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≪記者コラム≫アルゼンチンのように厳しすぎるのも逆に問題

アルゼンチンのフェルナンデス大統領(Casa Roaada)

アルゼンチンのフェルナンデス大統領(Casa Roaada)

 ブラジルの新型コロナ感染者数は300万人超で、死者は12万人近い。さすがにこれだけの数を記録してしまった後では、以前のように「経済活動を再開しろ」などという声を伯国であげるのは「今さら」な感じがあり、外出自粛規制緩和などが市や州で行われると、不安からか批判の声が上がることも珍しくない。
 その一方で現在、意外な国で強い抗議運動が起こりはじめているという。その国とは、アルゼンチンのことだ。
 その話を最近報道で耳にしたときはかなり予想外な感じがした。アルゼンチンと言えば、南米でコロナの感染爆発がはじまった頃、いち早く、どの国よりも厳しいロックダウンを行い、コロナの封じ込みに成功した国であるかのように報じられていたからだ。
「外出は買い物でさえも軍隊の許可がいる」「子供は絶対に外に出さない」など、同国の外出自粛は徹底されており、感染者、死者も南米の隣国に比べて圧倒的に少なかった。
 この政策を実施したアルベルト・フェルナンデス氏への支持率は90%近くと記録的な数字を記録していた。「出来ることならアルゼンチンに引っ越したい」。そんな伯人の声まで聞こえてくるくらいだった。
 そんな国で現在、外出自粛緩和や経済活動再開を求めてのデモが頻発しているというのだ。「しばらくこの国の情報をチェックしていなかったな」と思い調べてみたら、感染者数は26日の時点で約36万人で世界12位。死者数は8千人ほどで世界18位。ひところから比べるとだいぶ増えた。それでも、いずれも伯国の10分の1くらいの数字では収まっている。
 むしろ、伯国からの訪問者が感染源となって迷惑かけたのではないかと、そちらを心配してしまいたくなる数字でもある。そんな中で「感染を最小限に食い止めた」と誇るでなしに、「早く開放しろ」と多くの国民が暴れているというのだから世の中はわからないものだ。
 ただ、一つ思い当たるフシがコラム子にもある。それは「ペースがあまりにもオーバーペース過ぎたのではないか」ということだ。それと同じことは、伯国で3月に当時のマンデッタ保健相が全国的な外出自粛を呼びかけたときにも思ったことだ。「5月以降にピークが来るものを3月から自粛を始めるのは少し早すぎやしないか」。「感染者数が爆発する頃に家にいる方がより効果的なのでは。その頃に国民が隔離疲れでバテては意味がないのでは」。そう思っていたからだ。
 聖州などは、そうした「隔離で州民が我慢できる頃合い」があらかじめ計算できていたのか、隔離が3カ月を超えたあたりから、感染、死者増加のペースの鈍化を理由に緩和を進めてきた。幸いにして、そのことで起きる反動的増加も今のところはない。
 ところがアルゼンチンの場合、最初から最大限に厳しく、その後も厳しさが和らぐことがないという。さすがにこれでは国民も苦しいのではないか。たしかに初期の感染拡大は抑えることには成功したかもしれない。
 だがウイルスの感染力は変わらない。だから死者、感染者の減少がずっと起こらず、人々が疲れた頃にその数がグッとあがる。それではむしろ、これからの方が心配だ。
 初期段階での伯国の油断を肯定する気はないが、「人間の忍耐力」を考慮した対策は必要だ。(陽)

 

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