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W杯開催が問いかけるもの=ブラジルの底力発揮できるか=山積する障害、課題、問題

新年号

ニッケイ新聞 2014年1月1日

1930年のウルグアイ大会以来、第20回目となるサッカー・ワールドカップが6カ月後に迫っている。1950年の第4回大会に次ぐ、64年ぶり、2度目の開催となる伯国―― 12月6日の抽選以降、出場32カ国を中心に熱気が高まっている中で、大会中に伯国が直面するであろう問題、W杯が問いかける課題の一端を予測してみた。

大陸規模国家ゆえの

気温変化や移動距離の壁

国土の広さ故に生じる問題の一つは会場都市間の気温や湿度の差、移動距離といった壁だ。南米大陸の約半分を占める〃大陸規模国家〃ゆえに、会場移動は事実上、別の国へ行くのと同じぐらいの気候変化がある。

この問題は代表チームや報道関係者らがもっぱら直面する課題だが、1カ月続くW杯中、各選手は身体能力や技術と共に、精神や環境適応能力などが試される。

12月8日付エスタード紙は、各国チームが移動する距離と会場都市の平均気温を図解したが、クイアバの31・3度やマナウスの31・2度と、クリチバの8・7度やポルト・アレグレの10・6度との差に対応するには相当な適応力が要求される。

また、ナタル~マナウス~レシフェの5588キロや、聖市~マナウス~レシフェの5512キロを移動する米国やクロアチアのように、試合開催地間だけで5千キロを超える移動を余儀なくされるチームと、ベロ・オリゾンテ~リオ~聖市の726キロの移動で済むベルギーでは、疲れ方も違う。伯国代表にとっては、すでにブラジル選手権大会で経験済みで、日常的な移動に過ぎない。

当初は選手達の疲れを減らすために国内を四つの地域に分けるという案もあったW杯は、結局は全国を駆け回る形となった。練習場との往復もあるから、練習場の場所次第で練習効率や回復の度合いに差が出る。各国の練習場はまだ出揃っていないが、伯国はリオ山間部の慣れたテレゾポリスの練習場を改修中。これから雨期に入り、関係者は予定通りに完成するかを案じているが、「ダメならダメでジェイチーニョで解決」というのが伯国流か。むしろ、他国チームの練習場が問題なく確保出来、ホスト国としての責任を果たせるかが課題だが。

マニフェスタソンは?

抗議する動機は山盛り

一方、13年に開催されたコンフェデレーションズ杯期間中に起きたマニフェスタソン(抗議行動)も伯国が直面するであろう問題の一つだ。抗議行動の直接のきっかけはW杯やコンフェデ杯ではなかったが、ブラジリアやベロ・オリゾンテなどでは試合会場周辺での抗議行動も起き、肝を冷やした選手や応援者もいた。W杯本番中もマニフェスタソンが起きる可能性はきわめて高い。

試合の組合せも決まって世界中が盛り上がる中、観戦チケットの購入希望者は伯国人が一番多かったとはいえ、コンフェデ杯の時期に抗議行動を起こした人々は、W杯開催に向けた約束が守られなかった事などへの不満を隠せない。「世界に向けた試合中継はすばらしいショーになるが、開催準備に使われる公金は別な事に使われるべきだ」と冷めた目で見、考える人が多いのも事実だ。

伯国での開催は2007年に決まったが、通常より多い12都市での開催に決まったのは2009年。スポーツ相は「公金ゼロ投入」で会場建設と言い、大統領はW杯開催に合わせて道路や地下鉄、バスレーン、通信システムなどの建設や改修を行うと約束した。

ところが、肝いりのはずの道路や地下鉄などの工事は計画倒れに終わり、スタジアムの建設に必要な資金も優遇税制を敷いて融資したものが大半だ。

インフラ整備の遅れは顕著で、ポルト・アレグレでは10のプロジェクト中、本番に間に合うのはわずか一つというお粗末さ。しかも、本番後は無用の長物になると見込まれる施設すらあるなど、国民が不満を募らせる要素は山盛りだ。

だいたいインフラ整備はおろか、スタジアムですら3カ所以上で工期が遅れ、開幕までの完成が危ぶまれているのが現状だ。

実に64年ぶりの地元開催=盛り上がるセレソンへの期待

W杯年に経済減速記録か

世界平均以下の成長率?

W杯やリオ五輪の招致が決まった時、政府は伯国経済が上昇の一途にあるとアピールし、それを信じて投資した外国人投資家も多い。

だが、現実はそうではない。市場では、14年の国内総生産(GDP)の伸びは、13年の予想値(2%)以下との予想が飛び交っている。8日付エスタード紙によれば、このままでは伯国は「過去30年に三つしかない、W杯開催年に経済が減速した国の仲間入りする」との予測まで出ている。

W杯開催年に経済が減速したのは、1986年のメキシコ(前年は2・6%増だが同年は3・8%減)と1990年のイタリア(同3・4%増から2%増)、2002年の日本(0・3%増から0・2%増)の3国。

現在の金融市場の動きや金利の高さ、公共資産の基礎収支から貿易なども含む経常収支に至るまで、随所に見られる危険因子を総合して分析すると、14年の伯国は13年より経済が減速、W杯開催年の経済成長率が前年を下回る4番目の国になるとの見通しは濃厚だ。

また、14年のGDP成長率が2%以下なら、国際通貨基金が算出した世界の経済成長率の平均3・6%より低い成長となる。こちらは1982年のスペインと先の3国の4カ国に次ぐ、過去30年に「W杯開催年に世界平均より低い成長率の国」の5番目という不名誉なリスト入りとなる。

ブラジルの将来性を占う

総合力を問われるW杯

過去5回の優勝経験を誇り、過去19回の大会中、開催国の優勝は6回という有利な条件にプラスして、フレンドリーという国民性と、美しい砂浜やアマゾンの熱帯雨林といった天然資源や食文化、音楽など、観光資源には事欠かない伯国。だから本番が始まれば、代表チームのパフォーマンスも含めた魅力を見せ付けてくれる事だろう。

抽選の結果、決勝トーナメント第一戦と準々決勝ではスペインやオランダといった強豪と、また準決勝では1950年のブラジル大会決勝で負けた〃宿敵〃ウルグアイと当たる可能性がある。巷では、決勝はブラジルとアルゼンチン戦を期待する声も高まっている。

だが、組合せゆえに生じる困難を乗り越えた伯国代表チームが念願の6度目の優勝を成し遂げた時、国民の不満も少しは解消される事だろう。

前回優勝時から選手は確実に入れ替わり、新世代のネイマールなどのスター選手は確実に育っている。そんな選手陣に対する、フェリポン監督の国際経験豊かな采配は、コンフェデ杯ではうまく作用した。しかし、本番とコンフェデ杯はまったく別物との声も強い。

「2位以外は敗退と同じ」という極端にハードルの高い状況の中、選手育成、インフラを整備する経済力、大イベントを運営する組織力や計画性、政治家による統治能力など、ブラジルの将来性を占うあらゆる要因をかんがみた国家としての底力、いわば「総合力」が、このW杯では問われている。

今回起きたこと、明らかになった課題の大半は、2年後のリオ五輪でも繰り返されるに違いない。

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