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中島宏著『クリスト・レイ』第62話

「アヤの場合は、生きていく上で教会の存在というのは大きなものだろうけど、しかし、それに徹することがないとすれば、やはり何か別の道を探さなければならないということになりますね。今のところは問題ないにしても、将来はそのことが大きな課題になっていくでしょう。どの辺りから方向転換をしていくのか、その辺が中々難しそうな感じもあるけど」
「そのことだったら、私の場合は、もうブラジルに来たときからそのことは考えているの。つまり、教会の仕事は、こういっては何だけど、あくまで一時的なものに過ぎず、この仕事だけをここで一生続けていくというふうには考えていないの。もちろん、これはこれで可能な限り、ボランティアのような形でも続けていくつもりだけど、しかし、それと並行して、私にはもっとやるべき仕事があるようにも思っているの。
 それが何であるのかは、今のところ具体的なものはないけど、いずれそういう機会があれば、そちらの方に向かって行きたいとは考えているわ。それが、農業に関するものか、あるいはまったく違った、たとえば都会での仕事になるのかは分からないけど、とにかく、今までとは違った方面に進んで行きたいとは思ってるの。
 もっとも、女の私が一人で大したこともできるわけはないでしょうけど、でも、せっかくこのブラジルという大きな国に来たのだから、それにふさわしいような人生が送れないかとは思うわね。たとえそれが、最初の目的には達せられないにしても、そういう生き方をしたということに価値があると私は考えているわ。
 まあこれは、ちょっと夢のような話にもなるけど、一度きりの人生だから、そういうふうに挑戦するような生き方もいいのじゃないかと思ってるの。
 前にも言ったように、私は叔父の家族と一緒だから、取りあえずは叔父たちと行動を共にするということになるけど、今までの経過を見てると、叔父の場合は、同じ所から来た人たちが集まっている関係もあって結局、ここの人たちが決めることに従うということになって行きそうな気配ね。何といってもまず、生活できなければ皆が路頭に迷ってしまうことになるから、そのことが、つまり農業の成果が最優先されるということになるのでしょうね。ここの農業が駄目になった時、そこをどう乗り越えていくかというのが、近い将来には間違いなく起きてくる問題でしょう。
 私個人としては、できれば農業もうまくいき、それによって教会もずっと発展していって欲しいと思ってるけど、ただ、必ずそうなるという保証は今のところ何もないわね。変な言い方だけど、今ここに立派な教会が建ちつつあっても、もし近い将来、このゴンザーガ地区の人たちの生活が困窮すれば、この教会自体も成り立たなくなることになるわ。そしてそれは、決してあり得ないことでもないの。ブラジルでの、特に日本人移民の人たちの今までの厳しい現実を見ていると、そのことは十分あり得ることとして考えられるわね」
「もし、仮にそういうことが現実のものとなったとしたら、このゴンザーガ地区の植民地の人たちはどうなっていくのでしょうか。そして、あなたの場合は」

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