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連載小説

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(188)

 市場業者は貧しく、学歴も低いのに対して、お客さんは何でも買える立場にある。農民は都会人より恵まれない状況におかれている。ファニー先生はあの市場のマサユキに気づいたのに、ごくあたりまえにふるまい、優しく扱ってくれる。そのことがマサユキのフランス語習得にプラスとなり、クラスで一番の成績を上げる結果となっていた。友だちに「ボンジュー ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(187)

 マッシャードス区の正輝の家に集まるのはメーガーじいさん、子どもたちからぜんぷおじさんと呼ばれている平良ぜんぷ、国吉しんかん、サンパウロ大通りにマカロニ工場を持つ照屋、パステイス屋の大工廻(だくざく)と平良、田場けんすけ、以前田場から借りていた保久原のあとの土地を借りた川上、玉城などだった。  正輝家族が住んでいた家の後に入居し ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(186)

 また、正輝の家にメーガーじいさん、津波元一もよくやってきた。  サンパウロの留置所でともに過ごして以来、交流がますます盛んになった。メーガーじいさんは、今は家族的にも経済的にも恵まれた境遇にあった。子どもたちはみな成長し、末っ子のルイースはマサユキの同級生だった。石壁ではられたかどの広い家はもうすぐ建築がおわり、裏庭の石鹸工場 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(184)

 父は薩摩藩が二世紀半以上も、本心を隠ぺいして沖縄を支配してきたことを、ずっといい聞かせてきた。  ところが皮肉なことに、この国粋主義の男はアメリカが制作するある作品に計り知れない興味をもっていた。軍事力どころかその作品は世界を支配する勢いで広がっていった。それは映画である。  大きなスクリーン、出演者の動き、アクションや恋の場 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(1)

 移民は新潟県からきても広島県からきても、県が違うだけで、日本本土からきた移民といわれる。また、歴史的、地理的に条件のいい移民もいた。たとえば鹿児島県からきた移民は絆がつよかったし、徳川時代には中央政権からある程度自立していたので、移民についての制限が寛容でもあった。  しかし、沖縄出身の移民はまったくちがっていた。肉体的にも、 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(181)

 6月14日、午後1時に初めの3人の尋問を始め、その日以降は土、日を除く毎日同時間に起訴書にある名前順に、被告人が3人ずつ尋問を受けるはずだった。大変合理的なやり方といえる。カヴァリァル判事によれば、1週間に15人、1ヵ月に60人、順調にいけばわずか6ヵ月で全ての被告の尋問が終ることになる。  ところがことは予定通りに運ばなかっ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(180)

 その起訴状によると正輝を含む390人の被告についてこのように提示している。  「サンパウロ在住の日本臣民は世界大戦でブラジルを含む連合軍に敗れたにもかかわらず、自国の敗戦を受け入れることができず、臣道聯盟の名の元に、秘密組織を形成した。臣道聯盟はすでに戦時中から存在し、知識力の低い同胞の間に誤った情報を流していた。ほかにもチラ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(179)

 カルドーゾ・メーロ署長の報告書によると、8月22日、マセード・ソアーレス・サンパウロ臨時行政官に当てられた公文書には「ドゥトラ大統領は8月10日『望ましくない日本人を国外追放した』」という大統領令にサインした。しかし、同じ公文書には臨時行政官がそれを軍事裁判所にまわすようにと記されていた。それは1938年5月18日に発令された ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(178)

 このような話のもっていきようは正輝の心を捉えた。はじめに、とうてい信じられようもない神話を取りあげた。だが、次に「生長の家」の創立者はその神話に基づき、日本の国がどのように誕生し、日本人の思考がどのように形成されていったかを説いた。正輝が一番読みたかったことなのだ。そのうえ、その書は「八紘一宇」つまり、天下、全世界を一つに家に ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(177)

 谷口先生は他の宗教とちがって、「生長の家」が宗教でないということを主張された。したがって、ほかの宗教を信じる者を批判することはなかった。「『生長の家』は歴代の宗教を批判することはない。それどころか、各家庭で継続してきた宗教に従って、先祖をともらうべきだ」と著書に書いている。  「全ての宗教は世に光明をもたらすべく生まれた。いろ ...

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