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5月11日、上院で採決へ=灯せ、トンネルの先の明かり=テメル新政権、今週にも決定=駒形秀雄

 日本では明るい色でさくらが咲いて、長いお休みは続く。若い男が女の子と並んで料理を試食「ウーン、旨い」「おいしい」とニコニコ顔。TVをつけると豊かで平和な日本の姿が見えてきます。それなのに、ああ、私達の住むブラジルのニュースは暗い険しい話ばかり…。大物政治家が汚職で起訴までされているのに、「わしゃ、悪いことは何もしとらん」と白々しい顔で議場内を闊闊歩しています。国民や議会から「あんた、もういいよ」と言われている大統領は、国民の生活はそっちのけで「私は暴力には負けない。絶対引かない」と叫んでいます。どうも落ち着かない。一般大衆の商売はふるわない、仕事場を失う人が増えている、老人には健康不安が付きまとう、もう、先の見えない暗闇のトンネルに入っているような気がします。「大統領が代わるとか言っているが、一体この国どうなっているのか! 先が見える明かりが欲しいな」と皆の声です。さあこの辺、皆様と一緒に考えてみましょう。

 

もういいですよ、ジウマさん

まだまだ〃奥の手〃を駆使しているといわれるジウマ大統領(Foto: Lula Marques/Agência PT)

まだまだ〃奥の手〃を駆使しているといわれるジウマ大統領(Foto: Lula Marques/Agência PT)

 下院での承認を受けて、今度は上院で、大統領罷免特別委員会による「大統領を辞めさせるべきかどうか」を最終判断する弾劾法廷設置の是非を問う投票が5月11日に行われます。
 上院の総数81票の内、過半数(41票)が賛成すればジウマ大統領は、いったんその職を解かれ『休職扱い』となります。その後は規定により副大統領M・テメル氏が「暫定大統領」に昇格する訳です。
 ですが、上院内では既に50議員(票)が解職に賛成表明しているので、(天変地異でもない限り)ジウマさんの解職は確実と見られています。
 ただし、今後上院での審査の結果、何らかの理由で『ジウマは法規に違反していない』と裁定されれば、晴天白日、彼女が再び大統領に戻る可能性も全く消えている訳ではありません。

 

青天の霹靂、罷免審議の無効化?

突然、下院の罷免審議投票の無効化宣言を出したヴァウジール・マラニョン下院議長代行

突然、下院の罷免審議投票の無効化宣言を出したヴァウジール・マラニョン下院議長代行

 事実、青天の霹靂のように9日にはヴァウジール・マラニョン下院議長代行が突然、「4月17日の下院による大統領罷免審議継続投票を無効にする」という判断を下しました。あの歴史的なほどに白熱した下院全員の投票劇を、たった一人、しかも〃代行〃の判断で勝手に「無効にする」というもの。
 そのニュースを聞き、連邦議員ならずとも、いったい何が起こったんだと、みなが目を白黒させました。「ブラジルでは、まだまだ何が起きるか分からない」と痛感させる出来事でした。
 これを書いている9日午後3時時点では何の公式な裁定も出ていませんが、おそらく上院や最高裁判断によって、大統領罷免審議はそのまま継続されるのではないかと思われますので、それを前提に話を続けます。
 ジウマさんは11日、もし休職が決定したとしても現在の大統領公邸―アウヴォラーダ宮を引き払わず、ここを『反テメル、反インピーチマン』本部として抗争するとしていますので、テメル新政権には心臓部に突き刺さった矢、厄介な存在となります。ここで一つ、政治情勢に詳しいいつものカンベ氏の意見を聞いて見ましょう。
    ◎   
 カンベ=「ジウマ罷免の最終決定が行われるまで、最長180日も期間がある。この間、ジウマ支持勢力の抵抗で新政権が新しい政策執行を妨害されるとなると、国の政治が滞ることになる。そうなるとジウマ(PT)とかテメル(PMDB)とかで無く、ブラジルの国全体がまた停滞して、大きな支障が出る。ここはジウマも私怨は捨て、「国の発展のために」と云う大義名分を掲げて自ら身を引く選択をするべきだ。
 そうすれば自分の名誉と政治生命を保てることになるし、また、罷免審議の期間中に、自政権の悪行の数々を挙げつらわれることも無い。自分のためにも、国のためにも是非そうすべきだ。自ら言っていたように、『郷里に帰ってゆっくり孫の成長を見届ける』穏やかな余生を送るのも悪くは無いだろう」

 

新政権はどんな顔ぶれ?

取材陣が殺到するテメル副大統領(右、Foto: Anderson Riedel/VPR)

取材陣が殺到するテメル副大統領(右、Foto: Anderson Riedel/VPR)

 テメル(MICHEL・TEMER)さんはサンパウロ州チエテ市生まれ、76歳。元々はUSP法学部を出た弁護士ですが、下院議長など政治家生活が長いので、本業は政治家でしょう。
 テメル大統領が誕生すれば、1906年のロドリゲス・アルヴェス大統領以来、110年ぶりのパウリスタ(サンパウロ生まれの)大統領となります。選挙人人口も経済力もブラジル一のサンパウロなのに一寸意外な気もしますが、これ本当です。
 聖州出身者としては、ジューリオ・プレスチスは選挙で大統領に選ばれたが、ヴァルガスの1930年革命で就任を阻止された。ラニエリ・マジリ下院議長も2回(1961、64年)、各2週間ほど大統領代行を務めた。そのほか聖州のイメージが強い次の3人も生まれは違う。ジャニオ・クアドロスの生まれは南麻州、FHカルドーゾはリオ州生まれ、ルーラはペルナンブコ州生まれなんです。
 大統領昇格の可能性が出て来てから、テメルさんが準備を始めたことがあります。その一つは政治の安定です。折角天から貴重な政権を授かっても、議会の反対にあってその政策を実行出来なくては何にもなりません。自党PMDBの他にひとりでも多くを自分の側につけて、円滑な議会運営を図らねばなりません。
 その他党取り込みは目下、連邦警察や検察庁による数々の汚職撲滅作戦で〃実弾提供(お金)〃という手は使えないので、残された〃役職提供〃で勧誘する事になります。こうして工作が進み、未だ確定、公表ではありませんが、既に以下のような顔ぶれ(ポスト、党派、候補)が言われています(まだ、現職の大臣が働いているのに、ブラジルの人は、こういうところは素早く手を打つのですね)。
■財務大臣=メイレーレス(HENRIQUE・MEIRELLES)元中央銀行総裁で国内外で手腕が認められている。信用がある。
■外務大臣(国外通商を含む)=PSDB、セーラ(JOSE・SERRA)政治力もある。
■開発相=PSDB、タッソ。
■企画相=PMDB、ロメウ(党首)
■国防相=PMDB、マリス(腹心)
■都市相=PSD、カサビ(党首)
■運輸相=PR、マウリシオ
■保健相=PP。
■教育相=DEM
■統合相=PSB。
他略。

 この様にして小党分立で31もある党派の内、既に10以上の党との連携、支持を取り付けているとしています。なお、国防省のうち、陸、海、空、各3軍の長には留任の約束をして納めています。
 テメルさんは当初、新政権の〃変わり映え〃をはっきりと見せるため32もある省庁を統合・合理化して、20台に減らすとしていました。ですが、上記の様に多くの党派の支持を取り付けるためには、大臣などのポストを減らすことも出来ず、それは〃そのうち〃やることになりました。ああ、成る程。

 

景気を良くする手はあるか

 国民の不満は、ジウマの顔が気に食わないとか言うことでなく、「国の経済が縮小して失業者も増えている、この不況を何とか抜け出す方策はないのか!」というところにあります。
 ジウマと共に長年政界を見てきたテメルはそのことを十分承知しています。ですから、自分の政権では、この経済状況の改善、信用を落とす公的赤字の解消(削減)を最優先課題に据えています。
 その経済、財政政策の立案、実行の要には財務に精通し、経済界にも信用の厚いメイレーレス氏を起用します。同氏は未だ正式就任ではないので、政策、抱負などの発表はありませんが、非公式には、次の様な三大方針をとると言われています。

(1)公共支出のルールを変えて、支出に一定の制限(天井)を設ける。現在の赤字予算(967億レアルの大赤字)を減らす改定予算案を国会に提出する。
(2)大きな赤字の元になっている年金制度(特に公務員の)を改訂する。[但し、年金受給者の反発を考慮して、10月の地方選挙後とする]

(3)50種以上もある複雑な税制を改革、合理化する。懸念の税の新増設は行わない。

 これと別に企画相すじの情報として、今年中に国民総生産の伸び率をプラスに転換するとか、公共収支を2年以内に黒字化するとか、明るい話も流されております。これらの施策は今までも指摘されながら中々実行出来なかった案件も有り、「新政権への支持集め」とのにおいもしますが、とにかく経済に活気を与え、国の財政への信頼を取り戻す方策、と期待されています。
 中央銀行は「銀行金利を定める」「ドルなどの為替レート設定に関わる」「銀行の管理監督に預かる」など、その役割は重要で、その総裁人事にも注目が集ります。既に元中銀理事などの有力の候補が2、3挙げられていますが、その人選は財務相希望で同氏に一任することになっています。
 この様な政府側の手配のほか、新政権では民間企業、資本の活用も当然組み入れられます。公営企業の民営化、農業、牧畜業への投資支援策なども考えられています。
 特に世界的にみて需要が拡大する食料生産、食肉生産などはブラジルが特色を発揮出来る有望分野ですし、工場などから出される労働者層の受け入れ口にもなります。
 ヨーロッパで問題になっている戦乱難民などもヨーロッパから補助金つきで引き受けてブラジル内陸部で食料生産に当たってもらったらどうでしょう。テーメルさんもシリア同胞から感謝されると思いますね。
 サンパウロ出身、知識経験豊富なテメル新布陣で早く政治の混乱を収拾し、経済の振興に力を注いで貰いたい。そして、国民の望む平和な生活の向上に力を結集させる。今の真っ暗闇のトンネルの先に希望のあかりを灯したいものです。
 オリンピックも目前、希望を持って頑張ろう。FORCA BRASIL!―――

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