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中島宏著『クリスト・レイ』第39話

 でも、そんなことだったら、ヨーロッパから来た移民の人たちが、同じようにそれぞれの教会を建てているのだから、それは別に特別のことでもないだろうと言われそうだけど、正直に言って微妙なところで、やはりそこには違いというものがあると私は信じたいわ。
 ヨーロッパからの移民の人たちの場合は、そのほとんどが大昔からキリスト教というものに基盤があって、基本的には、そこから大きく変わってしまうことはなかったでしょうけど、私たちの場合は、彼らのように確かな土台を持っていなかった分、その基礎のところが、かなり不安定な状態のままだったわけね。つまり、ヨーロッパとはまったく異なる東洋の日本へ移植されるようにして植え付けられていったキリスト教が、私たちの教会の原点だったの。
 たとえばイタリアから、このブラジルへ移民して来た人たちの場合は、ローマ・カトリックの流れをそのままここで継承していくことによって、比較的楽にこの国に同化していけたということは言えるでしょう。そこには言語の違いはあっても、宗教の面での違いはなかったということだから、少なくとも精神的あるいは文化的な衝撃はなかったはずよね。
 簡単に言ってしまうと、この場合は同じ系統の流れの中で、このブラジルに新たな支部を開けたという程度の感覚だったのじゃないかと思うの。だから、そこにあったものは、ごく自然な形のものとして、こちらでも受け入れられていったということでしょうね。
 ところがね、私たちの場合は一旦、日本へ渡って特別な環境で育まれていったキリスト教が、ある程度、形を変えてブラジルに移植されたというような感じのものなのね。そこに、私たちの教会の微妙な違いと特徴があると言えるのじゃないかしら」
「そういう歴史の流れの差ということは分かるけど、でも、僕から見ればクリスト・レイ教会も、このブラジルのカトリック教会も、その元は同じもので、ローマ・カトリックに繋がっているのだから、そこに違いがあると考えるのは、ちょっと不自然のような気もするんですが。同じ、キリスト教であり、カトリックであり、そこには何も違いが見られないという感じだけど、実際にはそこに差があるということですか」

「ひとつ、肝心なことをマルコスに説明するのを忘れてました。それはね、クリスト・レイ教会は、普通のカトリック教会とは違う点を持っているということです」
「つまり、クリスト・レイ教会は、日本人たちだけの教会ということなんですか。特徴があるということは、そういうことなんですか」
「それもあるけど、もっと、決定的に違うものがあるわ。それはねマルコス、このクリスト・レイ教会には、あの十六世紀に実際に日本で起きた、徳川幕府の弾圧による犠牲者たちが祀ってあるという点なの。つまり、殉教者たちの教会が、クリスト・レイ教会というわけね」
「殉教者? アヤ、それはどういう意味ですか」
「それはつまり、キリストの教えに殉じて亡くなった人たちのことなの。徳川幕府から厳しい迫害を受けて、キリスト教を捨てて改宗せよという命令に従わず、最後まで自分たちの信念を貫き通して、結局、磔の刑に処せられた人たちね。詳しく言うと、それは一五九七年二月五日に、さっき言った九州の地方の長崎という町で二十六人が一緒に十字架にかけられて処刑されたの。その中には、三人の少年たちも含まれていたわ」

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