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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(174)=完結

 それから三年後、ローランジアで黒澤和尚から厳しい密教の指南を受け、印可状(認可証書)を授かった中嶋和尚は、サンパウロの東洋街の東の端に小さな『聖真寺』(架空)を創建、新しい宗派『聖宗』(架空)を開いた。
 『ポルケ・シン』食堂を逃げ出し、修行に出た『聖観音』は、誤ってサンパウロ市の北を流れるチエテ河に落ち、漂流しているところをサンパウロ市民に拾われ、サンパウロの住民の手を転々と渡り歩き、最後に『ポルケ・シン』食堂の前田氏の知り合いに発見されて、三年の歳月をかけて前田氏の手元に戻った。
 この冒険で懲りごりした『聖観音』は、前田氏の好意によって中嶋和尚創建『聖真寺』(架空)の本尊として奉納され、後日、他宗からも祝福を受け、らっけい;落慶入仏法要を受けた。
 落慶入仏法要から数日後、『ヒジリ観音』は『一つ、日本文化をブラジル文化とならしめん。二つ、ブラジルを安住の地にならしめん』の『二誓願』を立て、『麻薬取締観音』と『移住観音』の二つの異名も『地蔵菩薩』より賜りブラジルに居残る決意をした。
 それを知った南米四方とアマゾン方の武天となった梵名『武羅道流(ぶらじる)守天』と『天尊方(あまぞんぽう)武天』こと井手善一和尚が音頭を取って、『天尊先鋒拓団坊院』(てんそんせんぽうたくだんぼういん)の仏名を掲げて意気揚々と気勢を上げるトメアスの羅衆達、『インディオ羅衆団』と一緒に勇敢に戦って『ブラジル日系野戦羅衆団』の名を勝ち取ったトメアスの霊獣達、更に、ローランジアから戻って社仏合同型の祭壇に陣取って東洋街の『治安の守り神』に名乗り出た宮城県人会羅衆団が『聖真寺』(架空の寺)に一同に集まり、『ひじり;聖かんのん;観音』と中嶋和尚を祝福した。
 それから、中嶋、黒澤両和尚に代表される多くのブラジルに移住した和尚達がレストラン『ポルケ・シン』に集い、神道の神主、キリスト教の牧師代表も招待して宴会を開いた。
 ジョージ上村、西谷輝久宮城県人会副会長、ニッケイサンパウロ新聞の古川記者も出席、賓客として招待されたサンパウロ総領事の代理として西領事が参加、五年の任期を終えてのお別れの挨拶をした。
「海外の霊を弔う『聖観音』弔(とむらい)課を外務省の中に設ける案を提出しましたところ『もっと具体的にしろ』と建設的な指示が出ました」と述べた。

 それから三年、中嶋和尚は黒澤和尚から伝授された密教の極意と、生れつき持っていた六神通力を駆使して、過去の冥界を駆け巡り、日本人ブラジル移住百余年の間に冥界に取り残された日系移民の迷える霊達を次々と発見、その地に赴き、己で編み出した法義で、すねて意地を張る多くの哀霊達を救い出し、トメアスで妹の霊を探し求めていた霊獣との約束も果した。
 毎年六月十八日のブラジル日本移民記念日には、サンパウロ中心にある広大なイビラプエラ市民公園内の静寂な森の一角に、日系人を称えて譲渡された特別敷地にブラジル日本都道府県人会連合会の支援で建立された『日本移民開拓先没者慰霊碑』の仏式慰霊法要と、ブラジル日本文化協会とブラジル仏教連盟共催の『開拓先亡者追悼大法要』行事にも中嶋和尚が招かれるようになり、封建的な仏教界に中嶋和尚の努力が認められた。

『完』

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