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【2021年新年号】《記者コラム》コロナ禍の大被害は避けられたか=挙国一致で取り組めないブラジル=ワクチン完成しても安心できない?

コロナ感染症患者を運ぶ救急隊員(12月4日付G1サイトの記事の一部)

 2020年の10大ニュース1位は間違いなく「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)」で、「ロックダウン」「コロナ」「クラスター」などの言葉は辞書にも入る事になった。
 初の感染者確認は20年2月26日、初の死者確認は3月16日だったから、患者確認後310日、死者確認から290日が過ぎた。ブラジルでは第1波も終わらぬ内に第2波が始まるという苦渋の体験を余儀なくされ、感染者は700万人を、死者は18万人を超えた。

科学や経験を認めない連邦政府

コロナによる死者急増後のマナウス市の墓地(Altemar Alcantara.Semcom)

 かくも多くの感染者や死者の発生は本当に不可避で、「余儀なくされた」事なのか。
 人類は1918~19年に、スペイン風邪で5千万人の命を失った。新型コロナでは、9月28日までに世界中で100万人、12月初旬には150万人の命を失った。
 世界保健機関(WHO)によるパンデミック宣言後はスペイン風邪で得た経験を共有するための試みがあった。米国のジョン・バリー氏は『グレート・インフルエンザ(A Grande Gripe)』で、1918年初頭に第1波、同年10月頃第2波、翌年初頭に第3波が来た事や、感染拡大抑制に努めた市は死者も少なく、景気回復も早かった事を記している。
 エスタード紙の場合、少なくとも20年5月と8月に同著に言及。バリー氏は「ウイルスをコントロールしない限り、より大きな荒廃を招く」と米国政府に警告したという。感染抑制が早いほど経済回復が早い事はWHOも強調。フォーリャ紙も20年10月31日付などで、スペイン風邪流行時にマスクが使われた事などを報じている。
 だが、トランプ米大統領やその信奉者のボルソナロ伯大統領は、マスク着用推奨どころか、マスクも着けずに出歩き、人混みを生じさせるような行動を煽り、社会的な距離を保ち、3密を回避などの忠告も馬耳東風だ。コロナ感染症は「単なる風邪」と小馬鹿にし、科学や経験を無視した二人は、どちらもコロナに感染したが軽症で済んだ。
 だが、両国国民はコロナ禍で困窮し、死者発生数は世界一と二位だ。アメリカの状況は大統領選後、30秒に1人の死者が出る程悪化した。
 ボルソナロ大統領は仕事に出かけた子供達が高齢の親の感染や死を招く例もある事を認めず、若者は軽症で済むから「高齢者を家に置き、働きに出ろ」と強調した。だが、多くの自治体の長はそれに従わず、外出自粛などの対策を採用した。

薬効のない薬に大金使う

予防接種に関する知事との会合でのパズエロ保健相(Ministerio da Saude)

 両大統領には、クロロキンを推奨し、使用を強要したという共通点もある。ボルソナロ大統領は死亡率を高めるとの研究結果さえ出ていた薬を軽症者にも使わせるようとし、マンデッタ、タイシの両保健相に特効薬としての使用を承認させようとした。だが、医師でもある両氏は承認を拒否。仕方なくパズエロ保健相代行(当時)に強要、承認させた。WHOは後日、正式に薬効を否定したが、伯国では軍に大量生産させた上、米国が贈って来た同薬を持て余している。
 大量の検査キットが反応薬不足などで使えず、使用期限切れになって大金をどぶに捨てるかの事態が生じた際は、クロロキン生産用資金で不足した資材を購入していたらと考えたものだ。検査不足が感染拡大抑制を妨げた責任も問われるべきだし、アラウージョ外相が国連で、コロナ対策で各国の方針や努力を擁護した事も物議を醸した。

経済は緊急支援金で回復したが

 20年3月に出た外出自粛令はそれなりの効果を見せ始めたが、国と地方自治体のコロナ対策の不一致、連邦政府内の不一致(マンデッタ氏は後日、大統領は現実を見ようとしなかったと語っている)、雇用維持政策にも関わらず失業者が増えた事、外出自粛で困窮した企業や市民からの圧力などで、地方自治体が早めに規制緩和を始めた事は、4月半ば以降の感染拡大を招いた。
 規制緩和と連邦政府による緊急支援金支給で経済は回復に向かい始め、第2四半期に落ち込んだ国内総生産(GDP)は第3四半期に7・7%増を記録。ゲデス経済相は「緊急支援金継続の理由消滅」というが、第3四半期の成長は支援金あればこそだ。支援金だけが収入源の家庭は320万世帯。物価高で購買力が低下、支援金も減額&打ち切りとなれば、家庭消費の貢献度は縮小する。
 同相はその前に「緊急支援金継続は、第2波が来て、死者が1日1千人を超すような事態が起きた時だけ」と発言していた。だが、20年12月第1週の新規感染者数はピーク時に近く、医療崩壊が起きた州や市もある。 1日あたりの死者は日増しに増え、多くの自治体が外出規制を強化した。
 新年号が届く頃は感染者や死者が減り、選挙戦や連休、気の緩みが原因の一時的な増加だったと言える事を願いたいが、ナタルの買い物や年末年始のイベントを優先すれば感染拡大継続は明白だ。
 20年12月3日付G1サイトには、「パンデミックを抑制できないと経済成長は妨げられ、公共支出も増える」との記事も出た。ブラジルはコロナ対策に先進国並みで他の新興国を大幅に上回るGDPの9・4%という大金を費やしており、公的負債はGDP額に限りなく近づいた。ワクチン購入や、感染再拡大による緊急支援金の支給延長が決まれば、経費増や負債増は不可避だ。
 観光業などのサービス業や商業、資材不足に悩む工業、雇用が第4四半期に回復に向かうか、回復を維持できるかも気がかりだ。ジュースメーカーのアウロラがガラス瓶不足で一時的に製造停止とか、コロナ禍でデリバリーを始めた店がこん包材付着で困窮といった報道を見ると、不安は膨らむ。感染再拡大で第4四半期の回復が鈍化、後退すれば、雇用純減も起きかねず、学校での対面授業再開も遅れる。
 対面授業再開を巡っては、子供の感染を怖れる親と学力低下や仕事に出れない事を考える親との間の確執も起きている。教育省の大学の授業再開宣言に大学側が苦言を呈したという話もある。学校閉鎖や対面授業停止は習得度に差を生むし、GDPにも損失を与える。
 遠隔授業で社会格差拡大とか、州や市がタブレットやインターネットの援助で経費負担増加といった報道も、感染抑制の遅れで経済が影響を受けた例だ。コロナ禍では養子縁組減少などの予期せぬ影響さえ出ている。
 
予防接種も即座の解決にはならず

中国製のワクチン、コロナバックを手にするサンパウロ州のドリア知事(govesp)

 多くの人が「予防接種ワクチンができたら安心して出歩ける」と考える中、20年12月には各国がワクチンの緊急使用を始めた。英国がファイザー社のワクチンを緊急承認した直後、WHOは「光が見えた」と語ったが、ワクチン承認=全員接種ではない。
 世界中に行きわたる量のワクチン製造に必要な時間や貧しい国が購入できるかは不明だし、グローバル化された世界では一部の国だけの接種では不十分だ。
 また、急いで開発したため、接種でできた抗体の有効期間などが実証されておらず、変異体もできるから、インフルエンザ同様の季節接種が必要となりうる。接種で抗体ができない人もいるかもしれず、感染後に再感染する人もいる。
 コラム子の身近な人やその家族もコロナで亡くなったし、コロナが引き金らしき脳血管障害や心筋梗塞で亡くなった人や闘病中の人もいる。コロナで亡くなる人の知らせが続き、早く20年が終われと願った知人もいた。ワクチンが政治的な争いの道具にすらなる状態が解決し、人々がコロナの恐怖から解放され、安心して人と会い、集える21年となる事を心から願いたい。(み)

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