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《記者コラム》コロナ禍に立ち向かう世界の日系社会現地報告

 毎年10月に東京で開催される「海外日系人大会」がパンデミックを受け、今年は「オンラインフォーラム2020《「コロナの時代を乗り越える世界の日系人」》(https://www.youtube.com/user/wwtjadesas/)として開催された。
 初のオンライン開催のおかげでブラジルから視聴できた。コラム子のように、滅多に参加できない者が見られたという意味では、有り難い開催方法だった。来年からもぜひ続けてほしい。
 その前半の現地報告の概要を伝える。全編では約2時間半あり、日本語字幕版、英語字幕版の両方がある。

NPO在日ブラジル人を支援する会の茂木真一会長

 コロナ禍現地報告の中でも、特に印象深かったのは東京のNPO在日ブラジル人を支援する会(SABIJA)の茂木真一会長の次の言葉だ。
 「日本は急速に高齢化しており、その対策に非常に力を入れている。あなたもその対象の一人だ。第2次世界大戦後、イスラエルが世界中に散らばっているイスラエル人同胞を新しい国に呼び寄せたように、日本は意識的か、無意識でやっているのかは知らないが、同じことをしていると思う。呼び返している。日本はそのために大きな投資をしている。日本は扉をあげて手をさしのべている。物理的に戻ることだけを意味しない。日本政府は海外の日系人との繋がりを強めたい考えている。そんな機会について考えてみてほしい」と呼びかけていた。
 茂木会長は、どんな金庫でも開けることで有名で「Medico dos cofres(金庫の医者)」と呼ばれた戦後移民、故茂木安太郎さんの息子だ。ブラジル群馬県人会長だったから日系社会でも有名な人物だった。

「Medico dos cofres(金庫の医者)」茂木安太郎さん(2003年11月撮影)

 その子息が30年ほど前に父の国に渡って建築業で成功し、海外日系人協会の役員にもなった。在日日系社会の名士だ。「あの茂木さんの息子が…」と感慨を覚える人も多いのではないか。
 かつてイスラエルが世界にチリジリになっていた在外同胞や子孫を呼び戻したの同じことを、超高齢化社会となった日本がやろうとしているとの説に不思議な共感を覚えた。
 とはいえ現実的に考えてみれば、海外日系人はわずか350万人。日本の人口減少を遅らせるには、全員が日本に行ったところでまったく歯がたたない。

北米日系社会も苦しむコロナ禍

飯泉嘉門会長

 フォーラムでは最初に主催者の飯泉嘉門会長が挨拶、「コロナ禍の中で海外の日系の皆さんがどのような行動をされ、どんな役割を果たしたのかを検証し、後世に残していきたい」との主旨を説明した。
 茂木敏充外務大臣もビデオメッセージで「今年は入管法改正から30周年の節目の年」と日本の日系人社会の存在を振り返り、「外務省としても日系社会との関係強化をしていきたい」と抱負を述べた。

茂木敏充外務大臣

 次に「現地報告」がアメリカ大陸を中心に1時間余りに渡って配信され、欧州や日本の日系人17人が現地から映像メッセージを送った。
■ハワイ■

ハワイ日系人連合協会のフランセス仲地久場会長

 ハワイ日系人連合協会のフランセス仲地久場会長が登場し、観光業が柱であるために経済的な打撃がひどいが、地元日系レストランと連携して資金集めのイベントを開始した他、伝統の「月見の会」がオンライン開催され、マウナケア山の国立天文台のすばる望遠鏡による月の生映像がオンラインで配信され、無事に月見ができたことが報告された。
 同協会の今年のテーマは「開花」で「花が咲くように文化を発展させる。コロナ禍に負けないように、これまで以上に一人一人が強く生きなければ。団結、調和、一体感、そして平和を象徴する『和』の精神を育むことに力を注ぐ」と宣言した。
■ニューヨーク■

ニューヨーク日系人会のスーザン大沼会長

 ニューヨーク日系人会のスーザン大沼会長は、毎月2回開催されていた敬老会が、パンデミックで中止になったと報告。対策として、孤立するシニアを支援するために「プロジェクト弁当」を立ち上げ、地元日系社会の協力を得て、60人のボランティアの活動により、2千食以上の弁当を配達し、「お元気ですかCALL」(安否確認電話)が今も続いていると語った。
 マスク使用の習慣がなかったアメリカ人のために、マスクを手作りしてホームレスシェルターにも寄贈した。さらにオンライン「秋のヘルス・フェア」イベントを開催し、ニューヨークで健康で安全な生活をするための75のワークショックが行われたという。
■ロサンゼルス■

KEMPO TVの平林憲法さんの報告にある和田ジュージ氏

 KEMPO TVの平林憲法さんは最近撮影した映像を編集して、メッセージをかぶせた。3月以来、同地最大の二世ウィーク同様にすべてのイベントが中止され、県人会の伝統のピクニックもキャンセルされ、日本からの留学生も全員帰国したとのこと。日本語塾や日系学校は州の衛生基準に従ってオンライン授業。
 「山火事、暴動、デモ、ヘイトクライムなどがオーバーにニュースで報道されていますが、一般の人たちは平穏に過ごしているのが実情です」と現地の声を代弁した。
 そして先頃、地元で有名な和田ジュージ氏が90歳で亡くなり、初めて「オンライン葬儀」にも参加したという。オレンジ仏教会が仏式で読経を配信し、アメリカ各地の親戚、バスケや野球のコーチをしていた故人の教え子、日本人留学生のホームステイ受け入れをしていた関係で世話になった日本在住の日本人もオンラインで参加したという。

120万カナダドルの借金した団体も

■カナダ・バーナビー■

カナダ日系文化センター・博物館のハーバート・オノ理事長

 カナダ日系文化センター・博物館のハーバート・オノ理事長は映像で「コロナ流行でただならぬ国難に直面しているのは事実だが、私たちコミュニティはその特質である回復力、ストイックさ、尊厳を保っていることを誇りに思う。同じ敷地内に高齢者住宅・介護施設を有しているので、その点に十分にも注意を払っている」と報告した。
 同博物館のカラー・ゴシモン・フォスター専務理事は、3月18日にパンデミックで閉館し、6月2日から段階的に活動開始したと報告。地元日系カナダ人アーティストと職人をテーマにした展示「サマー・アット・日系ガーデン」は、社会的距離を配慮して人数制限をして入場を受け入れた。週末には開催回数を増やすなどして、最大限に入場者を増やしたとの工夫を明かした。
 さらに、戦争中の日系カナダ人が受けた不当な扱いに関する調査に関する「ランドスケープ・オブ・インジェスティ」展も、コロナ対策を施して展示手法を変更して実施した。
 「日本センターの収益の大部分は施設の貸し出し、資金調達イベント、スポンサーシップによってまかなわれているが、コロナで頼れなくなった。先駆者の忍耐力に学んで、クリエイティブに対応して行くつもりだ」との意気込みを語った。
■カナダ・トロント■

トロント日系文化センターのゲイリー・カワウチ館長

 トロント日系文化センターのゲイリー・カワウチ館長は「3月11日に閉館して活動を中止。地域社会に救援金を求め、現金で20万ドルの寄付が寄せられた。だが、さらに120万カナダドルを借金せねばならなかった」と衝撃的な現状を明らかにした。
 にもかかわらず、次のように前向きな姿勢を示した。「私たちは今、何年も得られなかったすばらしい機会を手にしています。あなたがどの地域にいようが、日本移民がどのようにその地域に根付いたか、どんな問題に直面してどう繁栄につなげたか、今は何をしているのか、それこそが我々が子や孫に語り継ぐべきこと。豊かな物語です。日系アメリカ人と日系カナダ人の戦時中の経験の違いも。第2次世界大戦の感情を引きずりながら、人種差別に対峙しながら、収容所から解放された後、どのように定住したのかを知る、絶好の機会です。そのことを、みんなが話し合えたらすばらしい機会になります」。

メキシコ「創立以来、最大のピンチ迎えた」

■メキシコ■

メキシコ日墨協会の中村剛会長

 メキシコ日墨協会の中村剛会長は「すべての施設が閉鎖され、設立以来の最大のピンチを迎えています。地方日系団体との交流、盂蘭盆法要、日本語学校だけオンラインで続けている。だが、長年続けてきた月2回の敬老会はできなくなった。収益不足を補おうと日本とメキシコでクラウドファンディングも立ち上げた。それでもこの組織を次世代につなげたいと我々は頑張っています」と語った。
■キューバ■

キューバ日系人連合会のフランシスコ・シンイチ・ミヤサカさん

 キューバ日系人連合会のフランシスコ・シンイチ・ミヤサカさんは「外国との交流がコントロールされているので、感染はそれほどひどくない。ウイルスと戦う医者や医療従事者に日系人がいることは我々の誇り」と語った。
■ブラジル■

ブラジル日本文化福祉協会の石川レナト会長

 ブラジル日本文化福祉協会の石川レナト会長は「新しい日常への代替え策は、デジタル技術の導入。日系団体で活動を続けられているところは、デジタル技術に強い青年層がいるところ。文協もすぐに活動をデジタル化し、会議もイベントもオンラインにした」と概要を語り、「ブラジルはコロナの犠牲者は多い国ですが、日系社会は立ち止まることなく、回復させるために前進している」と語った。
■ペルー■

キューバ日系人連合会のフランシスコ・シンイチ・ミヤサカさん

 ペルー日系人協会のノルベルト・ホサカ会長は「リマの市民を支援するために『ペルーがんばれ!キャンペーン』を行い、日系団体からの寄付を集めて、施設や居住区、大衆食堂に食材や水、料理用品を寄付した。リマ市内の5病院にも感染予防器具などを届けた」と一般社会への貢献をした。
 さらに「日系の小さなビジネスや新規事業のための情報支援ネットワークを多数構築した」とも。
 最後に「一世紀以上前に海を渡ってきた移民の子孫として、先祖の努力をたたえ、それぞれの国のために我々は働かなくてはならない。その国は先祖が選んだ国だからです。自分のルーツに誇りを持つ日系人であることを喜びとし、多様な文化のために貢献しましょう」との心構えを呼びかけた。

「移住開始以来、最大の苦境に」

■アルゼンチン■

アルゼンチン日系センターの小木曽モニカ元会長

 アルゼンチン日系センターの小木曽モニカ元会長は「3月20日に外出禁止措置が始まって以来、今も続いている。『世界最長のロックダウン』と呼ばれ、経済的な打撃が大きい。日系団体のバザー、祭りなどの活動もすべて中止した。不況に伴って治安も悪化しており、デカセギを希望する若者も増えているようだ」などと切実な声を伝えた。
■ボリビア■

ボリビア日系協会連合会の安仁屋滋事務局長

 ボリビア日系協会連合会の安仁屋滋事務局長は、「10月始めの段階で感染者数13万人、死者7千人超。医療体制が貧弱な地域で被害が多い。日系社会でも、アマゾン地方のベン県、パンド県において多数の感染者が発生し、著名な日系人も亡くなった。例えばリベラルタ日語文化協会のハイメ・ハブ、ホセ・ハシモト名誉会長。コチャバンバ日語文化協会のヘラルド・コトリ前会長が亡くなった。サンタクルス県では日系人2人死亡、感染者若干名。ラパス県でも若干名の感染者」との現状を報告した。
 その対処としては「パンド県では有志による食糧配布、コチャバンバ日語文化協会によるベン県日系社会向けの募金活動、ラパス県サンタクルス市では中央日本人会による高齢者向け安否確認電話などが実施されている。オンラインが急速に普及し、『災い転じて福となす』のように日系団体同士のネットワーク作りにには大きなチャンスではないか」と語った。
■パラグアイ■

パラグアイ日本人会連合会の菊池昭雄事務局長

 パラグアイ日本人会連合会の菊池昭雄事務局長は「パラグアイ移住84年の歴史の中で、最大の苦境に立たされている。大ジャングルの開拓はつらく苦しいものだったが、生活には夢と希望があった。だから幾多の困難を乗り越えて今の日系社会がある。だがこのウイルスからは何も得るものがありません。どのように立ち直るのか。現時点では一日でも早い収束を祈るだけ」との声を伝えた。
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 ほかに英国、ドイツ、ニューカレドニア、フィリピンなど。移住開始から100年以上が経った地域では、当然現地語化が進む。戦後移住者が多い国ほど、日本語だった印象が強い。全地域に共通した課題は、若者世代への活動の継承。これには現地語化が不可欠だ。
 世界の日系社会の実情が1時間でコンパクトに分かる映像は実に貴重だ。来年からも続けてほしい取り組みだといえる。座談会を中心とした第2部も興味深い内容だが、ここでは割愛する。ぜひビデオを見てほしい。
 唯一の注文は、日本語版、英語版だけでなく、ポルトガル版も作ってほしい点だ。海外日系人350万人のうち200万人は日系ブラジル人であり、せっかく世界から見られる映像を公開するなら、過半数を無視するのは実にもったいない。(深)

 

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