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プレ百周年特別企画

2007年10月25日付け

 下元を成功させた要因には、もう一つ、よく言われるような「運」があった。無論、その運の中には、死に物狂いで働き引き寄せた部分もあったであろう。
 しかし、その運も去るときが近づいていた。働きすぎた結果、健康を害したのである。
 一九五七年、日本から着いたコチア青年移民でカストロ在住の蓼沼敬次郎さんは、
 「サントスに着いた移民船から降りて、サンパウロに上がってきて、モイーニョ・ヴェーリョで下元さんと会った。下元さんは自分が(コチア青年たちを前に)話をする番でないときはコックリ、コックリしていた。疲れていたのだろう」と思い出を語る。
 モイーニョ・ヴェーリョというのはコチア郡内の一地域名であり、コチア産組発祥の地である。この頃は、組合関係の色々な施設があって会議用のそれもあり、ここで下元は、日本から着いたコチア青年たちと初顔合わせをしていた。 
 そのモイーニョ・ヴェーリョで、それからしばらくして、評議員(組合の地域代表)の講習会が開かれた。
 以下、再び前出の遠藤健吉さんの話。
 「一九五七年九月、その講習会の折、三日間、下元の親父が講師としてサンパウロから通った。阿部一郎さんが運転手をつとめ、私が付き添った。車の中で親父が阿部さんに話していた。
 『評議員というものは、その靴に土がつかなくなった時が一番怖い』
 後年、私が地方の倉庫=事業所=勤務になって組合員の農場を訪れるようになって(ああ、このことを言ったのだな)と判った。組合員がモノをつくっている畑へ行って直接話を聞かなければ駄目だ、という意味だ。倉庫には営農が上手く行っている人しか来ない。永年作物の場合、年に一、二回しか来ない人もいる。こちらから畑へ行くと心が通じ合う。
 以後、関係がスムースに行く。畑へ行けば、靴に土がつく。
 車の中で親父は、こんなことも話していた。
 『組合員から、コチアで、カフェーも扱ってくれと言われているけれど、俺は恐い。イモ(バタタの意味)やトマテや大根でつくった金では、カフェーを扱う国際商人の資本力には、とても太刀打ちできない。こちらも余程の資本力の蓄積が必要だ。国際市況を睨みながら、彼らと競合しなければならない。イモ一つ売るにも命がけなのに……』と」
 前出の栗原さんよると、下元は、「本当は、スケールの大きな国際商品をやりたかった。バタタのようなモノより……」と話していたという。コチアと言えばバタタ、バタタと言えばコチアと思われていただけに、これは意外な話である。
(つづく)

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