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世界的企業JBSが政界裏幕を暴露=今度はテメル大統領に爆弾炸裂=ブラジリアは改革放って右往左往=聖市在住 橘 馨

「ぜったいに辞任しない!」と声明を出したテメル大統領(Foto: Jose Cruz/Agencia Brasil)

「ぜったいに辞任しない!」と声明を出したテメル大統領(Foto: Jose Cruz/Agencia Brasil)

 5月に入って気候も良くなり、経済の面でも明るさが見えて来た。何ともパッとしないブラジルもこれで良い方に進むのかと期待していたら、おっとどっこい、行政の中心部に爆弾炸裂です。それで先週後半から大統領府の業務はストップ、政界の偉い先生方も右に走り左にあたりで、大混乱となっています。
 この全く考えてもいなかった爆弾騒動は、今度はブラジル一の食品会社JBSによる政界の舞台裏暴露証言で始まりました。テメル大統領の退陣となると、それまでの改革方策の頓挫、変更が予見され、政界、経済界の停滞をもたらすばかりでなく、私達一般国民の生活をも大きく揺るがすことになります。
 一体この世の中、何が起きていて、これからどうなっていくのでしょうか? 皆様とご一緒に情勢を考えてみたいと思います。

▼録音されていた内緒話

 5月17日夕刻グローボ系の新聞、TVは、テメル大統領をジャブル公邸に訪れたJBS社主バチスタ(JOESLEY BATISTA・ 以下JBSとする)と、家の主人との内密の会話の内容を一斉にスクープ報道しました。
 それは今まで不正行為には関与していないとされてきたテメル氏が、実は他の汚職高官と同様、地位を利用した不当な利益を得ていた、という内容だったのです。検察当局の指摘によれば―
★役職を利用して不正な金を受け取っていた。(JBSによるとテメルに少なくとも470万レアル払っていると)
★警察などによる不正摘発の捜査を妨害している。(JBSは拘置中のクーニャ元下院議長に不正口止め料として相当の金額を支払っていたが、テメル大統領はこれを是認しかつ「それでよい、今後もキチンと払うんだ」と答えた。
★違法犯罪組織結成に関与している。(汚職行為、資金の不正授受などの組み立てなど)その他、テメルはJBSが「関係官庁の幹部や裁判所の公務員まで自分のほうで手なづけてある」と発言したのに対し、これをとがめず聞き流し、大統領としての監督責任を果たしていない。
 また、JBSに対し、「話したいことがあれば、手続きの面倒な正式ルートを通さず、公邸のガレージから直接訪問して来てもよい」など親密さを伺わせる発言もしている。
 他方、これとは別にテメル政権を支えている有力与党PSDBのアエシオ(AECIO NEVES)党主との会話も録音、報道されている。
 アエシオが「自分の弁護士に払うのに必要だから、200万レアル払ってくれ」と要求したのに対し、JBSは即座に「OK。支払いは50万づつ4回に分けてしましょう」と了承している。
 JBSにすれば、会社と政権側の癒着を知っているアエシオにガタガタ言われるのは困るので〃口止め料〃として承諾したと思われます。
 さて、その50万レアルの4回の支払いですが、これが連邦警察の協力を得て、録画されていたのです。サンパウロのレストランなどで何回か場所を替えての出会い、現ナマの入ったバッグの中身、受け渡しの様子などが、TVで一般民衆向けに放映されました。
 そう、JBSはその前に司法に不正事実を隠さず供述する、違法分の罰金を払うなどの約束をして、それと引き換えに刑罰の軽減をしてもらうデラソン(DELACAO PREMIADA=司法取引供述)の合意をしていたのです。
 隠しマイクや相手に分らない録画の方法などは警察が協力していたのです。つまり「おとり捜査」をやられたということでしょう。
 こういう動かぬ証拠を突きつけられては、アエシオさんも堪りません。PSDB党の党首は交代させられ、上院議員は休職とされました。何とか逮捕、収監は免れましたが政治活動は禁止です。
 また、JBSと連絡をとっていたアエシオの腹心の姉や、現金受け渡しにかかわったアエシオの従兄弟は18日逮捕されて、現在留置所の中です。

▼泥船脱出は?/辞任などしないぞ!

秘密録音で賄賂要求していた様子が暴露され、休職を命じられたアエシオ上議(Foto Lula Marques/AGPT)

秘密録音で賄賂要求していた様子が暴露され、休職を命じられたアエシオ上議(Foto Lula Marques/AGPT)

 この様に、今この国の政治を取り仕切っているテメル大統領、それを支えている重要与党PSDBアエシオ党首の不正疑惑が明らかになって、政界及び関係業界は大騒ぎです。
 JBS録音の内容が明らかになってきた18日、証券市場は敏感に反応しました。「これではテメル政権は持たないかも知れない。少なくとも今まで推進して来た労働法改正、年金制度改革はストップするだろう。社会もまたまた選挙にデモ騒動では、折角よくなりかけた景気も一頓挫だ」との憶測が広がり、しかも同日午後にテメルが国民に向けて重要発表をするとの予告がされると、「これは辞任の発表だ」というデマも飛び、株価は平均で8%強の下落となり、取り引き停止となりました。
 為替市場にも変化があり、ドルが大きく値上がりとなりました。ただし、こういう業界にはすばしこい人が居て、この情報を事前に知っていて、ドルが安いうちに大量に買い、のち、高騰してから売り利益を得た例もあります。某社ではこの取引きだけで1・7億レアルの利益になったとのことです。
 政界の方も素早く反応したグループがあります。「テメルの船も結局、今までと同じ泥まみれの船か。こんな船に乗っていて、一緒に沈むのは嫌だ」と早くも泥舟脱出を宣言するグループが出ました。従来与党だったPPSとかPSB党で自党の大臣を引き上げ宣言さしたりしています。
 他方、テメル支持グループは政権継続に必死で自派の結束を固め、更に他党の動揺抑えに動いています。
 18日午後にはテメル自身がマスコミ会見を開き、「こんな個人的の会話の録音など真偽も分らぬ、公的証拠にならない。わしはブラジルの国を良くしようと全力で尽くしている。それを完成するためにも、辞任など絶対にしない! 辞めないぞ!」と断言しました。
 確かにテメル氏としては、悪い点ばかりが出て来たジウマ前政権の後を引き受け、景気の振興回復、旧い制度の改革を図り、一生懸命努力してきた。なのに、ここで背後から爆弾を投げつけられて怒り心頭。「こん畜生、後ろから切りつけるとは卑怯せんばん。負けはせぬぞ」という思いなのでしょう。

▼JSBってどんな会社?

世界的企業JBSのサイトにあるグループ企業の商品ブランド。誰でも見たことがある有名商品名ばかり…

世界的企業JBSのサイトにあるグループ企業の商品ブランド。誰でも見たことがある有名商品名ばかり…

 ここでちょっと話題をかえましょう。JBS社は世界でも有数な食品関連企業なのですが、国民一般の認識度は低いようなので、少し調べてみましょう。
 JBS社は1953年ゴヤス州アナポリスでJOSE BATISTA SOBRINHOにより創設されました。当初は田舎の肉屋に毛の生えたような店だったのですが、近所に新首都ブラジリアが建設されることになり、運が向いて来ました。JBSはこの新都市建設の現場、関係者に肉を供給し、首都と共に業容を拡大していきました。
 その後、2005年にアルゼンチンのSWIFTを買収したころから近代的食肉処理加工業での発展が始まりました。政府の政策的援助、国の開発銀行BNDESなどの長期、低利融資などを受け、国の内外の同業者を買収していったのです。
 以後、米国、オーストラリア、カナダなどの企業も買収して、ブラジル一の世界企業となりました。(詳細は別表参照)JBS社の現在の経営者はJOESLEY・WESLEY BATISTA兄弟で、その売り上げは1630億レアル、日本円で約5兆8千億円、プロ野球まで持つ日本の「日本ハム」グループの5倍近い大きさです。
 このJBSは政治家に金を出すことでも著名で、2014年の総選挙では28の政党、1829人の候補に計5億レアルの資金提供をしました。このうち当選した人の数は下議/167名、上議/28名、州知事/16人だそうです。
 話を戻して、今回JBSは司法・裁判所と話をして、デラソン(DELACAO PREMIADA)の合意を取り付けています。
 JBSは不法行為などの内容を包み隠さず供述し、また、違法行為に対する罰金を払い、これと引き換えに犯した罪を軽減してもらう合意(日本では「司法取引」という)です。
 前述のテメル、アエシオ等との会話の録音はJSBが独自の判断で行ったとのことで、また、ビデオ録画などは警察の援助を得て行ったそうです。今回の録音、録画、デラソン内容の一部公開は検察・最高裁の承認を得て行われました。
 今回のデラソンでJBSが約束した罰金の額は1億1千万レアル。JBS兄弟は身の危険もあり家族と共に米国に行きました。乗り物は自家用のジェット機です。
 それにしても1億レアルとは、我々が汗水流して一生働いても稼げない金額を払える、政治家に巨額の寄付が出せる。住み難くなればパッと住所をかえる、この国にはおとぎ話のような生活をしてる人がいるんですね!

▼で、これからどうなる?

17日晩、聖市パウリスタ大通りで行なわれたテメルへの抗議行動(foto: Roberto Parizotti CUT)

17日晩、聖市パウリスタ大通りで行なわれたテメルへの抗議行動(foto: Roberto Parizotti CUT)

 「うん、大体の状況は分った。それでこれからどうなるんだ。一体テメルは続くのか? 辞め(させられ)るのか? それにテメルがやりかけていた経済改善政策はどうなるんだ?」成る程もっともな疑問です。
 いずれにしてもテメル大統領及び、与党は政権継続に全力を上げるでしょう。労働法、年金法改訂も予定通り進めると強気です。そのためにも賛同する議員の取り込みに動くでしょう。
 他方、PT、共産党などを中心とする反対勢力は、「この前はお前らにやられた、今度はその敵討ちだ。自分が勝手なことをしておいて、後で咆えづら掻くな」と、ここぞとばかりテメル引きおろしに働くでしょう。
 さらにまた、政権につけばおいしい飯にありつけると分った別のグループが、「俺もつきたや、政権の座に」とチャンスを狙って出てくるかもしれません。正に「天下分け目の戦」となりそうです。最後に笑うのはどちらでしょう。
 ところで、テメル氏の行くべき次のステップとしては以下のような幾つかの選択枝が考えられます。即ち――
(A)【弾劾裁判】前回ジウマ前大統領が受けたように国会でインピーチメント(弾劾裁判)の裁きを受ける。(既に国会には8件のインピーチメント請求が出されている。また、全伯弁護士協会も独自にインピーチメント請求を決定した)
(B)【辞任】社会の混乱を避けるため、自ら辞任を申しでる。(わしは絶対辞めないぞ! と言ってきた手前格好は悪いが、機を見て直ぐ変わるのも政治家の特質の一つです)
(C)【シャッパ無効】6月6日に開始が予定されている選挙高等裁判所による前回選挙の有効、無効の判定を待つ。(この無効判定を請求したのは皮肉にもアエシオのPSDBです。ジウマール判事により無効と裁定されれば、「名誉ある撤退」が出来る)
 テメル氏の後任選びは連邦議員による間接選挙か、あるいは、国民全部が投票する直接選挙になるか? これも今のところはっきりしません。ブラジルは有り難いことに自由な国で、民主主義の国でもあります。各自が勝手なことを言えるのです。
 これを詳しく述べるには内容が多すぎて、残念、もう紙面がありません。お名残惜しいが、今回はここでお仕舞い。あとはまた次の機会に、と言う事でどうぞご勘弁ねがいします。

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