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特別寄稿=最近、とても感動したこと=ブラジル人茶人の「日本の心」=Klecio さんの茶事に寄せてサンパウロ市在住 林まどか(宗円)

参加者で記念写真

 最近非常に感動したことがある。あるブラジル茶人、クレシオさんの茶事に対する心構えにである。ロンドリーナから537キロの道を7時間かけて、車いっぱいに茶道具を積み込み、サンパウロに着き、本人が亭主を務める茶事に臨んだ。パラナ州のトレド(Toledo)の名水を抱えて。
 そうして、茶事の当日、早朝茶室に現れ、手作りの和菓子、「きんとん」の裏ごしからはじまり、「秋の山」との銘の主菓子作り始めた。車一台に詰め込まれた茶道具やこのきんとんは、この亭主クレシオさんの「もてなしの心」の表れである。
〈侘び月の茶事〉
 茶事は、6月28日に行われた。亭主のご趣向は、日本の十月、侘びの季節の取り合わせであり、風炉は、やつれ風炉。釜は雲龍釜。
 このわびたやつれ風炉は、非常に風情がある。灰は、二文字押切。かきあげで、灰に筋目が入っている、鉄風炉である。そうして、秋の趣向の中置で行われた。
 この中置は、夏から冬に向かう、火の恋しくなる季節の点前で、通常の風炉の点前より、客方に火が近づく、晩秋の点前である。
 まず迎え付けの挨拶が行われ、蹲居をつかい、客三名が、席中に入る。
主客の挨拶の後、正式な正午茶事なので、懐石が出る。下の献立である。

 そうして、懐石が済むと初炭となる。下火を整え、炭を組み風炉中に置く。茶事などで行うこの炭手前は、なかなか良いものである。本日の連客様のためにこの灰型を作りそこに月形で、しるしを入れる。今日、この日だけのもてなしである。
 だが鉄風炉は、侘びなので省略する。その後に濃茶の主菓子が出て来る。ブラジルでは、きんとんは、なかなかお目にかかれないが、クレシオさん手作りの菓子は、紅葉の彩りに、金粉がかかり、錦織りなす風情がある。

〈初座から後座へ〉

 初座が終わり、中立(休憩時間)があり、後座へと移る。
 後座で席中に入ると、床の中央の竹一重の花入れに、紅葉と白玉椿が入れられている。後座は、濃茶、後炭、薄茶とある。濃茶は一碗の茶碗を、連客で回し飲むのだが、今のコロナを危惧して、家元は、「各服点」(かくふくだて、十三代円能斎家元考案)という点前を推奨された。
 今回は半東が別碗を持ち出した。後炭では、炭の中央に輪胴という太い炭が使われるが、この炭は、20年前に最初の師匠の、岩上輝子(宗輝)さんから譲り受けた日本の炭。クレシオさんは大事にとっていて、自分の茶事に使いたいと温存していたもの。次客のワンダさんは、この炭が珍しいという。
 菊のように、燃えて赤くなった炭の美しさは、見事なものである。後炭では、風炉中拝見という所作があり、正客から順に、拝見する。
 そうして薄茶に移る。クレシオさんは、煙草盆も二組持参して、この薄茶席に、キセル、煙草のキザミ、のついた煙草盆を席中に持ち出す。菓子は、日本の干菓子に、ブラジルのクプアスーの砂糖漬け。薄茶では、亭主に正客のファビオさんが自服をすすめる。亭主にとってこの薄茶は、至福の時だったかもしれない。こうして茶事が一巡する。送り礼の後、三々五々、散会する。
 今回念願の亭主をされたクレシオさんのことを紹介しよう。彼は医者で茶名「宗和」。ロンドリーナ、マリンガで、仕事の傍ら、茶道の指導に当たっている。茶事後に感想を彼に書いてもらった。彼の動機を記述しよう。
 彼のクリチーバ時代の師匠は、岩上宗輝先生。下のような不運な学生時代を、宗輝先生は、私学奨学金で彼を育てた。こうしてその弟子は、その恩をしっかり受け止めて、茶道に精進しているのだ。

【クレシオさんの茶事の感想】(原文ポ語、翻訳文)
 まだ大学生だった頃、僕の人生は行き先が全く分からない荒波の中の船であった。弟は癌で亡くなり、父もその一年もたつ前に交通事故で亡くなり、家族は経済的に行き詰っていた。
 個人的にはまだ若すぎると思いつつ、何をすればいいのかわからないまま、長男として家族を支えていかなければならないという責任を感じていた。
 このような状況の真っ最中、クリチバ市のとある茶室で、生まれて初めて正座をした。茶会のことは一切知らなかった。そのような世界があるとも! 歴史もわからない、ルールや目的はなおさら。それでも感じることができた! 僕の心を安らかにしてくれるほどの静けさ、嵐の後の落着きを感じ、悔み泣きが止まった。
 その瞬間、歩む方向性がはっきり見えた。茶道をやってみたいというより、どうしてもやらないと! お茶は私の支えだ! 以後、心のこもった、意義ある一碗を、親愛なる者へ捧げたいという気持ちがある。一服の茶で安らぎを取り戻し、僕の道が変わったあの至福の一瞬を少しでも感じてもらえればと。
 その目的を果たすため、自分の力の限り、お茶の世界を学んでいる。ブラジルで同じ道を歩んでいる者はごく少なく、(サンパウロ市)の裏千家からも遠く、亀のペースではあるが。
 幸い、二か月ほど前、茶事のお稽古にご招待を受けた。初めてであり、亭主の役割も与えられ責任の重い役目を受けた。幸福感と興奮の錯綜で立ちすくんでしまった。
 お稽古に大いに期待をおく一面、失敗の恐れに陥って日にちばかりが過ぎ去り、どのような形で行うことができるのやらと焦った。もうあと少し(本音を言うと後五日間)という時にベルタ先生と宗円先生の手助けでやっと会の形が出来上がってきた。
 点前やお道具の選択、灰を作るような実用的なことをしたり、茶室で必要なものすべて車に詰めて灰がくずれないように気を付けながら、住まいのロンドリーナ市からサンパウロ市まで7時間運転した。
 まずリベルダーデの文協で必要な荷物を降ろし弟の家で泊った。そこで後ほど主菓子に使うこし餡、煉り切りを拵えた(新鮮さのために最後に作った)。この過程は順調に流れていた気がする。
 そこで待ちに待った時が来た。朝方の四時に目が覚め、気が付き、ヒヤッとしてもう眠れなくなった。早目に茶室へ向かいお菓子を握り始めたが、緊張のあまり手がカチカチまるで関節症患者だハハハ!(一個ずつ)お祈りを繰り返しやっと出来上がった。
 しばらくして予期もしていなかったことが起きた。先生方に奥部屋に呼ばれ、初めての十徳をプレゼントしていただき、感動した。皆様からの期待が感じ取られ、その瞬間役目の重みを自覚した。
 kkkkk、これでまたもや体が緊張状態、覚えていたはずのすべてが空白になり、素人に丸戻り! それでも時計は止まらない、観客はいらっしゃる、会が(ぼちぼち)始まった。初体験の出来事、経験になったあれこれ。その一つ:胃に何も入れていない状態で酒を飲むな! 花火以上にすぐ上るぞ! 次のシーンがすぐさま想像できるだろう。
 正客からお酒を頂いた後、私自身お客の接待へ。冷や汗流しながら両足が震えるやkkkkkkkk。。。
 実はこの出来事までが大変で、思いがけないこと続きでした。緊張がほぐれ間もなく後座が始まった時、やっと本場への心構えができた。
 風炉の炭が燃え輝き、釜は素晴らしく茶室で鳴り響き、この雰囲気の中でお客に濃茶を点てた。
 最初にこの道にご指導頂いた岩上輝子先生を思い出し、20年前に先生から頂いた輪胴を私の初茶事に使わせていただいた。菊を想像させるような赤色で燃えながら灰になっていく光景は素晴らしく、 正に一期一会。
 最後に薄茶に移り、正客からのご提案でお客と一緒にお茶頂いた。全てが終わり、全員で一体感を感じながら思い出の写真を取っていただいた。
 私の心は安らぎに満ち溢れていた。
 ご招待した方々に私の感動やこの出会いが歩んできた道のりにとって、いかに重要な出来事であったかがかわからないが、一人一人のお客、また半東や先生方に感謝の心でいっぱいだ。
 ペンを置く前に次の方々へ感謝を申し上げます。正客の福田様、ご自服のリクエストで、この私にとって夢のようなひと時を、炭の前で少しでも長く続くように計らってくださったお心。
 次客のワンダー様、茶室の優雅な雰囲気をそのお着物と共に醸し出したご好意。
 お詰の橋本様、タイミングの良い間の一言や冗談で私自身の間違えや、つまづきを和らいでくれました。宗円先生、茶室への心のこもったご配慮。
 宗一先生、いつもの入念な繊細なご指導に、敬意を表します。
Klécio Sôwa O. dos Santos記

 このブラジルで、確実に、日本の心を持った茶人が育っている。侘び、さび、一期一会、和敬清寂、もてなしの心、あらゆる茶の理念を、肌で感じて実践している。すべて秀逸している。今回この茶人の、意気込みに非常に感動しましたので、ここに紹介しました。
※茶事とは、正式な茶会で四時間かかる。茶の湯の基本、集大成である。
 余談ですが、現在ジャパンハウスで、「窓学」の展示があっており、窓の多いことで有名な茶室、小堀遠州の『擁翠亭』のレプリカが展示してある。

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