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連載小説

中島宏著『クリスト・レイ』第88話

「でしょう、マルコス。ということはね、みんな一様だと考えている像は、現実にはそれぞれが異なっているということになるわけでしょう。私が言いたいのは、その点なのよ。イエス キリストの像はすべてまったく同じで、それが世界中に普遍的なものだというふうには、決して断言できないのじゃないかしら。  確かに、一般論からいえばキリスト像は普遍的 ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第87話

「アヤたちの場合は、信仰するのがキリスト教である以上、その中心にあるのはいつも、イエス キリスト像であることは間違いないでしょう。その同じキリスト像が、たとえば、この僕が頭の中に持っているものと異質だというのは、ちょっと考えられないようにも思うのだけど、その辺は、実際にはどうなのだろうね。  つまりね、同じキリスト像でも、僕のと ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第86話

 そこにあるものは、ブラジルのカトリック教会とは変わった形のものであり、イエス・キリストの像にも、同様の変化を読み取ることができる。では、それはキリスト教のものではないかと問われれば、明らかにそこには間違いなくキリスト教が存在する。  しかし、同時にそこには、ブラジルのカトリック教会のものと一致しないという側面がある。少なくとも ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第85話

 クリスト・レイ教会を自分たちの手で完成させたというバイタリティも結局、そのように強靭な精神力から生まれてきたものなのであろう。その辺りは確かに、一般の日本人移民とは違っているのではないか。マルコスは漠然とながら、そのように考えている。  改めてクリスト・レイ教会を眺めてみて、彼はその意を強くした。  ほぼ、二十メートルに達する ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第84話

 だが、ゴンザーガ地区に集まってグループを作りながら生活している、隠れキリシタンの人々にとってこの出来事は、快哉を叫ぶというほどの雰囲気を持った、特別な高揚感を伴う一つの大きな事件であった。それは、彼らにしか分からない心境のものであったが、自分たちの信じているものを、この新世界である新天地で、はっきりした形として造り上げたという ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第83話

 プロミッソンの町について少し触れる。  “プロミッソン”はポルトガル語で、“約束”を意味する。もともとはここが、ノロエステ鉄道のエイトール・レグルー駅から始まっていったことは前述した通りだが、それが人口の増加に伴って町に昇格するにあたり、このプロミッソンの名前が付けられた。  その由来は、この土地がサンパウロ州ノロエステ(北西 ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第82話

 上塚が新たに植民地を創設するという話があちこちの地方の日本人移民たちに伝わると、多くの希望者たちが競うようにして集まって来た。その中には、今村の隠れキリシタンの人々も含まれていた。前述したように、この時点での移民たちは、まだ余裕などなく、分譲地であるにしても、それを即金で払えるという者はほとんどいなかった。そういう厳しい状況か ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第81話

 入植者たちの支払い能力を上げるにはまず、彼ら自身が何らかの利益を毎年挙げていかなければ、無理な話ということになる。だが、特にここの場合は、そのほとんどが大した経験もない、半分は素人のような農業者たちばかりであってみれば、最初からそれを期待する方がおかしいというべきことだったかもしれない。  事実、植民地としての形が整って、それ ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第80話

当時の日本では、同じような発想のもとに、朝鮮や中国への進出の流れが大きくなっていたが、上塚の考えは、世界というものを相手にするのであれば、それはアジアに限定するのではなく、もっと広く、ある意味ではもっと将来性のある西洋の文明が支配する国々に進出すべきだというものであった。そして、その実現の可能性があるのは南米なのではないか。それ ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第79話

 この植民地は、プロミッソンの駅から四キロ辺りの地点から始まり、ボン・スセッソ、ゴンザーガ、ビリグイジーニョの地区にまたがる、約一千四百アルケール(約三千四百ヘクタール)の土地であった。その大半が高地に位置し、平野植民地のような湿地帯はなかった。ゴンザーガ地区には部分的に低地があったが、そこは小川が絶えず流れ、水が淀んで湿地帯を ...

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