移民節
作詞・佐々木重夫
ドラよ 霧笛よ 移民船
風に落ち葉の 行方とや
なれど燃ゆるか 胸に火の
海の彼方に 幸ありと
鉄道敷設の 枕木で
結ぶ故郷の 母の夢
さめりゃ 備(かた)えのピカレッタ
露に濡れては 手に重い
友は他州に 移り行き
南十字の 星影を
妻と仰いで 語りつつ
古里遠く 憶うのよ
植民地(むら)で育った 子や孫が
語るイッペの 花の色
移民老いつつ うたかたの
消えてこの地の 土となる
初期のブラジル移民佐々木重夫さん(1914~90年頃、宮城)が日本移民60周年記念に合わせて作詞した『移民節』が、日本の歌手・松田美緒さん(34、秋田)の手で生まれ変わった。ブラジル音楽「バイオン」のアレンジ(編曲)を加えてCD書籍『クレオール・ニッポン 歌の記憶を旅する』(A5版80頁、アルテスパブリッシング、3500円)に収録、昨年12月に発売された。松田さんは本紙のメール取材に対し、「今年は外交樹立120周年。100年前に生まれた日本人がブラジルで作った『移民節』を、ぜひ日系人にも聴いてほしい」と話した。
大学時代、日系ブラジル人の友人を通して当地日系社会に関心を持った。同じ頃、ポルトガル音楽「ファド」に傾倒、後に同じポ語圏の音楽であるショーロ、モルナ、サンバなど様々な音楽を身に付け、04年には活動の拠点をブラジルに移した。
10年までリオと日本を行き来しながら、日本移民百周年記念アルバム『ルアール』を含む3作のアルバムを制作。その後もポ・スペイン語圏の音楽を広く学び、現地の音楽家と交流した。「リベルダージなどで、日本で失われてしまった懐かしい日本を感じた」と当時を回想する。今は日本を拠点に南米や欧州、韓国など世界各地で公演を行う。
同CD書籍は、日本各地の伝承曲や、世界の知られざる日本の歌を集める企画「にほんのうた」の集大成。従来歌っていたポップ音楽などを、どこか借り物のように感じていた松田さんは、「日本にある根源的な仕事歌や祈りの歌をさがしたい」と企画を始めた。
『移民節』は、サンパウロ市文協の図書館でたまたま手にした『コロニア芸能史』で発見したもの。「短い詩の中に2つの故郷を生きる移民の人生が凝縮されていて、本当に素晴らしい。日本の多くの人が知らない世界を力強く表現している」と当時の感動を語る。
「ブラジル移民の歌を入れなければ、私の『日本のうた』は完結しない」と考え、宮城県にある佐々木さんの生家まで訪ねて歌詞への理解を深め、バイオン風にアレンジした。
「聴いた人の反響は大きい。日本は閉じられた島国ではなく、世界へ出て生き抜いた人たちがいたことを、よりリアルに感じてもらえると思う」と語り、「機会があれば、懐かしいブラジルに歌いに行きたい」と期待を込めた。この曲は松田さんの公式サイト(www.miomatsuda.com/blog/2014/12/)で好評公開中。
【大耳小耳コラム】
「〃日本の民謡を二、三世層へ〃と言う民謡協会の念願達成への道は確かに険しい。といって投げてはなるまい」(『コロニア芸能史』)と民謡の継承に心を砕いていた佐々木重夫さん。1978年に訪日した際、北海道民謡「北洋節」に乗せて自作の『移民節』を高松宮両殿下の前で披露した。よもやこの詩が、日本の歌手に継承されるとは思ってもいなかっただろう。ブラジル民謡協会の塩野彰会長も「(当地でも)移民節を歌う人はいないので、曲調は変わったが歌い継いでくれてありがたい」と喜んでいる。
◎
歌手の松田美緒さんが制作したCD書籍『クレオール・ニッポン』には、『移民節』のほか徳島県の平家の隠れ里・祖谷、隠れキリシタンが住んだ長崎県の伊王島、小笠原諸島父島、福島県の相馬、ハワイなどで歌い継がれてきた14曲が収録されている。いわばワールドミュージック風に編曲されたこの『移民節』はじめ、他の収録曲も動画サイト「youtube」で公開されているので、興味のある人はどうぞ。