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中島宏著『クリスト・レイ』第16話

それほどこの教会は、他とは違った佇まいを持ち、不思議な雰囲気を漂わせている。最初は、この教会の秘密を探ろうという目的があったのだが、マルコスは日本語にのめり込んでいったために、そのことは二の次というような感じになり、まあ、そのうちに分かってくるだろうというふうに考えが変わっていった。
はっきり言えば、さして緊急な話でもなく、うっちゃって置いたところで、別に構わないという感じのものでもあった。しかし、新しい教会の工事が進むにつれて、その威容の片鱗が徐々に現れてくるに従って、マルコスも、そういつまでも無関心ではおられなくなった。
あれから二年以上経った今、日本語は相変わらずのペースで上達しているし、最近では勉強の方も多少の余裕ができたという感じになって、周りのことに目がいくようになってきている。
この頃では、この日本人たちの特殊とも思えるような集団のあり方や、その人々が生活の中心にしているような教会の存在に対して、徐々に関心を向けるようになっていた。一緒に勉強している、日系の友人たちには、時々簡単なことなどを聞いてみるのだが、彼らの答えはあまり要領を得ず、どうも、確実な情報とか知識などは持っていないようで、自信もなさそうだった。
彼らが言うには、アヤ先生に聞くのが一番間違いないだろう、彼女に直接聞いてみたらいいということであった。別に、どうしても知らなければならないという問題でもないのだが、何となくこの疑問が解けないことにはすっきりしないという気分が、マルコスにはあった。日本語の授業中にこんなことは聞けないから、ある日、彼は思い切ってアヤに、そのことを相談してみた。
「いいですよ。そういう話だったら喜んで説明するわ。でも、ちょっと時間がかかりそうね。どうかしら、今度の土曜日の昼過ぎということで。土曜日だったら時間も十分にあるから大丈夫よ。そうね、二時頃この学校の前でということにしましょうか」
思い切って聞いてみるものだと、マルコスは思った。もちろん、彼にとって異存があるはずもない。では、お願いしますと頼みつつ、彼女とそういう約束を交わした。  正直なところ、マルコスはいささかのときめきを覚えている。
アヤとの約束が、彼にとっては何だかデートのような雰囲気を伴い、そのことが少し彼の冷静さを失わせている。動悸が高まってきて、いつもとは様子が違う。ちょっとした恋愛感情とでも言ったらいいのか。何なんだこれは。落ち着け。
そう考えるのだが、この感情の昂りは簡単には収まりそうもない。相手は若いとはいうものの、彼の日本語の先生であり、そのような思いはある種、不謹慎ではないか。そんなふうにも考えるのだが、しかし、この落ち着かない気持ちは押さえられないようにして持続していく。
いつの間にか、マルコスのアヤに対する気持ちは、単に先生と生徒という範疇からはみ出していた。もちろん、これまではそれをはっきりと意識したことはなかったのだが、最近、そのことが頭に浮かんでくるようになり、それを押さえようとしても昂じがたいという感じになり始めている。頭を冷やせ。お前は何を考えているんだ。

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