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伯ジャーナリストが見た「日本の食」=五感で堪能した2週間=連載(1)=出汁巻き卵の味比較=塩気が利いているブラジル

2006年6月14日(水)

 国際交流基金が昨年十一月に実施した文化人招聘プログラム事業で、ブラジルから「Veja」誌の食文化ジャーナリスト、アルナウド・ロレンサート氏が招聘された。同氏は十五日間、日本各地をまわり、料理家や料亭、レストラン、食品メーカーなどを訪れた。このほど、「五感で体験した二週間」と題したその訪日記が基金の雑誌『遠近(おちこち)』に掲載された。ブラジルの食文化ジャーナリストの目に、「日本の食」はどのように映っただろうか。四回にわたり紹介する。

◇ブラジルと日本の食文化の違い

 二週間にわたり、私は日本の九都市を駆け巡り、食と文化が持つニュアンスを伝えてくれるたくさんの体験を得ることができた。
 食卓に供される食べ物ほど、その国民を表現するものはない。大衆食堂から洗練された料亭まで、日常的な漬け物から繊細な手づくりの和菓子まで、千年の歴史を持つ日本の食文化を幅広く楽しませてもらった。
 この間、私は日本の食べ物と、私の母国ブラジルで日本人とその子孫がつくる料理の類似性を探し求めてもいた。ブラジルでは一世から四世まで約百五十万人の日系人が生活している。
 日本人が笠戸丸に乗って初めてブラジルへ渡ったのは一九〇八年のことであり、今では世界最大の日系人コミュニティが形成されている。
 そのうち約四十万人がサンパウロに住んでいるが、私はその街で生活し、食文化ジャーナリストとレストラン評論家として仕事をしている。
 サンパウロは人口一千百万人を抱える大都市であるが、この街だけで約三百という驚くほどの数の日本食レストランがある。数が多く、いずれも名が知られているため、サンパウロの日本レストランだけで特別なガイドブックを作成する価値があるほどである。現在、その第二版まで出版されている。
 こうしたことから、一見、ブラジルの日本食と日本の現在の食事は共通しているように見える。しかし細かな点に目を向けると、その違いが明らかになってくる。
 料理は移民の手で別の土地へ運ばれると、多くの点で新しい土地に馴染んだものになる。これにはその国の食材を利用せざるをえない事情も関係するが、時間が止まることも影響している。
 つまり、移民たちの記憶にある古いレシピを正確に伝達することに重点を置くと、その料理の進化が止まってしまうのである。それは、遠い過去のものとなってしまった、古いかまど(竈)を再現するようなものであろう。
 このようなブラジルと日本の日本食の違いは、些細な事や日常の食卓で感じられる。その具体的な例として、塩がある。
 塩は、日本でも欠かせない調味料ではあるが、それほど多くは加えられない。しかし、日系ブラジル人がつくる料理では多く使われている。出汁巻き卵を例に取ってみても、日本では甘い味つけがされている。
 料理界の巨匠、辻静雄氏がその著書Japanese Cooking:A Simple Artに書いているように、砂糖は調味料全体の三分の二で、残りの三分の一は塩である。そのためとても甘くなっているが、対してブラジルでつくられる出汁巻き卵は塩気が利いている。
 さらに米などの主要な食材でも、こうした両国間の違いが出ている。日本の米粒はでんぷんを多く含んでおり、ブラジルのそれとはまったく異なった構造である。
 ちなみに、ブラジルで日本から米を輸入しているのは、非常に高級な日系レストランだけで、その米のほとんどは寿司をつくるために使用されている。つづく(原文はポルトガル語)

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