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アジア系コミュニティの今(5)=パトロンに支えられる新聞=台湾編〈9〉

新聞社を支えるパトロンの名前が掲載された『美洲時報』

新聞社を支えるパトロンの名前が掲載された『美洲時報』

『美洲時報』の現況

 現在、『美洲時報』は週に2回、火曜と木曜の発行で、紙面はカラー10ページ。字はぱっと見て、全体に大きいという印象を受ける。
 1面はブラジルの中国(台湾)コミュニティのニュースで、カタリーナさんが執筆する。2面以降は、読者の要望に応えて、ブラジルのニュース翻訳が3ページ、中国・香港・マカオのニュース、国際ニュース、台湾の芸能ゴシップ、中国コミュニュティーの各協会からのお知らせ、読者寄稿と子供向けページ、台湾のニュースが各1ページで構成されている。
 「子供用スペースの漫画は17歳の孫が描いていたものです」と、プロ顔負けの腕前の絵を見て目を細める。 
 新聞はサンパウロ市リベルダーデ地区やセントロ地区のバンカや中国人の商店で販売されており、聖市内では配達、ブラジル全土へは郵送で配送を行っている。フェイスブックにも記事はアップされている。
 購読者は繁体字を読める台湾人、香港人、広東人が中心で、毎回印刷部数は1500部。
 「ブラジルに最初に移民した中国人は約200年前の広東人で、お茶栽培をするために渡伯しました。今も広東人の移民は繁体字を読み、『美洲時報』が読まれています」
 ブラジルにあるもう一紙の中国コミュニティの新聞『南美僑報(Diário Chinês para a América do Sul)』は簡体字で書かれ、政治に関するニュースが多いという。

『美洲時報』の事務所でカタリーナさんと筆者

『美洲時報』の事務所でカタリーナさんと筆者

パトロンたちに支えられて

 購読料だけの資金繰りでは新聞社の経営は厳しく、いつも頭を悩ませているカタリーナさん。『美洲時報』のスタート時からカタリーナさんを支えてきたのは、多くのパトロンだった。
 31年間、コミュニティのボランティア活動に従事し、ジャーナリストとして多くの人と出会い、純粋な気持ちで良いニュースを伝えてきた人柄が見込まれ、複数の出資者が経営を支えてきた。それらのパトロンの名前も新聞の1面に毎回記されている。
 「ジュースの『スフレッシュ(SuFresh)』、紙おむつの『ナチュラルベイビー』や『モニカ』、おやつの『エビセン(Ebicen)』など身近な商品のオーナーも台湾人です。他にも多くの成功者がいます」と次々と思いつく人を挙げるカタリーナさん。
 「台湾は戦前、約50年の日本統治で日本式の教育を受けたことで、よく働き、忍耐強く、他者に敬意を表すなど、日本人と性格がよく似ています。それに加え、日本移民はブラジルで農業に貢献し、ブラジル人から好かれ、台湾人も同じ東洋人として好かれたので、商売で有利になりました」

ブラジルと海外の台湾コミュニティ

 台湾人の海外コミュニティはアジア諸国が中心だが、米国にも約35万人、カナダにも約16万人が暮らすといわれる。カタリーナさんの見方では、米国やカナダに移民する台湾人は、留学後にそのまま居ついた人が多い。

『美洲時報』の子供用ページ

『美洲時報』の子供用ページ

 ブラジルはかつて「土地が広くて人口が少なく、移民にも商売でチャンスがある」というのが宣伝文句だったので、商売目的で移民する人々が多かったという印象。
 「米国やカナダに比べてブラジルは人種差別が少なく、人が明るく親切。治安の心配さえなければブラジルは楽園ですね」
 台湾の政治が安定して経済成長してからは、ブラジルから台湾に戻る人も目立つようになった。
 「良質の医療サービスを受けるのに、健康保険料の負担がかからない台湾に比べ、ブラジルは高額ですからね」とも。
 今も毎日5時半に起床して記事を執筆しているカタリーナさん。かつては徹夜して記事を書いていたが、年とともに長時間座っているだけで腰が痛くなるようになった。
 「いつまで生きるか分からないけれど、体の動くうちは、人を助け、世界を良くする活動を続けます」と、燦燦と輝く黄色のワンピースがよく映えるカタリーナさんは、今日も東洋人街を照らし続けている。(大浦智子記者、続く)

 

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