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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(161)

「それで、場所を? 小川羅衆! 現場へ飛んでくれ」
《あっしが?》
「では早速、『運任雲』に乗ってもらいます」
《それだけはかんべんしてくれ~》
「如何してですか?」
《あれは事故ばかり起こして危険な雲だ!》
「羅衆の弱腰には困りましたね。中嶋さん、どうしますか?」
「別の雲『觔斗雲』(きんとうん)を用意しましょう。どうでしょうか黒澤さん」
 古川記者が、首をひねって、
「金とウン?」
「孫悟空が修得して、天宮を騒がし、飛び回った雲です」
「あの怪猿が乗った雲? あれは小説『西遊記』に書かれた空想の雲ですよ」
「そうです。密教では、意識の勝利と云って、小説家が創造するくらいは実現可能です。小川羅衆、蓮の上に乗って下さい」
《こうですか?》
「『七十二般変化』の中の『孫行術』(そんごうじゅつ)と、黒澤和尚に『六神通力』(ろくじんずうりき)の中の『神足通』(じんそくつう)を重ねてもらいます」
「では、えーいっ!」
《ヒェ~、!》小川羅衆は悲鳴を残して飛び去った。
 一分して、蓮の上の千里眼像の日本料理店の映像に小川羅衆の姿が現れた。
「何かを伝えようとしていますが、小川羅衆の声が聞こえません」
「精一杯です。『てん;天につう;耳通』の術を同時に掛ける力がありません」
《もっとエナルギーが必要であろう》
 現場に着いた小川羅衆も話しが出来ない事を察知し、日本料理店のメニューの表紙『新鶏』を指した。それを見た中川記者が、
「昔の『サントリー』レストランだ。オーナーが替わって、名前が『シントリ』に改められた・・・、場所はサンパウロのアラメイダ・カンピーナス街で、パウリスタ大通との交差点から二十メートルほど南に下った所です」
「奴はこのレストランも買収しようとしているようだ」そう言いながらジョージは本堂から出てアレマンに携帯で連絡した。
「(アラメイダ・カンピーナスの『シントリ』レストランだ)」
【(急行します)】
 古川記者は腕時計を見た。日付が三日間進んでいた。それに、十二時間進んでいる日本時間を思い出し、
「中嶋さん、大変です。二七日の三途の川まで一日しか残っていません」
「ええっ! どう云う事です?」
 黒澤和尚が、
「『六神通』の術は時間の歪みを利用した密教の秘技です。ですから時間が数十倍の速さで走る瞬間があります」
「中嶋さん、俺が死んで、羅衆になり、森口を討つ手があります」
「ジョージさんの強い意志は分かりますが、自決者は羅衆になれません」
「しかし、残された手段は、俺が羅衆となって森口を討つしかないんだ。そうだ! 小川羅衆が俺に呪い移って行動した時のように出来ないのか」
《小川羅衆がジョージ殿に呪い移った?! それで?》
「それで、女を抱く事が出来たんだ」
村山羅衆が目を丸くして、
《女を!》
「幽霊と云っても、奴も男ですからね。見逃してやってくれ」
 中嶋和尚が、
「ジョージさんを密教で生き仏にして、それから霊魂を引き出し、それを送る事は出来ないでしょうか? 如何でしょう黒澤和尚!?」

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