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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(31)

ニッケイ新聞 2013年10月25日

 西谷が驚いた顔で、
「えっ、今はバスが運行されているのですか! で、そのジョージさんの友人とは旅行社の方ですか?」
「いえ、刑事時代の相棒で、二年前までサンパウロ州の小さな町の署長をしていた奴です。如何したことか、今は、連邦警察の北方面の副司令官になっているんですよ」
 西谷が目を丸くして、
「へぇー、凄くお偉い方を知っておられるのですね」
「大した奴ではありませんが、ただ、何時も幸運なんです。これは奴から聞いた話ですけど、大学を出て州警察から連邦警察に移って直ぐに麻薬取締目的で酷い国境警備基地に配属され、それから一ヵ月後、その基地が麻薬組織に急襲され、死傷者がたくさん出たそうです。その時、奴はたまたま便所に入っていてただ一人無傷で助かり、重傷を負った指揮官から代行を任され、救助活動で大活躍して二階級昇進したそうです。奴はいつも『ウン』がいいんです」
「そんな幸運な方が友人におられるなんてジョージさんも幸運ですね」
「そう考えると、そうですね」
「ジョージさんは、友人等に全く妬みや、嫉妬心がない方ですね」
「そんな事ありませんよ。ボンノウでいっぱいですよ。あっ、もうゲートに入る時間です。西谷さん、中嶋さんをよろしく。中嶋さん、気を付けて」
「立派な法要になるよう頑張ってきます」
 西谷と作務衣姿の中嶋和尚はゲートへ通じるロビーの中に消えた。

 巡航高度に達した飛行機の中で、
「西谷さん、気になっているのですが、飛行機代は誰が?」
「私です。心配しないで下さい、ブラジリアの空港で乗継時間が凄く長いのですが、半額以下の激安チケットをジョージさんが探してくれました」
「ジョージは仏界の守りを固める『帝釈天(たいしゃくてん)』や『毘沙門天(びしゃもんてん)』のような方ですね」
「彼みたいな二世は、あらゆる分野でリミットがある一世の随一の理解者であり、日系社会の本当の守り神ですよ」
「彼は衣の下に鎧を付けている『帝釈天』みたいですね」
「衣の下に鎧とは、まさにシャツの下に防弾チョッキを着けた現代の刑事ですね」
「本当に元刑事のジョージさんそっくりですね。ひょっとすると『帝釈天』がジョージさんに化身して私を救ってくださったのかもしれません」
「とは?」

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