。
 急激な感染者増を抑えるには、中国がやったように人の移動を徹底的に規制するしかない。だが「サンパウロを隔離する」ことは、現状ありえない。今試みられているのは、ある程度の経済活動を続けながら「社会的な距離を置く」程度の施策であり、知らない間に罹患する可能性は大だ。
 保健大臣はキチンと警告を発した。ところが悲しいことに本来、先頭に立って国民にウイルスの危険性を呼びかけるべき大統領が、逆に「ウイルスにヒステリーを起こして過剰反応するな」「教会を閉めるなどもってのほか」などと足を引っ張り続けている。
 大統領がそんな後ろ向き発言に終始している限りは、国を挙げた対策など想像もできない。
 イタリア政府は20日、新型コロナウイルスによる同国内の死者が627人増え、4032人の大台に達したと発表した。たった1日で627人がコロナ禍で死んでいる。それが、これからサンパウロで起きようとしている。
 それなのに大統領は「ヒステリーを起こすな」…。あまりに、国民が抱く恐怖感から浮き上がっている。

「火葬場が24時間稼働しても処理しきれない」

「イタリア北部、軍が火葬を支援 新型コロナ死者増加で」と報じる19日付ロイター記事

 イタリアとサンパウロが似ていることは、多くの識者が指摘するところだ。ブラジル南部もそうだが、サンパウロ州を中心に150万人以上のイタリア移民が移住し、生のラテン文化を持ち込んだ。その生活習慣、食生活、言語、挨拶の仕方に至るまで、色濃く影響を受けている。
 欧州で今回、コロナ危機がヒドイのはイタリアを筆頭に、スペイン、フランス、そしてポルトガルにも広がりつつある。みごとにラテン系諸国だ。その一番ひどいイタリアよりも、ブラジルの感染者数の上昇曲線が急激に上がっていると報道されている。
 だから「3週間後のサンパウロは、今のイタリアだ」と推測できる。
 「今のイタリア」はどういう状態か。たとえば、次の記事が19日の状態だ。
《[ミラノ 19日 ロイター] – 新型コロナウイルスによる死者が増加しているイタリア北部で、犠牲者の火葬が追いつかず、軍が支援に乗り出す事態となっている。
 新型コロナ流行が深刻なロンバルディア州ベルガモでは24時間態勢で火葬場が稼働しているものの、受入能力を上回っており当局が支援を要請していた》
 つまり、「24時間体制で火葬場が稼働しても、犠牲者の火葬が追い付かず、軍隊が支援する状態」だ。

愛する人が亡くなっても葬式すらできない

「アングル:イタリアでコロナ「隠れ死者」増加、高齢者施設の実態」と報じる18日付ロイター記事

 こんな記事もある。
 《[ミラノ 18日 ロイター] – 新型コロナウイルスの感染拡大によるイタリア国内の死者数が公式統計で2500人を超える一方、イタリアの高齢者介護施設では1日数十人がウイルス感染の検査を受けずに死亡している。新型コロナによる実際の死者数は公式発表の数を上回っている可能性をうかがわせる》
 具体的にどういうことかと言えば、被害が最も多い地域の一つ、イタリア北部ベルガモ市のゴリ市長によれば《今年3月の最初の2週間で164人の死者が発生し、そのうち31人が新型コロナウイルスによるものとされている。これに対して、昨年同時期の死者数は56人だ。
 新型コロナウイルスによる31人を足したとしても、昨年に比べて77人も死者が増えた計算になる。ウイルスによる実際の死者は公式に記録されているよりもかなり多い可能性を示唆している》という状態だ。
 つまり《イタリア国内で感染拡大が加速しはじめた3月2日頃から、介護施設での死亡がかなりの幅で「不自然に」増えていたという》という現象だ。
 クレモナ県では、「明らかに死亡例が増えている。クレモナの地元紙を見るだけで分かる。通常、訃報欄は1ページしかない。今日は5ページもある」との記述には頭を抱えた。
 そして医療崩壊の現実が次のように描かれる。
 《クレモナ地域の小さな街にある長期介護施設で働く看護師は、こうした施設は「見捨てられている」と言う。
 この看護師が担当するセクションでは、40人の入所者のうち38人が高熱を出して寝込んでいるが、介護スタッフは適切な防護服もなしに働かざるをえないという。だが地元の病院は、毎日数千人も報告される新規感染者のためにすでにパンク寸前の状態にあり、移送の手配をすることなど不可能だと分かった》
 感染の恐れがあるため、家族や親族は介護施設に面会にも行けない。そして死んでも、まともな検死もウイルス検査もできない。
 その記事は次のような哀しい一文で締めくくられる。《遺体は特別な防護用プラスチックバッグで包まれ、聖職者によって短い祈りが捧げられただけで、埋葬・火葬に付される。遺族が葬儀を行うには、集会規制が解除されるのを待たなければならない。
 ジニさんは、「新型コロナウイルスの犠牲者は、愛する人々が周囲にいないままの生活を送り、その生涯を閉じていく。ちゃんとした葬儀もないままに」と語る》
 これが3週間後のサンパウロかもしれない。

イタリアの二の舞にならないために

 前日のマンデッタ保健大臣の悲観的なサンパウロ州感染拡大の記者会見を受け、21日(土)昼、サンパウロ州のジョアン・ドリア州知事は「24日(火)から15日間、州全体に外出禁止令(quarentena)を施行する」と発表した。
 生活必需サービス部門の営業は通常通り。たとえば鉄道、メトロ、バス、タクシー、ウーベルなどの交通機関をはじめ、医療、ロテリア、スーパー、薬局、パン屋、精肉店、ガソリンスタンド、銀行、清掃業、運輸業、警備関係などの基幹業務はそのまま。
 建築現場やコールセンターも継続。自動車や家電に代表される工業一般や食品産業など、直接に一般市民に接触しない部門も、そのまま継続。
 ただしイベントの類は一切認められない。営業が認められないのは一般商店、喫茶店、バール(軽食堂)、レストランなど。ただし、デリバリーはOK。要は「一般市民はずっと家にいてください」という要請だ。
 感染を遅らせるには、人と人の接触を極限まで減らすしかない。遅きに失した感はあるが、やらないよりやったほうが絶対に良い。
 コロナ禍対策に後ろ向きなボウソナロ大統領より、本来の権限を超えて州外との陸海空の交通を遮断宣言したウィルソン・ヴィッツェル・リオ州知事、今回のドリア州知事の方が、国民が肌身で感じている脅威に即していると言えそうだ。
    ☆
 本紙7面にあるように、ほんの2週間前までは通常通りにイベントが行われ、いつも通りの「忙しい日々」「明るい未来」がくると漠然と誰もが思っていた。
 あの当時の記事を紙面に掲載しつつも、ある種の違和感を覚えるぐらいに現実の方が変わってしまった。これは「ウイルス世界大戦の戦時下」ともいえる激変ぶりだ。
 2週間前の「コロナ前」のブラジルには、もう戻れない。「コロナ後」のブラジルはアブラッソ(抱擁)をしなくなり、対人接触が豊富な現在の挨拶の仕方までが変わった「別のブラジル」になっている。
 「コロナ中」の現在は、100年に一度の超巨大なコロナ台風が通り過ぎるのを、頭を低くして身体を隠すように注意を払って、ひたすら耐え忍ぶしかない。(深)

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