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繁田一家の残党=ハナブサ アキラ=(4)

 サラリーマンの最も悪い癖は、会社が面白くないとか仕事に不満があるとか、赤提灯で愚痴をこぼすことや。
 会社が面白くないなんて云わずに、会社を面白くすればいい。おやじや課長連中も寮生も「ハナさんが今度、何をしでかすかと毎日会社に来るのが楽しい」と、云うとったらしい。
 女子社員も朝出勤してきたら、未だワイは何もしてないのに、何事が起こるか期待感で楽しそうに掃除してた。
 42歳で米国大統領になったケネデイは「国が何をしてくれるかを期待せず、国に何を出来るかを示せ」といった。国も会社も同じこと。
 慰安会でも慰安旅行でも、おやじはワイを何時でも幹事に指名した。でんすけが出しゃばって司会をやってみても座が盛り上がらんので、いつも、おやじから選手交代の声がかかる。世の中なんて、おもろせなおもろならん、人任せでは何事も、おもろならん。
 おやじも「スポーツでもセックスでも観るよりは、やる方がおもろい」。同感! 戦後の日曜娯楽版みたいに、世の中おもろせんと不況のこの節、岡山では「おえりゃ~せん」云うとりまっせ。ほんに、どないもこないもなりまへんがな。

 ウイーンにある国際原子力機構(IAEA)勤務を目指し勉強中の、国立福岡中央病院放射線科の佐々木潔医長と内科医長とワイの3人で英会話の勉強をしていた時の事や。
 講師は米空軍板付基地の軍人の中学生の娘。せやけど黒人独特のなまりの上にタバコの本場ウインストン・サーレムの南部英語を習ってしまい、ちょっとまずかった。ほどなく基地返還に伴い帰国命令が出たので、この黒人家族を招き謝恩会を「芙蓉」で催した。
 松っちゃん、お勧めの「こつ蒸し」の鍋を囲み英会話の仕上げをしたが、ぼられた請求書を見たおやじから「外人に、こつ蒸しの味が判るか!」と、どやしあげられた。
 その後、おやじは松っちゃんが開業の際に「おやじ、黙って50万円貸してください」と頼まれたが、持ち合わせがないと断った。
「5万円貸せといわれたら、持ってないとは云えんから、よかったばい」。
 まさか骨蒸の恨みとは松っちゃん、ご存知あるめえ。
 そのくせ、おやじは我々寮生には「金出してやるからラーメンの屋台でも引け! サラリーマンなんか、いつまでやっても儲からんで~」と発破を掛けとった。誰もやらなかったが、おやじは10年ぐらい経ってから東京は新橋駅前のビルでラーメン屋をやったらしい。
 当時、日大芸術学部在学中で、おやじの次女のユミちゃんまで葱刻みに駆り出されたとか。子供の頃から料理屋をやりたかった、いかにもおやじらしい。
 慰安旅行も、バスで九州の観光地ばかりだったのが、おやじが来てからは豪華になり道後温泉に漱石を偲び、南国土佐で皿鉢料理に舌鼓を打った。お次は関釜連絡線で韓国に渡り、おやじ所縁の地を案内してくれるかと期待したが、それはなかった。
 高知の宿で宴会の後、ワイが酔い覚ましに仕舞い湯に身を沈めていたら、仁科が島田を口説くのが聞こえてきた。
「しまこ、愛しとっとよ」。
 こちらは茹蛸の様になっても湯舟から出るに出られぬ辛さ。ついに咳き込んでしまったら「誰か居る」と彼女がつぶやいた。

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