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ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(終)=不可能に近い復帰だが=なんでも起こり得る国

5月7日(水)

 今回の取材に応じてくれた全ての人に「もし、〇六年にフジモリが大統領選に出馬したら、投票しますか?」という問いを投げかけてみた。
 「する」「しない」と即答した人は、以外に少なかったというのが感想だ。
 「対立候補による」「まず疑惑を晴らしてからだ」などの条件をつける人、「分からない」と明言を避ける人もいる。
 フジモリは以前、毎日新聞のインタビューの中で、〇六年の大統領選挙出馬への意志があることを明らかにし、「(不正蓄財疑惑で九二年に亡命した)アラン・ガルシア元大統領も最近帰国し、政治活動を始めている。私にも可能性は十分ある」と発言している。事実、ガルシア元大統領が〇一年の選挙で、決選投票まで残ったのも記憶に新しい。   
 松田サムエル氏は「今回の様々な問題とは別に、フジモリの功績は正当に評価されるべきだ」と話しつつ、フジモリ復帰に対しては「二度目はない」と見ている。
 松田氏は個人的な意見だがー、と前置きしながら話す。「もうペルーの政治には期待しない。誰にも、もちろんフジモリにもだ。ペシミストかも知れないけどね」
 多くの日系人は、フジモリの辞め方にはこだわっている。それは日本的イメージを政治活動に利用し、アピールしてきたフジモリが最終的には日系人の価値を貶めた、と考えているからではないか。
 「フジモリは日本人、日系人が百年かけて培ってきた『誠実』『正直』といったイメージをぶち壊した」という声も聞いた。
 さらに二重国籍問題についても、日系人が抱く感情は複雑だ。いやしくも、ペルーの大統領であった人間が亡命し、「私は日本人です」はないだろうー。
 丸井ヘラルド氏は「次期選挙に出馬するうんぬんの前に、彼には何があったのか全てを説明する義務がある」と話す。それは取材に協力してくれた日系人たちに共通する意見でもあり、ペルー国民の声ともいえる。
 フジモリが帰国することに関しては「また様々な問題が起きるかも知れない」という理由で否定的な見方をする人が多いのもまた、その歴史から見て当然といえるだろう。
 ペルー民衆の中にフジモリ待望論は存在する。しかし、彼の大統領復帰は、政治的基盤のないことや様々な疑惑に対して、フジモリ自身が説明責任を果たしていないなどの状況から見ても、非常に難しいといえる。
 そして、日系人の心情は単純に推し量れないだけに複雑だ。取材中、ある二世が笑いながら語った言葉が印象に残った。
 「今の状況では、復帰は不可能に近いといっていいだろうね。しかし、ペルーはなんでも起こり得る国でもあるんだ」
     ■
 今回の連載に関して、いくつかの点を付け加えておく。
 フジモリに対する様々な疑惑などについては現在、はっきりとした証拠は見つかっていないが、そのことがフジモリの潔白を証明する材料にはなり得ない。
 そして、現在ペルーで展開されている、マスコミの反フジモリ一色のような論調を受け入れる一般市民は多い。
 連載八回目の日系社会に対する様々な攻撃などは、フジモリ亡命直後に集中して起きたことで、現在はそのような状況にはないことを確認しておきたい。
 従って日本人、日系人がペルー国を旅行したりする際に、フジモリ問題を理由として、不愉快な目にあうことも皆無に近い状況だ。
 なお、現地取材に際しては、三山喬氏に協力いただいた。 (おわり・敬称略=堀江剛史記者)

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(1)=血と地の宿命の中で=懊悩する日系社会

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(2)=「フジモリ時代が懐かしい」=意外に多い支持派庶民

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(3)=「目立たぬように―」=1940年暴動 覚めやらぬ恐怖

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(4)=怖れとまどう日系社会=大統領当選の不安な前夜

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(5)=当選後も揺れ動く心情=祝電を喜べない地元日系人

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(6)=「フジモリイズムは永遠に」=選挙支援事務所 今年二月に開設

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(7)=フジモリ政権の遺産=捨てられた街パチャクテ

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(8)=亡命後 再燃する日系差別=「帰ってくるな」と語る2世

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(9)=フジモリが分らない―=戸惑いながら弁護する声も

■ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(終)=不可能に近い復帰だが=なんでも起こり得る国

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